大規模な人員削減が話題となっているクックパッド。なぜここまで凋落してしまったのでしょうか(写真:編集部)

レシピ情報サイトを運営する「クックパッド」の人員整理が話題になっている。

クックパッドは2023年6月、人員削減を8月にかけて行うと発表した。海外子会社を含むグループ全社の経営体制強化を目的に、日本では退職勧奨、国外では解雇として、派遣社員を含む110人を対象とする。


人員削減による合理化を発表(出所:クックパッド公式サイト)

同グループは、2月に新規事業廃止にともない最大40人、3月に海外子会社で最大80人の希望退職者を募っている。人員整理としては今年3度目となるが、今回は希望退職ではなく「退職勧奨」「解雇」という踏み込んだ形であり、加えて対象者となったエンジニアが、SNS上で報告する例も多かったことから、これまで以上に注目を集めているようだ。

ネット上では、「巣ごもり需要」が一段落したことで、クックパッドが苦境に立たされているのでは、との見方もある。しかし売上収益を見てみると、2016年12月期の約168億4600万円から右肩下がりで、2022年12月期は約90億8600万円に。単純計算で、約46%も減少している。

つまり、クックパッドはコロナ禍以前から苦戦していたのだ。

クックパッドが低調になった背景

では、低調になってしまった背景には、どのような理由が考えられるか。ネットメディア編集者として約10年間、ウェブでの情報流通を見てきた筆者は、「レシピサイトの乱立」と「料理系YouTuberの台頭」、そして「情報に対する価値観の変化」があるのでは、と見ている。

・レシピサイトの乱立

まずは、競合となるレシピサイトの乱立だ。エブリーが運営する「DELISH KITCHEN」(2015年9月開始)、delyが運営する「クラシル」(2016年2月開始)、BuzzFeed Japan系列の「Tasty Japan」(2016年8月日本上陸)といったサービスが登場したのは、ちょうどクックパッド全盛期とタイミングが重なる。


クックパッドが好調だった2015年〜2016年に、動画系のレシピサイトが多く登場した(画像:DELISH KITCHEN公式サイト)

いま挙げたようなライバルは、ツイッターやインスタグラムなど、あらゆるSNSにコンテンツを展開する「分散型メディア」からスタートした。他社のプラットフォームを使うため、ユーザーから直接お金を落としてもらいづらく、コンテンツそのものを企業とのタイアップ広告とすることで、収益を成り立たせる。クックパッドにも同様の広告商品はあるが、こちらは基本的に「有料会員」を設けて自社サイト内に囲い込むビジネスモデルといえるだろう。

新興レシピサイトとの違いは、コンテンツ面にもある。写真と文字が主体のクックパッドに対して、競合各社はテロップ入りの調理動画を多用することで、質の担保と、見栄えの良さを両立させた。

・情報に対する価値観の変化

ちょうどネット情報は、「映え」と「タイパ(タイムパフォーマンス)」重視に変わりゆくタイミング。「情報はタダで得るもの」といった感覚も高まりつつあり、これらの時流に乗ったのが、ライバルが急成長した一因だろう。

一般消費者が情報を提供するCGM

クックパッドは「食べログ」「@cosme(アットコスメ)」「Yahoo!知恵袋」などとともに、CGM(Consumer Generated Media=消費者生成メディア)と位置づけられている。一般消費者から「口コミ」を広く集め、集合知を形成。たくさんの情報が集まっているとアピールすることで、さらなる新規ユーザーが流入して、コミュニティーが拡大していくスタイルだ。

一方でCGMは、低品質の投稿が集まることもあり、玉石混交になりかねない。削除を徹底しすぎても、作業負担は増えるうえ、ユーザーに「運営やクライアントに不都合な投稿も消しているのでは」といった疑念を抱かせるリスクもある。その点、分散型メディアは、スタッフによるコンテンツ内製が中心だ。

もちろん、ユーザー主体でないからと言って、うまくクオリティーコントロールができているとは限らない。

Tasty Japanは先日、誤情報を掲載したとして、相次いで謝罪・削除を行った。1つは、箱状にしたクッキングシートをフライパン上に置くことで、「少ない油で揚げ物ができる」といった情報。もう1つは、油を入れたポリ袋をレンジ調理するといった内容で、いずれも安全面からの危険性が指摘されていた。

とはいえ一般ユーザーによる「書き込み」よりも、レシピサイトがそれなりの予算や人手をかけて作った「コンテンツ」のほうに、より価値を感じる人も多いだろう。

・料理系YouTuberの台頭

そして、さらなるお墨付きを求めた先に、ネットユーザーが行き着いたのが、料理系YouTuberではないか。

例を挙げると、魚介類に強い「きまぐれクック」かねこさん(YouTube登録者633万人、以下6月上旬時点のメインチャンネル)や、酒飲み向けの料理に定評のある「バズレシピ」リュウジさん(389万人)、筋肉アピールを欠かさない「だれウマ」さん(115万人)、淡々と調理する「くまの限界食堂」さん(105万人)……と挙げればキリがないが、あなたもYouTubeのオススメ動画として見かけたことがあるだろう。

YouTuberのビジネスモデル

YouTuberのビジネスモデルは、分散型メディアのそれとは若干異なる。調味料メーカーなどから、広告費や食材の提供を受ける「企業案件」は同じなのだが、プラットフォーム(YouTube)からの収益も見込めるのだ。再生中に挿入される広告に加え、有料ファンクラブ(メンバーシップ)の機能も用意されている。

人気料理系YouTuberの特徴は、レシピの完成度はもちろん、動画単体がエンタメとして楽しめるところにある。話術なのか、映像美なのか、はたまた編集センスか。チャンネル登録した動機は、ユーザーそれぞれだろうが、根底には「推し」に入れ込むファン心理のように「この人の調理を、もっと見たい」といった欲求が刺激される作りになっている。

一般ユーザーによる情報にも、変わらず価値がある。ただ、わざわざ玉石混交から選ぶ手間を考えると、「それならAI(人工知能)に聞けばイイじゃん」となってしまう。

そこでふと、話題のAIチャットボット「ChatGPT」に、カルボナーラパスタの作り方を問いかけてみたところ、すぐ基本的なレシピを提案してくれた。

しかし我が家は、卵を切らしている。「代替の食品はないか」と頼むと、ヨーグルトや豆腐でクリーミーさを加えたり、アーリオオーリオなどの別メニューに変えたりといった対案を出しつつも、「真のカルボナーラの風味は卵とベーコン(またはパンチェッタ)によって作り出せる」と叱られてしまった。駄々こねちゃって、ごめんね。

料理に特化し続けるクックパッドの活路

余談はさておき、話を戻そう。

ChatGPTをはじめとするチャットボットは、急速に精度を高めている。事前に学習させたデータベースだけでなく、ウェブ上を検索する機能も備わりつつある。ゆくゆくは、クックパッドのみならず、あらゆるCGMは情報ソースになるものの、直接ユーザーが訪れる場所ではなくなってしまいかねない。想像以上のスピードで、Xデーは近づいている。

クックパッドでは、かつて「お家騒動」が起きた。2016年、穐田誉輝社長(当時)が進めていた事業多角化に、創業者で大株主の佐野陽光氏が反発。経営陣を一新し、事業を整理したうえで、「料理」主体の企業へ原点回帰させた。

退任した穐田氏は、クックパッド傘下だったチラシ配信サービス「トクバイ」(ロコガイド)や、結婚式場CGM「みんなのウェディング」などを引き連れて、「くふうカンパニー」社にまとめた。ちなみに時価総額は現在、クックパッドが約191億円、くふうカンパニーが約269億円となっている。

このままクックパッドが、料理に特化し続けるのであれば、起死回生の一手は何なのか。一案だが、いっそ「専門家集団」に活路を見いだしてはどうだろうか、と筆者は考える。

クイズの回答や作問を軸に、知的なタレントとしても知られる「QuizKnock(クイズノック)」の料理版のような、インフルエンサー集団を作れたら──。同社が掲げるミッション「毎日の料理を楽しみにする」の実現にも、一歩近づくのではないかと思うのだが、いかがだろうか。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)