タワーマンションが林立し人気の湾岸エリア。人口が増える中で、タワマン住人を目当てにおしゃれな店は増えているが、町中華のような気取らずに普段遣いできるような店は決して多くはない。最近、月島のタワマンに引っ越した30代の会社員男性は「通勤時間は短くなったが、とにかく食が貧しくなった」と嘆く。(文・取材;昼間たかし)

もんじゃ焼き屋はあっても牛丼屋はない月島

「結婚願望はないので、将来はタワマンを買って終の住処にしたいなと思って、とりあえず賃貸で借りることにしたんです」

そんな男性が選んだのは、月島駅近くの家賃16万円ほどのタワマンの1LDKの部屋。職場の最寄りは有楽町線の麹町駅なので通勤時間も申し分ない。しかし、ここで男性には誤算があった。

「仕事も忙しいし、あまり周囲の環境を確認していませんでした。月島というと下町のイメージがあり、昔ながらの美味しい店も多いんだと思い込んでいたんです」

これは大きな間違いだった。男性は、引っ越してから想定していなかった事実に気づく。

「とにかく、月島には、もんじゃ焼き屋しかないのです」

正直、筆者は「引っ越す前に気づけよ!!」と思った。飲食店が豊富に見える月島だが、実は非常に偏っている。月島駅から程近い「もんじゃストリート」には50店舗ほどのもんじゃ焼き屋が並ぶように、基本はもんじゃ焼き屋と飲み屋。あとは昭和の香りがする町中華がある程度。定食屋然とした店も夜は酒がメインである。

「酒好きには嬉しいかも知れませんが、自分はあまり飲めません。それに、関西の生まれなので、もんじゃ焼きもあまり好きじゃないんですよね」

なぜ、月島に引っ越してしまったのかと後悔した男性だが、もっとも驚いたのは独身男性が腹を満たすような牛丼チェーンのないことだ。

「月島には牛丼チェーンがまったくないんです。まさか隣駅の勝どきまで行かないと松屋すらないなんて。もともと、夕食は牛丼屋か日高屋で済ませることが多かったので困惑しました」

勝どきには松屋となか卯とすき家がそれぞれ1店舗ずつと、晴海には吉野家とすき家があるが、月島にはない。なお、ファミレスも月島にはジョナサンが1店舗だけである。

将来タワマンを購入する時は「湾岸エリアは絶対にやめておこうと思います」

聞けば、以前は豊島区に住んでおり、飲食店が豊富にあったそう。週に3、4回は牛丼屋に通う食生活だったという。しかし、そうした店がない現在は、夕食は帰宅前に会社周辺で済ませるか、スーパーの弁当が多くなったという。

「メニューが豊富な松屋や日高屋がどんなに便利だったかを実感しました。将来的には、タワマンを購入しようと思っているのですが、湾岸エリアは絶対にやめておこうと思います」

ちなみに、男性はタワマンの購入を考えるくらいには高収入で、年収は1500万円あまり。ならば、もう少しマシな店で食事を楽しむことができそうなものだ。

「もともと食にこだわりはないんですよね。というか、食事は毎日のことですから安さが一番ですよ。それに牛丼屋はどこも美味しいじゃないですか」

店がないことを嘆くより、やたらと牛丼屋を利用していて大丈夫かと思ったが「今まで健康診断でひっかかったことはありません」という。30代ならまだしも、40代になったら身体にガタが来るのではないかと人ごとながら心配になった。