[画像] 日本酒 需要が高まる米国で、缶入り日本酒に賭ける日本発スタートアップ蔵元

日本酒はここしばらく米国のアルコール市場で活況を呈しているが、新興ブランドのサマーフォール(SummerFall)はレディ・トゥ・ドリンク(すぐに飲める)缶入りのスパークリング日本酒を発売して、この需要の取り込みを狙っている。

米国での日本酒人気の高まり



この発売の背景には、米国で日本酒カテゴリーが急成長していることがある。業界団体の日本酒造組合中央会によると、日本の日本酒輸出量は2012年から2022年の間に年間約1400万リットルから約3600万リットルと、2倍以上に増加している。

ここ数年はカリフォルニアとニューヨークにスタートアップの醸造所がいくつか登場している。2023年現在、米国は中国についで第2位の日本酒輸出市場である。

サマーフォールは、日本酒に関心はあるが何をどう飲んでいいかわからない初心者にエントリーポイントを提供したいと考えている。サマーフォールの最初の大手小売チェーンはエレウォン(Erewhon)だ。サマーフォールはエレウォンで日本のフレーバーとのんびりした西海岸のブランディングの融合を目指している。

日常に気軽に飲める日本酒を米国市場に



サマーフォールは、稲川琢磨氏が設立したパリを拠点とする酒造会社、Wakazeが所有している。稲川氏はサマーフォールとWakazeのCEOだ。同氏はレディ・トゥ・ドリンク商品に関心を示すかもしれない新規顧客を獲得するために、米国向けブランドとしてサマーフォールを立ち上げることにした。

Wakazeは1年ほど前からフランスで造った日本酒を米国に輸入し始めた。米国でレディ・トゥドリンクのブランドを展開するために、親会社のWakazeは2023年1月にシリーズBラウンドで760万ドル(約11億円)を調達し、これまでの資金調達総額は1000万ドル(約15億円)となっている。

稲川氏によると、ほとんどの米国人は日本酒というと寿司のディナーやフォーマルな会食を連想するという。サマーフォールの発想は「気取らない」日本酒商品を販売することだと彼は語る。「若い世代にとっては、日本酒は非常に複雑に感じられる。だからこそ、味とデザインを際立つものにしたかった」。

今月、サマーフォールはD2Cサイトとエレウォンの5店舗で発売される。それらの店舗ではすでにWakazeの取り扱いがある。稲川氏によると、今月のウェブサイトでの発売には現在2100人のウェイティングリストがあるという。「バイヤーに売り込んだのだが、持ち帰り形式は従来のボトル入りの酒とは異なるポジショニングになるだろうと言われた」。現在は今年の展開に向けて、酒屋チェーンや個人店との取引の準備が進んでいる。

スパークリングワインに近い日本酒になった理由



缶入りレシピは、低アルコール度数の缶入りのレディ・トゥ・ドリンクのカクテル、そしてもちろん日本酒など、成長中の飲料トレンドに対応している。Wakazeのボトル入り日本酒はフランスで醸造されているが、サマーフォールのスパークリング日本酒は、カリフォルニアを拠点に、地元産の米を使いワイン発酵法を用いて造られている。このプロセスにより、サマーフォールの商品は従来の日本酒よりも酸味が高く、スパークリングワインに近い。

稲川氏は、昨年アメリカでWakazeのテイスティングを始めたとき、多くの顧客がすでに日本酒になじみがあるにもかかわらず、日常では飲む機会がないのに気づいたという。「日本酒は愛されているが、1本30ドル(約4500円)という価格は高すぎるかもしれない」。また、開封後は数日以内に飲み切らなければならないという点もあった。「そこで、もっと小さな形式にし、日本食レストラン以外の場所で飲めるようにして、米国人の好みに対応した」。

アジア系の飲料カテゴリーの増加



蒸留酒業界の専門家グループであるインダストリー・コレクティブ(The Industry Collective)の創設者、テイラー・フォックスマン氏は、「ここ数年、これまで見てきたイノベーション、特に飲料業界の新興ブランドにおけるイノベーションを考えると、私はアジアの飲料カテゴリー全般に対して楽観的に考えている」とモダンリテールに語る。その例には、サンゾー(Sanzo)スパークリングウォーターや、ユズやライチなどのアジアのフレーバーに特化したネクターハードセルツァー(Nectar Hard Seltzer)がある。

フォックスマン氏は、愛飲家からは飲んでみたいと思う斬新な新規ブランドがますます求められていると付け加える。「日本酒は一般的に知られている」と述べ、業界参入を目指すサプライヤーにとってはエキサイティングな時期であると語る。親密なディナーからクラブやバーまで、「日本酒はオケージョンに対しても非常に用途の多い商品だ」。

稲川氏にとって、サマーフォールの立ち上げは消費財スタートアップを経営する上でのクラッシュコースでもある。「新興ブランド向けの消費財業界があるとは知らなかった。これは日本にもフランスにもないので、私にとっては何もかもが初めてだ」。

サマーフォールは全国の顧客にサービスを提供するためにD2Cチャネルを立ち上げている。だが、マーケティング戦略はブランドを中心に業界の話題を築くために、当初は実際のイベントや配布に注力するものとなる。

レストランやイベント会場での取り扱いを目指す



稲川氏は、D2Cの成長だけではこの業界に大きな変化をもたらすのには十分ではないため、今年の目標は缶入り日本酒を有意義に扱ってもらえる卸売取引先にサマーフォールを紹介することだと語る。そのような取引先とはイベント会場や規模の大きい屋外施設のあるバーやレストランだ。ほかには、フルバーは設置してないものの、アルコール入りセルツァー以外のレディ・トゥ・ドリンクのプレミアム飲料を提供したいと考えている施設での販売の機会などがある。

「人々は日本酒をフォーマルな状況において目にすることが多いので、日本酒をレディ・トゥ・ドリンクとしてスタイリングすることはその状況以外で日本酒を披露するのに役立つ」と稲川氏は語った。

[原文:As U.S. sake demand rises, new brand SummerFall bets on ready-to-drink cans]

GABRIELA BARKHO(翻訳:ぬえよしこ、編集:分島翔平)