埼玉大学(写真:: route134 / PIXTA)

2024年2月25日と26日に、国公立大学の入試(前期日程)が実施されました。今年も多くの大学でさまざまな問題が出題され、例年の傾向どおりの大学もあれば、出題傾向に変化があった大学もありました。

そんな中で、今年の入試問題の中で、驚きの問題が出題されました。埼玉大学の入試問題で、なんと2022年度とまったく同じ問題が出題されたのです。

英語の第3問・自由英作文の問題なのですが、問題文が2022年度と一言一句まったく同じなのです。

会場で受けた受験生も戸惑った

試験会場で解いていたという受験生は「まさかと思って、自分の問題文だけ2年前のプリントの残りが出されたんじゃないかと心配だった」と話していました。

いったいなぜ、埼玉大学は「まったく同じ問題」を出題したのでしょうか?本記事では、この問題と「大学入試の問題」について考察していこうと思います。

まず、問題文はこちらになります。

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問題を日本語にすると「政府は宇宙の探索(例えば、月や他の惑星への旅行など)にできるだけ多くの資金をかけるべきだと考える人がいます。これに対し、政府はこのお金を地球上での基本的なニーズのために使うべきだと考える人もいます。あなたはこれらの2つの意見のうちどちらに賛成ですか?答えを裏付ける具体的な理由と詳細を使用して答えてください。」になります。

問題文の英語自体はそこまで難しくありませんが、大変なのはこれについて「英語で答えること」だと言えます。120〜150字というかなり長めの自由英作文の問題ということで、なかなか難しいですね。

さて、この「宇宙探索について」の意見を求める問題は、埼玉大学に限らず、多くの大学入試で似たような問題が出題されています。

知識量で太刀打ちできない良問

2012年の早稲田大学の政治経済学部でも、「次の文章を読んで、賛成か反対かを、最低でも2つ以上の理由と併せて英語で答えなさい。『Space exploration is a waste of money.』」というような問題が出題されています。大学入試において、「宇宙探索にお金をかけるべきか否か」についてはよく出題されていると言えるのです。

その理由としては、宇宙探索に関しては「反論」を作るのが難しいからだと言えます。この問題は、知識量で対応できない良問なのです。

「宇宙探索は重要だ!」という主張と「宇宙探索はお金の無駄だ!別の大事なものにお金をかけるべきだ!」という主張にはどちらにも正当性があり、片方の立場を取るとしても、ディベートのようにきちんと反論できるようにしなければなりません。

例えば「宇宙探索にはロマンがあって、科学研究の推進力になるはずだ!」と主張するにしても、きちんと「現実的に地球にはもっと緊急性の高い問題が多いじゃないか」という意見に対する反論も用意しなければなりません。

今回東大生たちにも解いてもらいましたが、複数の理由を挙げるのがなかなか難しい、という声が多かったです。(東大生たちの解答はこちら)彼ら彼女らの話を聞くと、付け焼き刃の知識ではなかなか対応できない良問だったと言えます。

さて、だからといって「まったく同じ問題を出題する」というのはどんな意図があるのでしょうか?

実は過去にも、似たような事例はありました。東京大学の日本史の問題で、以下のような問題が出題されたことがあったのです。

次の文章は、数年前の東京大学入学試験における、日本史の設問の一部と、その際、受験生が書いた答案の一例である。当時、日本史を受験した多くのものが、これと同じような答案を提出したが、採点にあたっては、低い評点しか与えられなかった。なぜ低い評点しか与えられなかったかを考え、(その理由は書く必要がない)、設問に対する新しい解答を5行以内で記せ。(1983年度第1問)

同じ問題に対する答えを書かせる、という点では、今回の問題と同じです。そのうえで、ご丁寧に「採点にあたって低い評点を与えた答案」が添付されていました。

大学側にとって入学試験は、「受験生のそれまでの努力や知識量・能力を測るもの」ですよね。そう考えると、大学側として「いい入試問題」とは、「それまでの努力や知識量・能力に応じて、解ける人と解けない人がはっきり分かれる問題」だと言えます。

きっと、今回の埼玉大学の問題も、1983年の東京大学の問題も、「解ける人と解けない人がはっきり分かれた問題」だったのではないでしょうか。

埼玉大学は入試過去問題活用宣言に参加

なお、今年度の埼玉大学の入試要項には、『本学は、「入試過去問題活用宣言」に参加しており、個別学力検査において、本学だけでなく「入試過去問題活用宣言」参加校の過去問題を利用する場合がある。』との記載がありました。

「過去問とまったく同じ問題が出題された!」とSNSでは話題になりましたが、埼玉大学は事前に入試要項でも記載しており、それに則って出題したのだと思われます。

さて、多くの人は「過去問を解いている人が有利になる試験を出題していいのか?」という疑問もあると思います。

過去問を解いていない人が不利になるから、不平等じゃないか?と。しかし、塾や予備校が予想問題をたくさん作り、毎年「どれくらい的中したか」がネット上で情報として公開されている現代において、「一般試験における平等性」というのはどこまでいっても担保し切れないものです。

逆に今回の問題の出題意図を考えると、「2022年に埼玉大学では宇宙探索についての英作文問題が出題されたから、数年は同じテーマの問題は出題されないだろう」という分析を行った受験生や先生・塾や予備校の関係者を出し抜く問題だった、という見方もできるかもしれません。

「過去問で出たからといって、もう出題されることはない」という予想を裏切ったという意味で、これからの予想を難しくし、逆説的に今後の入試の平等性を担保した問題だったと言えると思います。

過去問の勉強は徹底的にしたほうがいい

いかがでしょうか? 個人的な意見を言わせていただくのであれば、今回の問題は「出題としてアリ」だと感じました。受験生の中には、「過去に出題された問題はもう出ないから、あんまり力を入れなくていいや!」と過去問を軽視する人もいます。

しかし、今回のような問題が出ると、「やっぱり過去問の勉強しなきゃな」と考えて過去問を見て、「自分が行きたい大学は、どんな問題を出題しているのか、どんな人材がほしいと考えているのか」をしっかり考えて受験勉強をするようになると思います。

いずれにせよ、受験の歴史に一石を投じる、伝説的な一件だったと言えるのではないでしょうか。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)