明らかになった経緯の詳細

ドジャース大谷翔平選手(29歳)の口座から不正送金を繰り返したとして、銀行詐欺の容疑で訴追された水原一平容疑者(39歳)。カリフォルニア州連邦地方裁判所に提出された告訴状には、大谷選手のカネを盗んだ手口や、胴元とのやり取りが生々しく記されていた。

告訴状を提出したのは、日本の国税庁にあたる「IRS」(内国歳入庁)の特別捜査官。カリフォルニア州連邦地方裁判所が4月11日(日本時間4月12日)に受理した37枚に及ぶ告訴状には、水原氏がギャンブルで借金に溺れていった経過が詳細に記されている。

犯行手口などは水原氏や違法賭博を開催した胴元のスマートフォン、不正送金に使われた銀行の記録などから調べたものだ。HSI(国土安全保障捜査局)はドジャースが水原氏を解雇した翌日の3月21日(日本時間3月22日)、韓国から国際便でロサンゼルス国際空港に降り立った水原氏を取り押さえ、携帯電話の履歴を調べる同意書を取りつけていた。

告訴状に書かれた内容から、水原氏が違法賭博に染まり大谷選手のカネに手を付けていった経緯を報告する。

水原氏が違法賭博に関わったのは2021年9月。胴元2から違法賭博サイトにアクセスするための情報を教えられたのが始まりだ。水原氏に与えられたアカウントは数字の「35966」。早速、賭けを開始し、胴元との間でこんなメッセージを残している。

「くそっ、全部失ったよ(笑)」

「毎日24時間試合のあるサッカーの賭けで遊んでいるよ(笑)。UCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)に賭けたけど、完璧に負けちゃった!!!」(2021年9月24日頃)

負けが込んだ水原氏は11月、支払いのために被害者A(以降、大谷選手)の銀行口座から4万ドル(約612万円)を引き出し、電子送金サービス「ペイパル」を使って関係者Bに送金する。口座から引き落とされたのは11月15日で、これが不正送金の始まりと見られている。この日は奇しくも、大谷選手が東京千代田区の日本記者クラブで会見し、「お世話になったのは(水原)一平さんじゃないかと思います」と話した日だった。

そのわずか約3週間後にも5万ドル(約765万円)を送金。年が明けた1月に胴元に送った以下のメッセージを見ても、水原氏が違法賭博の深みにハマるまで時間がかからなかったことがわかる。

「すべてカネを擦った。胴元1に私のアカウントをリロードしてもらえるよう頼んでもらえないだろうか?」(2022年1月2日頃、胴元2に送信したメッセージ)

「くそっ、全部失ったよ(笑)。胴元1に50万ドル(約7650万円)のバンプ(信用枠で掛けができる上限)をお願いしてもらえませんか?それで負けたら、しばらくはこれで最後にする」(1月15日頃、胴元2に送信したメッセージ)

「スポーツ賭博って苦手だよ(笑)」

2月になり、水原氏が賭けに負けたうちの30万ドル(約4590万円)を振り込むと、同じ月に胴元1が水原氏に「(支払いが)大変だったろうから、掛け金の必要ない『フリープレイ』をあげるよ」と、さらに深みにはめるよう仕向ける。

同時期に水原氏は「賭けで無謀になりすぎてしまうから」との理由で、信用枠を30万ドル(約4590万円)から10万ドル(1530万円)に下げてもらったが、これでギャンブル熱が収まることはなかった。水原氏が賭けに勝つこともあったが、賞金は大谷選手の銀行口座に戻さず胴元から自分の口座に送金してもらったことが、銀行の記録などから分かっている。

水原氏が100万ドル(約1億5300万円)以上の損失を抱え込んでも、胴元は掛け金の上限を増やし続けた。この頃には水原氏も自分に歯止めが効かなくなっていた。

「スポーツ賭博って苦手だよ(笑)。バンプを上げてくれない?知っての通り、私が支払わないことを心配する必要はありません!!」(2022年11月14日頃、胴元1に送ったメッセージ)

「最後のバンプとして20万ドル(約3060万円)もらえないかい?アメリカに戻ったら一度返済するけど、それまでの頼みとしては母に誓ってこれが最後だよ」(2022年12月9日頃、胴元1に送ったメッセージ)

億単位の損失を抱えながら「支払いの心配は不要」と胴元に言い切る水原氏。こうした言動は、大谷選手の銀行口座のカネは自分の物と捉えていたと考えないと説明がつかない。水原氏が信用枠を上げてもらうための胴元への交渉は、さらにエスカレートする。

「また負けた(笑)」

2023年6月22日頃

水原氏「また負けた(笑)。最後のバンプをもらえませんか?これで負けたら、しばらくは最後にするよ」

胴元1「OK,私の賭博開催パートナーの期待にこたえるために、彼に毎週50万ドル(約7650万円)を送ることを想定できるなら、いくらでもバンプするよ」

6月23日頃

水原氏「最悪だ、休みが取れない・・。最後のバンプをもらえませんか?損失を支払うまでこれが最後の頼みだと誓うよ」

胴元1「OK,問題ない。了解」

6月24日頃

水原氏「問題が起きた(笑)。最後の最後の最後のバンプを貰えませんか?真剣な頼みです」

胴元1「了解(げんこつマーク)。イッピー、毎週月曜日に50万ドル(約7650万円)(の振込み)を保障してもらえるなら、いくらでもバンプを上げるよ。再度言うけど、私のパートナーとの間で清算しなければならないんだ」

イッピーと愛称で呼ぶことで親しみを見せながら、ギャンブルの深みにハマらせようとする胴元1。半面、水原氏の負けが込んで返済が滞ると、こんな脅しをちらつかせることもあった。

「ヘイ、イッピー、なぜ電話をかけてくれないんだ。いま、ニューポートビーチにいて、大谷選手が犬の散歩をしているのが見える。このまま返事がなければ、どうすればお前に会えるのか聞きに行ってもいいんだぞ。すぐに電話をよこせ」(2023年11月7日頃)

「お前が忙しいのは知っている。だけど、少しは敬意を見せる『義務』があるだろう。何時でも構わないから、今晩中に電話しろ」(2023年12月15日頃)

水原氏の借金が膨れ上がり滞納が続いたことに、今年に入ってから胴元はついにしびれを切らす。

「これですべて終わりだ」

胴元1「お前は事態をコントロール不能な状況に追い込んだ。今日中に連絡がなければ、私の手に負えなくなる」(2024年1月6日頃)

これに対し水原氏はこう答える。

「2日前に日本から戻り、また明日、出発するところです・・・。1月中旬に戻ります。今は本当に苦しくて、支払いを始める前に少し時間が必要なんです」(1月6日頃)

そして3月、ロサンゼルス・タイムスが大谷選手の口座から違法賭博の胴元の関係者に送金された事実を報じる。胴元1は水原氏に「全部デタラメだ。お前は金を盗んでいない」とメッセージを送るが、水原氏からの返信にはこう書かれていた。

「実際には盗んだんだ。これですべて終わりだ」

胴元1の記録によると、水原氏が行った違法賭博は約1万9000回。勝ちは約1億4200万ドル(約217億円)、負けは約1億8200万ドル(278億円)で、負債は約4067万ドル(約62億円)に及んだ。大谷選手の銀行口座からは少なくても1600万ドル(約24億円)が無断で送金されたことが分かっている。

大谷選手が違法賭博に関係したかについて告訴状では、「関与していたことを示す証拠は見当たらない」としている。その理由として上げるのは、2020年から24年までに大谷選手と水原氏が交わした約9700ページに渡るテキストメッセージを確認したところ、スポーツ賭博の話や胴元の振込先に関する話は一切なかった。

そして、大谷選手が違法賭博サイトにアクセスした記録や、水原氏に不正利用された自身の銀行口座に携帯電話からアクセスした記録も残っていなかった。

巧妙な仕掛けの数々

そもそも大谷選手は、水原氏に自身の銀行口座の管理権を一切与えていないことが明らかになっている。それでは、水原氏はどうやって大谷選手の銀行口座から不正に送金できたのか。口座から大金を送金する場合には認証が必要になるうえ、口座名義人が登録したメールに確認のメールが送信されるのが普通だ。

この点に関しては、水原氏が電話で大谷選手になりすまして銀行からのチェックをかわしていたことが銀行の通話記録からわかっている。例えば、水原氏が大谷選手を装って車のローンの支払いのために胴元へ送金したいと告げたときには、不審な送金と判断されて口座を凍結されている。

だが、この際にも水原氏は大谷選手を装って他の行員と通話をし、凍結を解除するための秘密の質問に無事に回答することで口座を再び動かせるようにした。

その上、銀行から連絡が届くメールアドレスも水原氏によって変更され、大谷選手には銀行からの通知が届かないようになっていた。変更したアドレスは大谷選手のメールに良く似せた文字列を使用するなど、バレないように巧妙な仕掛けをしていたと言う。こうしたことができたのも、銀行口座を開設する際に通訳として同席したのが水原氏で、大谷選手の銀行口座に関する基本的な情報を知っていたからだ。

その場しのぎのウソの数々

大谷選手の代理人チームには会計士やファイナンシャルアドバイザーなどがいて、会計上の理由から大谷選手の銀行口座を確認したいと何度も水原氏に申し入れていた。

しかし、不正送金が発覚するのを恐れた水原氏は、「大谷選手が自身の銀行口座を非公開にすることを望んでいる」とウソをついた。大谷選手が同席するはずだった会計士との打ち合わせでは、「大谷選手は体調不良でこられなくなった」と自分一人で参加し、その場をしのいでいたと言う。

大胆な水原氏の銀行詐欺の手口を日米のメディアがこぞって報道しているが、これだけ詳細な捜査情報が分かるのは米国の裁判記録が公開制だからだ。一部の非公開措置が取られたケースを除き、裁判所に電子ファイルで提出された書面はすべてオンラインを通じて入手することができる。21年に元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告に関する捜査内容が日本のメディアで詳細に報じられたのも、この公開制度を利用したためだ。

水原氏は4月12日(日本時間13日)、足錠を付けられた状態でロサンゼルス連邦地裁に出廷。大谷選手に接触しない、賭博に関わらない、ギャンブル依存症のカウンセリングを受ける3つの条件を受け入れたうえで2万5000ドル(約380万円)の保釈金を支払い保釈された。有罪が確定すれば最高で罰金100万ドル(約1億5300万円)及び、禁錮30年の刑が言い渡される可能性があると言う。次回の出廷は5月9日になる予定だ。

・・・・・

禁錮刑が下された場合、水原氏はアメリカの刑務所でどのような生活を送ることになるのか。関連記事『水原一平容疑者を待ち受ける「アメリカのムショ暮らし」がヤバすぎる…!イジメが横行し、ボコられる日々』では、彼の厳しい今後について、詳しく報じています。

水原一平容疑者を待ち受ける「アメリカのムショ暮らし」がヤバすぎる…!イジメが横行し、ボコられる日々