迷惑行為が相次ぐ外食チェーン。株価への影響なども指摘されるなか、事件に適切に対応し、ネットユーザーたちの応援の声を集める企業も少なくありません(編集部撮影)

外食チェーン店を中心に、客による迷惑行為が相次いでいる。

回転寿司では、他人の注文した商品にわさびを塗ったり、しょうゆボトルをなめたり。うどん店やカレー店では、卓上に置かれた、天かす・福神漬けといった無料商品を、直接ムシャムシャと食べてしまう。カラオケボックスでは、除菌スプレーに火をつける危険行為も起きた。いずれも同伴者によって動画が撮られ、SNSに流出したうえで、大きな炎上を招いている。

こうした「バカッター」「客テロ」などが起きた際に、企業としてはどんな対応を取ればいいのか。この10年、ネットメディア編集者としてSNSをながめてきた筆者の経験から、「理想的なネット対応」について考えてみると、以下の4要素が浮かんできた。

(対応1)当初は事実報告に徹する
(対応2)適切なタイミングに進捗報告する
(対応3)しかるべき立場の人間が、名前を出して伝える
(対応4)消費者の「エモい期待」に応える

これらに当てはめながら、「炎上」に対するウェブ上での対処方法について、いくつか事例を見ていこう。

4要素をすべて押さえていたスシロー

このところの迷惑行為で、もっともネットユーザーに衝撃を与えたのは、「スシロー」で撮影された、あらゆるものをなめ回す動画だろう。その点、スシローは「理想的な対応」4要素をおさえている。

チェーン店によっては、報道陣からの取材には答えつつ、プレスリリースとしてウェブサイトなどに掲載しない企業もあったなか、運営会社(あきんどスシロー)の動きは速かった。動画が話題になった翌日には、以下のコメントを出した。

「スシロー全店において、当該事象発⽣の有無、発⽣していた場合その時期、被害に遭ったお店の特定などの調査を進めており、対象となりうる店舗では消毒などを進め、また、早急に警察と相談させていただきながら刑事⺠事の両⾯から厳正に対処してまいります」(1月30日付プレスリリースより)

そして2日後には、対象店舗名と防止策に加え、被害届の提出、当事者へ刑事と民事の両面から「厳正に対処」すると明言。動画拡散を把握した当初は、事実報告(対応1)に徹し、店舗特定後に防止策とあわせて進捗報告(対応2)する流れとなっている。

株価が一時急落も、ネット民の声で事態が好転していく

今回の事案では、あきんどスシローの親会社である「FOOD & LIFE COMPANIES」の株価への影響も一時報じられたが、インフルエンサーが「#スシローを救いたい」のハッシュタグで、応援投稿を呼びかけたことを期に、事態は好転する。

日本のツイッターでは、ハッシュタグがトレンド入り。それを受けて、スシロー公式ツイッターには、あきんどスシロー・新居耕平社長による、感謝のメッセージが投稿された。

「#スシローを救いたい 沢山の応援の声をいただき 大変ありがとうございます。涙がでるぐらい感謝の気持ちでいっぱいです。うまい寿司を安心して ご提供するために 我々が出来る お客様に精一杯を 実施していきます」(新居耕平社長のメッセージ、改行をスペースに置換)

普段は投稿されない社長名義の謝辞(対応3)とあって、このツイートには投稿から1週間ほどで約7万リツイート、約44万いいね、インプレッション(閲覧数)は約3000万と、多くのネットユーザーから反響が出ている。

ハッシュタグ起点のエモい(感情を揺さぶる意味のネットスラング)コミュニケーション(対応4)は、社長ツイートだけではない。ハッシュタグ拡散の原動力になった音楽グループ「Repezen Foxx(レペゼンフォックス)」DJ社長さんをはじめ、ラファエルさん、はじめしゃちょーさんといった人気YouTuberから、回転寿司愛をつぶやいた漫才コンビ「霜降り明星」せいやさん、そしてスシローを利用した一般ネットユーザーに対しても、スシロー公式から直接リプライ(返信)を送った。

経営トップみずから、メッセージを発することで、企業イメージが好転する。

迷惑客の事例ではなく、社内の混乱が発端とされるものだが、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」と、その親会社であるPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)で最近あったケースも、4要素を満たしている。

2022年12月16日、ドン・キホーテ公式ツイッターが、プライベートブランド「情熱価格」を知ってほしいとの思いから、店舗公式キャラクターをペンギンの「ドンペン」から「ド情ちゃん」へ交代し、同日からテレビCMを放映すると発表した。

しかしその後、PPIHとドン・キホーテの社長である吉田直樹氏を名乗るツイッターアカウントが登場し、「社長の吉田直樹です。私も事情がわからず関係部署に確認します」とツイート(対応1、対応3)。

ユーザーからのリプライに「あんまり権限ないんですw」「それをやっちゃえるのがドンキなんですよ!」などと返信した後に、緊急の社内会議を行い、同日夜になんらかの回答を行うと投稿した。

結果として、ドンキ公式ツイッターは「皆様のご意見を真摯に受け止め、社内で協議させていただいた結果、公式キャラクターとして今後も『ドンペン』が続投することに決定しました」と発表(対応2)し、吉田氏のもとには「さすが社長!」「ありがとうございます」といった、ドンペンファンからの賛意が寄せられた(対応4)。

実はこの数日前から、キャラクター交代を「匂わせていた」のではないかとの指摘があり、ドンペン引退をあおることで注目を集める、いわゆる「炎上商法」を疑う声が相次いでいた。そこをペンギンならぬ、鶴の一声によって、空気を変えたのが吉田氏のツイートだった。

和菓子メーカー「船橋屋」の対応も見事だった

以前、当サイト(東洋経済オンライン)での筆者コラム「船橋屋、罵声動画拡散よりもきつい『最大の痛恨』」で紹介した、和菓子メーカー「元祖くず餅 船橋屋」での炎上事例も、各原則をおさえている。

2022年8月、創業家の社長(当時)が交通事故を起こした。その翌月、相手に罵声を浴びせたり、相手の車のドアを蹴ったりする様子をとらえた動画が、ツイッター上で拡散される--。

しかし、そこからのウェブ対応は、瞬時かつ的確だった。第一報で事故・現場対応の事実を認め(対応1)、続いて責任は社長にあるとして、従業員や類似名称の企業への誹謗中傷や問い合わせを控えるよう呼びかける。

社長辞任の申し出を伝え、翌日の取締役会で受理したと報告。そして、新社長選任を発表(対応2)。加えて平時から、ゆるい口調のツイッターなどで、消費者とのコミュニケーションを築いていた(対応4)こともあり、大きな傷跡は残らなかった。

船橋屋のケースでは、これまでウェブ戦略を進めてきた神山恭子氏が新社長に就任したことも、好印象に受け止められた。責任が社長にあると明言したリリースは、当時執行役員だった神山氏の名義で出されている(対応3)。

昨年はおとり広告が問題視、手放しで評価できぬ面も

ただ、今回「4要素」を満たしたスシローだが、手放しに評価できない面もある。

2022年6月には、広告出稿した商品にもかかわらず、多くの店舗で提供されていない、いわゆる「おとり広告」を理由に、消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けている。

その後も、生ビール半額キャンペーンの「フライング告知」や、メバチマグロの代わりに、仕入れ値の安いキハダマグロを使っていたなどの事案が相次いだ。

行政処分から、まだ半年ちょっと。今回の事案は迷惑客に非があるものの、上記のような消費者とのコミュニケーションを見たネットユーザーからは「おとり広告を忘れていない」「もう許されたのか」との声も散見される。

企業イメージの回復には、消費者と誠実に向き合い、信頼を積み重ねていくしかない。その点で、迷惑行為をめぐる一連の対応には、反省やノウハウが生かされていると期待したい。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家)