埼玉県川口市を中心に問題となっている地元住民とクルド系住民との軋轢。「クルド人が治安を乱している」という指摘が出る中、ある動画がSNSで拡散された。隣接する蕨市で行われた外国人排斥を訴えるデモに対し、クルド系とみられる人々が抗議の声をあげているが、その中で「日本人死ね」と言っているように聞こえると指摘されたのだ。

【映像】クルド系とトルコ系の住民による小競り合いの様子(去年7月)

 一般社団法人日本クルド文化協会は「死ね」とは言っていないと発信。「彼が言っているのは“病院へ行け。レイシストは精神科へ行け”です。“日本人死ね”ではありません。私たちがそんなことを言うはずはありません」(一般社団法人日本クルド文化協会のXから)。

 騒動はこれだけではない。去年7月には、殺人未遂事件をきっかけに、関係者のクルド系とトルコ系の住民など約100人が搬送先の病院前に押し寄せ小競り合いが勃発。逮捕者が出るなど地元住民の不安が高まっていた。

 市議会でも一部外国人への取り締まり強化を求める意見書が出る動きもある中、こうした軋轢はどのように解決するべきなのだろうか。『ABEMAPrime』で議論した。

■“日本人死ね”疑惑に川口在住クルド人「その言葉を口にしたくもない」

 クルド人(クルド民族)は、トルコ・イラン・シリアなどに2500〜3000万人が暮らすとされ、「国を持たない最大の民族」とも言われる。日本では正確な統計はないが、約2000人が居住するみられ、多くが埼玉県の川口市と蕨市に暮らす

 2004年に来日したトルコ出身クルド人のユージェル・マヒルジャン氏は、「僕たちの親世代が日本に来た。クルド人は家族とともに暮らし、離れて住むという考えがあまりない。家族や友人がいたり、言葉がわかるので頼れる。クルド、トルコ、ウズベキスタンなど言葉が似ているので、みんなが集まってくる」と話す。

 デモ現場での「日本人死ね」疑惑については、「その言葉を口にしたくもない。今回、クルド側を守りたい日本の方が、デモの参加者に対して“日本から出ていけ”“差別するな”と言っているのを聞いた。また、1人のクルド人が“国に帰れ。変な外人”と言われた時に、“病院に行きなさい、精神科に行きなさい”と参加者に言い返した。相手の表現が良くないから、病院行けば治るんじゃないか?という意味合いだ。僕らは国を持たず、この平和な国に住ませていただきたい、と頭を下げてお願いする立場。そこで“日本人死ね”なんて言えない」と説明した。

 一方、一部外国人の取り締まり強化について賛成の立場を取る川口市議会の荻野梓議員は「あそこに参加していた川口市民は何人ぐらいいるのか?と思う。普通に暮らしている方々は、駅前になんでこんな警察がいるんだろう、なんでこんなにうるさいんだろう、なぜ巻き込まれなきゃいけないんだろう、と恐怖心を抱いたと思う」と述べる。

 住民からは「改造車での暴走、煽り運転」「荷物を積みすぎの大型トラックが通学中の子どもの近くを走る」など命の危険に対する声や、「集まって大声を出す」「刃物を持って公園を歩いている」といった声も上がっているという。

 マヒルジャン氏は「トルコ地震の影を受けて、日本に来た人はこの1年で1500人ほど増えた。日本にいるのは2000人と言われているが、あくまで役所に住民登録をしている人。難民で来た人は登録されていないし、実際には4000人以上だと思う」とした上で、「問題が起きるのは決していいことだと思っていない。クルドのみんなに日本のルール、マナーを学んでほしい。一方で、日本は人口が減っていく中で、外国人をどう受け入れるかを考えていくべきかなと思う。多くの議員さんも今回の問題に頭を悩ませているが、クルド人に接して、ハグや握手をして、どう共に生きていくか考えるべきだと思う」と述べた。

■EXIT兼近「日本に来て“知らなかった”で済ませるのはよくない」

 取り締まり強化について、荻野氏は「外国籍の方は犯罪をしない人がほとんどだが、一部がピンポイントで目立っている。警察に見過ごされているということはないが、言語の問題で意思疎通や取り調べが難しいという課題はある。その壁を越えて、日本人と同じように取り締まって欲しい」と述べる。

 これにマヒルジャン氏は「警察は外国人と日本人で分けず、あくまで“犯罪をした”ということで取り締まる。外国人だから特別にというのはおかしい。夜中に暴走族が走っているのが嫌なのは僕たちも同じ」と反論。

 アメリカ出身のパックンは「職務質問をされた経験があるのは、僕とマヒルジャンさんぐらいだろう。外国人っぽい格好・見た目だけで声をかけられ、“日本人”と言えばスルー、“日本在住の外国人です”と言ったら職務質問が始まる。これが取り締まりの玄関口で、外国人に対する現状は厳しい」との見方を示す。

 お笑いコンビ・EXITの兼近大樹は、「日本に来て、文化や習慣がわからない中で、善悪の判断ができずに逮捕されてしまった人はいると思う。ただ、周りの住民は怖い思いをするので、“知らなかった”で済ませるのはよくない。日本のルールを教える環境がないと同じ問題は続くし、一部の人がやったことなのに“クルド人のせいだ”と全体が被害を受ける。そこを整えて初めて受け入れられる日本になるし、それができなければ受け入れてはダメだと思う」との考えを述べた。

 共生について、荻野氏は「難しいとは全く考えていない。むしろ川口市は力を入れているし、できている方だと思う。子どもは、どんな国籍の方であろうと小学校、中学校に来ていただきたい。“起立・礼・着席・掃除”という独特の文化を、4週間かけて学べるという制度も用意している」と主張する。

 マヒルジャン氏も「共生はできる」と答えた上で、「埼玉で年間1000億円の売上がある建設会社をクルドの人たちが経営している。税金も払っている。僕たちは朝5時半に起きて、“悪いことしよう”ではなく、“今日どうやって頑張ろうか”と考えて、川口のために、より良い日本のために頑張っている人材だ。僕らに心を開いて認めてもらいたい」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)