「送検時の写真はカメラマンを睨みつけるかのような、ふてぶてしい顔つきに見えましたよね……。でも、本当はとてもいい人なんですよ」
【写真】「24歳サバ読みは無理あった?」偽造夫婦の素顔写真
吉野千鶴容疑者の自宅近くの住民は、そう言って容疑者を擁護した。
警視庁大井署と同大森署の共同捜査本部は22日、東京都大田区の警備員・吉野千鶴容疑者(72)と、夫で会社員の幸彦容疑者(65)を有印私文書偽造と同行使の疑いで逮捕した。2人は共謀の上、2021年11月上旬ごろ、千鶴容疑者が存在しない妹・岩田樹亞(48)になりすまし、戸籍を取得するために偽造した申し立て書を東京家庭裁判所へ提出して行使。さらに昨年9月中旬ごろ、同じく岩田樹亞の偽造した届け出を複数の区役所へ提出し、行使した。幸彦容疑者のほうも戸籍取得の際に、「妻の妹だ」と虚偽の説明をしたという。
なりすましの目的は「若返りたかった」
「昨年10月、千鶴容疑者が品川区にある鮫洲運転免許試験場で、妹の名前で原付バイクの免許をとろうとしたところ、24歳も年齢をサバ読んでいたため、職員が不審に思って通報。なりすましが発覚したわけです」(全国紙社会部記者)
幸彦容疑者は警察の取り調べに対して、
「(妻は)若返りたかったからだと思う」
と容疑を認めているが、千鶴容疑者は、
「私は岩田樹亞で、正規に戸籍を取得しただけ」
「姉(千鶴)とはけんかをしていて、どこにいるのかわからず、連絡がとれない」
などと言い張って容疑を否認しているという。2人は一体どんな夫婦だったのだろうか。夫婦が大田区の築65年、家賃月10万円前後の一戸建て住宅に引っ越してきたのは、およそ2年前。近隣住民は当初、千鶴容疑者は「水商売の人」と思っていたという。
「エキゾチックな顔立ちだし、髪型はアフロヘアみたいだった。服装も派手めだったからね。でも実際はそうじゃなかった。夫婦と大きな犬1匹と猫2匹で暮らしていたよ」(近隣住民)
冒頭の住民もこう話す。
「ご近所に別々に挨拶回りにきてくれてね。千鶴容疑者は“主人は飲食店で働いていたから、料理が得意なんです。今度、家で鍋をやりますから、ぜひ食べにきてください”って。結局、実現はしなかったけど」
千鶴容疑者は植物が大好きで、玄関先にはたくさんの鉢植えがあった。
「私に鉢植えのひとつを分けてくれた。そんな心遣いのできる、とても優しい人なんですよ」(同・住民、以下同)
気の弱い千鶴容疑者が起こした大胆な犯罪
一方で、千鶴容疑者は近所トラブルを抱えていたとも。容疑者夫婦が暮らす一軒家は住宅密集地に建っており、しかも道路から入った袋小路で、
「お互いさまで、夏はクーラーの室外機の音がうるさいんですが、近隣住民のひとりが千鶴さん宅を目の敵にして“室外機の音がうるさい!”と書いたビラを何度もポストに投函したり、玄関ドアにまで貼ったりしていました。千鶴さんは言い返すこともできず、悩んでいた。あるとき、ぽつりと“引っ越ししようかな”なんて弱音を吐いていましたから」
そんな気弱な千鶴容疑者がなぜ“架空の妹”になりすましたのだろうか。
「年齢が若いほうが、就業や賃貸住宅の契約には有利でしょう」
そう話すのは、労働・雇用に詳しい弁護士だ。
「日本では極めて稀な例ですが、非嫡出子などの中に無戸籍の人がいます。そういったケースだと主張して、生活のためにわざわざ戸籍をとったのではないか」(同・弁護士)
“なりすまし”は年金収入だけでは暮らしていけない年配の生活困窮者の「生きる術」だったのかもしれない−−。
千鶴容疑者は働き者だったという。
「働く意欲が満々でね。バイクの免許をとってからは、しょっちゅう夜にバイクにまたがって、現場へ出かけていましたから。千葉あたりまでも行っていたみたい。たぶん、バイクを買ったのは、交通費を節約するためでしょう。頭が下がる思いですよ」
千鶴容疑者の人となりを知るべく、勤務していた警備会社に問い合わせた。
勤務先に伝えていたのは、48歳妹の名前
「ちょうど1年前、“岩田樹亞”という名前で採用しています」(警備会社広報担当者、以下同)
やはり“妹”になりしまして履歴書を渡していた。48歳に見えたかという問いには、
「見えないからといっても“本当ですか”“ウソですよね?”と問い詰めることなんてできないですよ」
警備会社も千鶴容疑者の被害にあったわけであるが、
「年齢詐称の部分だけで、実害はまったくない。遅刻や無断欠勤などなく、千鶴容疑者は何も問題なく、きちんと勤務していましたので」
前出の近隣住民も容疑者たちに同情的で、
「他人を傷つけたというような、凶悪な犯罪ではない。素直に罪を認めれば、罰金刑程度で済むのではないか。早く自白して、ここへ帰ってきてほしい。戻ってきたら、温かく迎えてあげたいね」
容疑者夫婦の一軒家の窓には、主人の帰りを待ちわびている猫のシルエットが透けて見えた。