[画像] NEC、日本向けの生成AIを開発 - 130億パラメータで動作するLLM

NECは7月6日、同社が独自に収集・加工した多言語データを利用したファウンデーションモデルの日本語LLM(大規模言語モデル)の開発と、同LLMによる生成AI(ジェネレーティブAI)のライセンス、専用ハードウェア、ソフトウェア、コンサルティングサービスなどから構成される「NEC Generative AI Service」の提供を発表した。同日には記者説明会が開かれ、同AIの特徴とともに、同社の生成AIビジネスの展望が明かされた。

GPU1枚搭載のサーバなどオンプレミス環境でも運用可能

「ChatGPT」を始めとする生成AIが注目されているが、既存のLLMの多くは英語のデータを中心に学習されたものとなる。高い日本語性能を有しつつ、国内企業などでのさまざまな業務で活用するためのカスタマイズが可能なLLMを提供すべく、NECは今回、独自のLLMを開発した。

同LLMはファウンデーションモデルという、事前にラベル付けのない大量データによる自己教師あり学習によって構築された生成AIとなる。現状はテキスト情報を処理するシングルモーダルAIとなるが、今後は画像・映像を処理・生成可能なマルチモーダルAIの開発も進めるそうだ。

同LLMの特徴は、高い日本語能力を有していて、モデルサイズが軽量なところだという。日本語のデータを厳選して学習させており、日本語言語理解ベンチマークである「JGLUE」を用いてNECが評価したところ、同LLMは知識量に相当する質問応答で81.1%、推論能力に相当する文書読解において84.3%と、海外のトップレベルのLLMと同等以上の性能を達成した。

また、2023年3月に全面稼働を開始したAI研究用スーパーコンピュータを用いて多量のデータと膨大な学習時間を費やすことで、GPU1枚搭載の標準的なサーバで動作可能なほどモデルサイズを抑制できたという。これにより、クラウドだけでなく、オンプレミス環境での運用が可能となる。

NECが開発した生成AIの特徴

NEC Corporate EVP 兼 CTOの西原基夫氏は、「海外トップレベルLLMのモデルサイズに比べて、13分の1のサイズとなる130億パラメータのLLMを開発することができた。これにより、LLMを組み込んだ業務アプリケーションがレスポンス良く動作し、業務運用時の電力消費やサーバコストを抑えることができる。また、今回開発したLLMは一般的なサーバに搭載することも可能なので、オンプレミス環境でも利用できる」と説明した。

NEC Corporate EVP 兼 CTO 西原基夫氏

NECでは2023年5月から文書作成や社内システム開発におけるソースコード作成業務など、さまざまな社内業務で同LLMの活用を開始している。

今後は、クローズドなデータを用いたファインチューニングを行うことで秘匿性の高い業務に同LLMを提供するほか、業種特化型の個社向けモデル構築にも対応していく方針だ。

コンサルティングサービスやアプライアンスサーバを順次提供

今回開発されたLLMは、NEC Generative AI Serviceの下で2023年8月より一部の顧客で先行評価を開始するという。2023年7月からは、NECの生成AIの活用ノウハウや取り組みを基にしたコンサルティングや仮説検証、同LLMを「Microsoft Azure OpenAI Service」と組み合わせて利用するための環境構築サービスなど一部メニューが利用可能だ。

「NEC Generative AI Service」の提供メニュー

今後は、生成AI利用のためのリテラシー教育サービスや、オンプレミス環境での生成AI利用に特化したアプライアンスサーバなどを順次提供していく。

このほか、「Microsoft Azure ExpressRoute」への接続拠点があるNEC印西データセンターを中核に各種サービスを提供することで、NECは国内企業における低遅延かつセキュアな生成AIの活用環境の構築を支援する考えだ。

「NEC印西データセンター」を中核にした生成AIサービスの提供イメージ

2023年10月に提供開始予定の「NEC Generative AI Framework」では、プロンプトのテンプレート、LLMのモデル切り替え、質問応答の強化など、生成AIを利用しやすくするための機能をソフトウェアとして提供する。

「NEC Generative AI Framework」で提供する機能群

NEC Corporate EVP 兼 CDOの吉崎敏文氏は、「今回のLLM開発と生成AIのサービス提供は、『G2』というコードネームの下、構想に4年、開発に2年を費やしてきた。AIを活用するうえではモデルだけでは不十分で、学習させるデータや計算能力、利活用技術が重要になる。NEC Generative AI Serviceでは、それらをセットで提供していく。今回開発したLLMと、当社のサービス・インフラを利用して日本の生成AI市場を立ち上げていく」と今後の意気込みを語った。

NEC Corporate EVP 兼 CDO 吉崎敏文氏

このほか、生成AIの活用を包括的に支援する顧客向けプログラム「NEC Generative AI Advanced Customer Program」も提供する。同プログラムにはすでに約10の企業・大学が参加を表明しており、モデル作成やLLM活用のためのソフトウェア整備、組織立ち上げなどにNECと共同で取り組む予定だ。

生成AIの開発とサービス提供に併せて、NECは新たに生成AIの専門組織である「NEC Generative AI Hub」を設立した。同組織に所属する研究者やプロンプトエンジニア、コンサルタント、デジタルトラストなどが生成AIの活用をサポートする。NECは生成AI関連事業において、今後3年間で約500億円の売上を目指す。