首相公邸内での「忘年会」写真が騒動に。長男・翔太郎首相秘書官への甘い姿勢に批判・疑問の声が殺到し、結局更迭。支持率低下に繋がった可能性も指摘されています(写真:つのだよしお/アフロ)

地元・広島でのG7サミット(主要7カ国首脳会議)を終えたばかりの岸田文雄首相。アメリカ・バイデン大統領らの広島平和記念資料館(原爆資料館)訪問や、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の来日など、外務大臣経験者ならではの外交手腕を発揮したばかりだが、思わぬ「責任問題」がのしかかりつつある。

発端となったのは、週刊誌に「公私混同」を問われかねない、長男の岸田翔太郎・首相秘書官らの様子が伝えられたこと。官房長官も「適切さを欠く」と表現するような写真が流出し、任命責任を問われる事態となったのは、一国のリーダーとして大きな痛手だろう。

以前から「世襲」には強い風当たりがあったが、それに加えて「危機管理の甘さ」を感じさせるような事案が起きた。衆議院の解散総選挙がウワサされているなかでのスキャンダル。翔太郎氏の秘書官辞任が発表され、ひとまずの収束が考えられるものの、今後の対応によっては、しこりが残りかねない。

忘年会「悪ノリ写真」事案の流れ

一連の騒動を、時系列順に振り返っていこう。始まりは、2023年5月24日、雑誌「週刊文春」(6月1日号)のウェブ版「週刊文春 電子版」に、「岸田一族『首相公邸』大ハシャギ写真 階段に寝そべり、総理会見ごっこ」と題した記事が載ったこと。首相公邸内で昨年12月に行われたという、岸田首相の親戚が集う「忘年会」の様子を伝えたものだ。

文春記事では「首相の甥」が、演説台でポーズを決めたり、赤じゅうたん敷きの階段に寝そべったりする様子も掲載。閣僚のお披露目よろしく、階段で撮影された記念写真には、家主である首相自身の姿は見られないが、翔太郎氏はおさまっていた。

「首相公邸」と名前が似た施設として、「首相官邸」がある。首相官邸公式サイトでは、両者の区別を「総理が執務をする『官邸』に対して、総理の日常生活を行う住まいを『公邸』」としているが、完全に「私邸同様の存在」とみなされている訳ではない。

松野博一官房長官は5月25日の記者会見で、「総理大臣の迎賓機能、執務機能を有する公的な施設であり、今回の報道にあるような行為は、適切さを欠くものである」との認識を示した。翔太郎氏には首相から注意をし、首相自身も私的な居住スペースでの食事に顔を出していたと、松野氏は会見で説明している。

なお、「首相秘書官」の職をめぐっては今年2月、性的少数者に対して「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝喜氏(経産省)が、発言翌日すぐさま更迭(こうてつ)されていた。それだけに、翔太郎氏に対しては注意のみであることで、「身内に甘いのでは」と指摘する声が相次いでいた。

その後、政府は5月29日夜になって、6月1日付で翔太郎氏が辞職すると発表した。首相自身も同日の会見で、今回報じられた行動が「公的立場にある政務秘書官として不適切」であるとし、「ケジメをつけるため交代させる」と発言。翔太郎氏の辞職後は、前任であった岸田事務所の山本高義氏が復帰すると発表された。

事実上の更迭となり、首相自身も任命責任があると認めたものの、辞職理由のひとつにサミット閉会により地元の調整業務が一段落したことをあげたり、一度は「注意」で済まそうとした背景もあり、SNSなどでの反応はあまり芳しくない。

厳しい目で見られる「世襲」「七光り」

SNS時代の到来により、「世襲」や「七光り」に対する風当たりは、以前よりも確実に高まっている。政策論議に持ち込もうとすると、法解釈や、諸外国の事例など、それなりに前提知識が必要となる。その点、世襲たたきであれば、図式としてわかりやすく、世論も「手ぶら」で参加しやすい。光熱費や物価の高騰などで、先が見えない日々を過ごすなか、一石を投じる「きっかけ」として、一定の支持があるのだろう。

2021年には、映像制作会社に勤めていた菅義偉首相(当時)の長男が、総務省幹部を接待していたと判明。「放送局の許認可」といった法律論に加え、菅氏の総務相時代に、長男が大臣政務秘書官として務めていた経緯から、コンプライアンス意識が欠けていると問題視された。

今年4月の衆院補選(山口2区)で初当選した、岸信千世氏も記憶に新しい。岸信介元首相のひ孫であり、父は岸信夫元防衛相、伯父は安倍晋三元首相という「お家柄」を引っ提げて、引退した父の後継候補として出馬。公式サイトに、岸信介氏の弟・佐藤栄作元首相や、晋三・信夫兄弟の祖父である安倍寛元衆院議員、同兄弟の父の安倍晋太郎元外相をふくめた「家系図」を掲載したところ、「女性の存在が消されている」「血筋しかアピールできることがないのか」などと炎上につながった。

結果として、信千世氏は6万1369票(得票率52.5%)を集め、平岡秀夫元法相(5万5601票、47.5%)を下したが、まだ盤石な地盤とは言えない状況だ。

そこにプラスオンする「危機管理のマズさ」

翔太郎氏の場合は、昨年10月の首相秘書官就任以降、今回だけでなくスキャンダルが明かされていた。真偽は不明ながら、テレビ局の記者に情報をリークしていたのでは、との疑惑を、12月に月刊誌「FACTA(ファクタ)」が報道。1月には週刊新潮(デイリー新潮)が、首相の欧米歴訪に同行していた翔太郎氏が、公用車でパリやロンドンを観光し、お土産を購入していたと伝えた。

そこへきて、今回の文春報道となれば、首相秘書官としての適性を問う論調が出てもおかしくはない。そうした未来を予見できなかった意味で、今回の流出は完全なる失策と言えるだろう。

人気YouTuberのHIKAKIN(ヒカキン)さんは、かつてインターネットにおける「炎上回避法7箇条」のなかで、「LINEやDM(ダイレクトメッセージ)はすべて流出すると思うこと」「つねに最悪な事態を想定する」(2022年5月20日投稿の動画より)といった項目を挙げていた。政界と芸能界で状況は異なるものの、「もしも」に対しての備えには、通底するところがあるだろう。

トップシークレットを扱う要職を担う人物が、その責任を問われている「大ハシャギ写真」。そもそも「この様子をスマホで撮ったら、もし流出したときに、どんな印象を与えるんだろう」などと、参加者それぞれが思いをめぐらせていれば、避けられた事案なのではないだろうか。

サイバー攻撃の脅威が伝えられるなか、デジタル面における危機管理意識の重要性は、日に日に高まっている。「たかが忘年会の写真で」と言ったとて、国際社会における「外交の岸田」の顔に泥を塗りかねないと考えると、著名人の不倫LINEとはワケが違う。

そもそも、どれだけ相手を信頼していても、安心しきるわけにいかないのが、政治の世界だ。票数で勝ち負けが可視化される世界では、虎視眈々と失点を待ち受けているライバルも珍しくない。金権政治や汚職ならまだしも、とある1日だけ「ハメを外した」ことを理由に、リスクマネジメントを問われるのは、あまりにもったいない。

支持率は低下、問われる「リスクマネジメント」

筆者は先日、運転免許証の更新へ行ってきた。ペーパードライバーながら、ゴールド(優良運転者)という、あまり胸を張れない属性なのだが、講習で久々に「だろう運転」と「かもしれない運転」と聞き、ネット社会でも同じだよなと感じた。

「だろう」と楽観的に動くのではなく、つねに最悪の事態を考えながら、「かもしれない」と危険を予測する。そして、スマートフォンにおけるLINEやDMは、自動車のドライブレコーダーではないか。安全運転も危険運転も記録され、いざというときには証拠となって、自分自身を有利にも不利にもする──。どちらもHIKAKIN氏の金言と近い印象を受ける。

今回の騒動、さっそく影響は出ているようで、日経電子版は5月28日、この週末の日本経済新聞・テレビ東京による世論調査の結果を「内閣支持47%、5ポイント低下 首相長男の行動影響か」の見出しで伝えた。

産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同調査では、内閣支持率がほぼ横ばいだったものの、29日の産経ウェブ版記事では、G7サミットによる政権浮揚効果が見込まれながらも、今回の事案などが支持率を押し下げた可能性を指摘している。こうした変化を察知して、早急に辞任での幕引きを決めたのだろう。

なかなか決断しないからと、「検討使(けんとうし)」なる不名誉なあだ名をつけられてしまっていた岸田首相が、就任1年半にして、ようやく存在感を示し始めた矢先の「大ハシャギ」報道、からの翔太郎氏の更迭。野党どころか、自民党内からも苦言が出るなか、政権基盤を盤石にするには、まず身内から再発防止に向けた「リスクマネジメント体制」を構築することが先決なのかもしれない。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)