[5.6 J1第12節 浦和 2-1 横浜FM 埼玉]

 金字塔を打ち立てるたびにエピソードが増える。浦和レッズGK西川周作が6日、J1リーグ通算600試合出場の節目を勝利で飾った。現役選手では最多で、歴代でも元日本代表で672試合出場のMF遠藤保仁氏、同じく631試合出場のGK楢崎正剛氏に次ぐ史上3人目の快挙。2-1の勝利で記録に花を添えると、試合後は数々の奇遇に笑みを浮かべた。

 まずはデビュー戦だ。「自分がデビューしたときも横浜F・マリノスが相手だった」といい、大分でのプロ1年目、19歳になったばかりの2005年7月2日に横浜FM戦で初先発した時のことを思い出していた。

 続いての奇遇はACLだ。1年前の5月6日は浦和がアルヒラル(サウジアラビア)との決勝を1-0で制し、3度目のアジア王者に輝いた日。試合前には昨年ACLで優勝した時の映像を見て、自らを奮い立たせたことを明かし、「ちょうど1年前、自分たちはACLを獲った。しかも天気も非常に似ていて、風が強くて、その中でも勝ったという良い思い出があった」としみじみ言った。

 そして、奇しくもこの日の相手の横浜FMは、5日後の5月11日にアルアイン(UAE)とのACL決勝第1戦を控える立場にあった。西川は「僕らもまたあの場所に戻ってACLを獲りたい。だからマリノスの選手には『ACL頑張って』とメッセージを伝えた」と言った。

 偶然はこれだけでない。この日、横浜FMのゴールを守ったGKポープ・ウィリアムのJ1デビューは大分に所属していた21年4月25日の浦和戦。奇しくもその一戦では、1週間前にあったセレッソ大阪戦でJ1通算500試合出場を果たした西川を称えるセレモニーが行われていた。「僕の500試合(セレモニー)の時、ポープは大分のゴールを守っていたんです。それをポープが言ってきて『あ、そうだったね!縁があるね』という話をした。ACL、頑張ってほしいですね」とエールを送った。

 それにしても限界を見せる気配がまったくない。それは、22年に浦和にやってきたジョアン・ミレッGKコーチの教えによって技術や思考を一から見直し、それによって今なお成長を続けているからだ。

 ポジショニング。シュートを受ける際の構え。パンチングなのかキャッチなのかなどのプレー選択。失点後の気持ちの切り替え。この日は終盤に横浜FMから猛攻を受けて惜しくもシャットアウト勝利は逃したが、74分にはFWヤン・マテウスの鋭いシュートをセーブするなど、好プレーでゴールを守った。

「この2年間の積み重ねが、考えなくてもできて来ている。試合中は良くないプレーがあっても気にすることなく、頭の中で切り替えができている。落ち着きながら闘えているところは強みだと思っていますし、たとえ失点しても慌てることがなくなった」

 その言葉通り、以前は見られた失点後の攻め急ぎがなくなった。ただ、こういった成長は西川が謙虚に自分を見つめ、進取の気性を発揮しているからこそ実現していると言える。

「ジョアンが来て、考え方が少し変わった。2-1にされたとしても、向こうが前掛かりになる分、逆にこちらにチャンスができるのではないかと考えていた。メンタル的な部分でポジティブに考えることで、特にGKはみんなに落ち着きを与えることができ、良い攻撃につながると思う」。だからこそ「600試合は通過点でもある」と言い切れるのだ。

「僕の理想として、できるだけ長くやりたい」。2位の楢崎は1年後に、1位の遠藤も2シーズン後に超えていける可能性がある。しかし、西川は言う。

「記録よりも、西川周作が引退するときに、みなさんの記憶に残るプレーヤーでありたい。みなさんの頭の中にどうやって残るかは分からないですけど、優勝してなのか、特長があるGKだなとか、何かしらいいイメージで残りたいと思っています」

 浦和はこれで5勝2分5敗。五分に戻した。「勝ったり負けたりでもどかしいが、やっていることは良い方向に向かっていると思う」。守護神が力強く言った。

(取材・文 矢内由美子)