京都大学(左)と大阪大学(左写真:りえ/PIXTA、右写真: けいわい/PIXTA)

数学を使った世の中の仕組みを知ることで、物事を見る視野が広がります。今回は中学数学で学ぶ「ねじれの位置」について、現役東大生の永田耕作さんが解説します。

「ねじれの位置」は中学1年生の数学で学ぶ

2月25〜26日に国公立大学の2次試験の前期日程が行われました。そこで話題になった数学の問題がありました。京都大学、大阪大学で「ねじれの位置」に関する問題が出されたのです。とくに大阪大学では、ねじれの位置のそのものの定義、あり方を問うような問題となっていました。

「ねじれの位置」は、中学1年生の数学で学習する単元になります。そのため、問題のレベルとしてはそこまで高くありません。

が、多くの受験生は高校で使用した教科書や参考書を用いて受験対策を行います。だからこそ、多くの受験生にとってノーマークであり、「定義を忘れた」「なんとなくわかるけど証明ができない」と問題の難しさを嘆く声が相次いで挙がりました。

この「ねじれの位置」、実は世の中にあふれているのです。まず、ねじれの位置の定義を確認しましょう。一言で説明すると「平行でもなく、交わってもいない2つの直線の位置関係」です。といっても、言葉ではあまりピンとこないと思うので、直方体を使って考えてみましょう。


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まず辺ABと「平行」な辺を考えてみると、辺DC、そして辺EFが見つかります。少しわかりにくいかもしれませんが、辺HGも該当します。このように、辺ABと平行な辺は、辺DC、辺EF、辺HGの3つになります。

次に辺ABと「交わる」辺はどうなるか考えてみましょう。これは非常にシンプルで、点Aで交わっているものが辺AEと辺AD、そして点Bで交わっているものが辺BCと辺BFであることが図からわかります。よって、辺ABと交わる辺は辺AE、辺AD、辺BC、辺BFの4つになります。

このどちらにも登場しなかった辺がありますよね。例えば、辺DHを見てみましょう。この辺は辺ABと平行でなく、交わってもいません。このような辺のことを、「ねじれの位置」と言うのです。他にも、辺CG、辺FG、辺EHも辺ABとねじれの位置の関係になります。

これで直方体にある12個の辺すべてが登場しました。ここからわかるとおり、2つの直線の関係は、「平行」「交わる」「ねじれの位置」の3種類しかないのです。

ねじれの位置は2次元には存在しない

そもそも、ねじれの位置は平面上、つまり2次元には存在しません。実際に紙に直線を書いてみたり、頭の中でイメージしてみたりするとわかりやすいのですが、同じ平面上にある2つの直線は、平行でない場合は必ずどこかで交わります。2つの直線の間の距離が少しずつ縮まっていき、どこかで0になるからです。

少しも縮まらない場合は、それはまさに平行であることを意味します。だからこそ、ねじれの位置にある2つの直線は、「同じ平面上には存在しない」のです。

ねじれの位置についてわかっていただけたところで、今年の大阪大学の入試問題を見てみましょう。

問題:座標空間の直線lとz軸はねじれの位置にあるとする。lとz軸の両方に直交する直線がただ1つ存在することを示せ

これは実はとても興味深い問題なのです。X(旧ツイッター)でも問題に対する反応や考察が相次いで投稿され、トレンドにも入るほどの盛り上がりを見せました。

共通垂線を扱う問題はたびたび登場していたが…

もともと高校数学において、ねじれの位置にある2つの直線の「共通垂線」を扱う問題はたびたび登場していました。

「垂線」というのは、ある直線と直角で交わる直線のことを意味しており、さきほどの直方体であれば直線ABの垂線は直線AEや直線BFなどが挙げられます。直方体においては、交わっている2直線はお互いがお互いの垂線の関係になっています。この垂線の定義を踏まえれば、共通垂線とは、両方の直線に直行で交わる直線、つまりこの入試問題の定義と全く同じであることがわかるでしょう。

このように聞くと、おそらく多くの人が、「そんなに頻出な問題なら、話題にはならないのではないか」と思うことでしょう。しかしこの問題の肝は、「1つしかないこと」を証明する部分にあるのです。つまり、この問題で存在すると言われている直線について受験生はみんな知っているが、ほかにこのような直線があるかどうかは議論されてこなかったのです。

有名な単元でありながら、多くの受験生を悩ませる「盲点を突く」ような問題が出されたことに、僕は感動すら覚えました。

この「ねじれの位置」の考え方は、世の中のあらゆる場所にあります。その最たる例が、「高架駅」です。高架駅とは、プラットホームや改札をはじめとした駅の設備が高架の構造物上に存在する駅のことであり、代表的なものだとモノレールの停車駅などが挙げられるでしょう。

高架駅を一度イメージしてもらえるとわかりやすいと思うのですが、これは道路とは交わることがなく、方向によっては平行にもならない向きに線路が走っています。よって、高架駅の線路と地上の道路はねじれの位置になるのです。

皆さんは、「連続立体交差事業」という言葉を聞いたことはありますか? これは、もともと地上にあった線路を高架や地下に切り替え、道路と線路が立体交差をしている状態をいくつかの駅にまたがって新設する事業のことを意味します。

もちろん、この工事には莫大な時間と労力と資金がかかります。しかし、今この事業は東京の京王線や、名鉄名古屋本線、京阪本線など全国各地で幅広く進められているのです。

道路と線路を「ねじれの位置」にする目的

道路と線路を「ねじれの位置」にする目的には、「渋滞緩和」と「事故防止」の2つが挙げられます。

道路と線路が地上で交差する場合、そこに踏切が設置されます。電車との衝突を防ぐために、余裕を持って踏切の遮断機は下ろされます。すると、場所にもよりますが長い渋滞の原因となってしまうのです。

事故防止の観点も非常に大きいことが推察されます。国土交通省のデータによると、鉄道事故のおよそ9割が踏切とその付近で起こっているようです。その事故を、道路と線路を立体交差に、つまり「ねじれの位置」にすることで解消できるのであれば、推し進めるべきだという意見も納得できるでしょう。

駅の高架化は、渋滞や事故の解消だけでなく、騒音問題の解消や排気ガスの削減にも大きくつながります。ねじれの位置は、思いがけない形で世の中に役に立っているのです。

(永田 耕作 : 現役東大生・ドラゴン桜チャンネル塾長)