化学メーカーで勤務を行う傍ら、経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。
さて、今回は株式会社イトーヨーカ堂の業績について紹介したいと思います。

近年では首都圏の店舗にフォーカスし、アパレルでは業界3位のアダストリアと組むなど様々な集客施策をとっていますが、現在の施策で再起するのは難しいと筆者は考えています。閉店が相次ぐ理由と、近年におけるヨーカドーの戦略についてまとめました。

◆北海道・東北の全店舗を閉鎖…

2月9日、同社は北海道・東北・信越地方のイトーヨーカドー17店舗を閉店すると発表しました。北海道は札幌店や帯広店、東北は青森店や福島店などが該当し、閉店によってこれらの地域から完全撤退することになります。

17店舗のうち7店舗はロピアやスーパーバリューなどのディスカウントストアを運営するロピアに譲渡され、東北の2店舗はヨーカドーと同じセブン&アイHD傘下のヨークベニマルに譲渡されると報じられています。

北海道で展開する6店舗のうち、札幌店と帯広店は現地地盤のスーパーチェーンであるダイイチが引き受けるようです。ちなみに株式会社ダイイチの株の3割を株式会社イトーヨーカ堂が握っています。

◆ヨーカドーが衰退した主な要因2つ

上記地域からの撤退は大きな話題となりましたが、ヨーカドーの規模縮小は以前より続いていたことです。商品売上とテナント料を含む営業収益は1999年2月期の1兆5,452億円をピークに減少が続き、16年2月期には1兆2,896億円、そして最新の23年2月期には1兆695億円まで落ち込みました。店舗数では16年2月期末時点の182店舗がピークで、23年2月期末には126店舗となっています。そして、23年3月には地方の店舗をさらに閉店して首都圏にフォーカスする方針を発表し、26年2月期末時点で93店舗という目標を掲げました。

以前の記事で紹介した通り、ヨーカドーが衰退した主な要因は大型ショッピングセンター(SC)の台頭と、安価なアパレルチェーンの台頭の2点にあります。イオンなどの郊外型SCは街を歩くようなレジャー感もあるため集客力に優れ、ヨーカドーを筆頭とするGMS(総合スーパー)の客を奪っていきました。

後者に関しては、ユニクロやGUなどがあげられるでしょう。GMSの主な収入源は食品と衣料品であり、ヨーカドーの衣料品売上は価格競争力とファッション性に優れるアパレルチェーンに奪われました。2010年度時点でも2,500億円以上あったヨーカドーの衣料品売上高は14年度に2,000億円を下回り、18年度は1,500億円程度となりました。そして、23年3月には自社直営アパレルからの完全撤退を発表しています。今回の北海道・東北・信越からの撤退はユニクロやGUを擁するイオンに客を奪われたことが原因と考えられ、まさに上記2つの影響をもろに受けた形です。

◆「自社アパレル」は完全撤退するが…

ヨーカドーはコロナ禍以前より「SC化」を進め、自社販売のコーナーを減らしテナントを誘致する方針に切り替えました。GUやノジマなどが店舗に入居するようになったのもSC化が進んだためです。その上で最近ではヨーカドーの今後について、以下4つの方針を決算資料で発表しています。

(1)アパレル事業完全撤退(食品へのフォーカス)、(2)首都圏店舗へのフォーカス、(3)運営会社の統合再編(イトーヨーカ堂とヨークの統合)、(4)戦略投資インフラの整備です。

(1)に関してはあくまでも自社アパレルの完全撤退であり、衣料品コーナーを無くすわけではありません。ヨーカドーはアパレル3位の「アダストリア」と手を組み、専用ブランド「FOUND GOOD」の専用コーナーを設置しています。