感染拡大が広がる中、後遺症で悩む人も増えています(写真:C-geo/PIXTA)

新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)の後遺症は、急性から遅発性まで、その症状は200を超えるといわれている。なかでも倦怠感は最も高い頻度で現れやすい症状の1つだ。海外の複数の研究報告によると、倦怠感は後遺症の6割でみられる症状で、半年以上続く場合も2割あるという。そんなコロナ発症後に現れる後遺症としての倦怠感に、どのように対処していったらいいか。コロナ禍で生じる倦怠感(コロナ疲労)への対処法も含め、疲労に詳しいナカトミファティーグケアクリニック院長の中富康仁さんに聞いた。

日本全国で新規感染者が増加し、第8波による感染拡大が懸念されている。感染の広がりとともに、後遺症に悩む患者も増えている。
 
世界保健機関(WHO)は2021年10月、コロナ感染から回復した人の10〜20%が後遺症に苦しんでいると発表した。

日本の疫学調査でも、感染から6カ月後に1つ以上の症状を訴える患者は3割弱いることが明らかになった。女性のほうが倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛といった後遺症が出やすく、倦怠感、味覚障害は長引くともいわれる。

罹患前の心身状態や栄養状態などが影響

現時点では、コロナ後遺症に対する明確な診断基準はない。アメリカの疾病対策センター(CDC)は、感染後4週間以上経過してもさまざまな症状が残る場合を『Post-COVID Conditions』と呼ぶことを提案している。コロナ後遺症はその名前こそ知られてきたものの、かかりつけ医などに相談しても十分に理解してもらえないこともあるようだ。

現時点では、後遺症についてどんなことがわかってきているのだろうか。中富さんは第1に「コロナに罹患する前の心身の状態がコロナの症状を長引かせてしまう、つまりコロナ後遺症になりやすい要因であるとの報告が出てきています」と話す。

さらに、罹患前の栄養状態や睡眠状態なども影響していると考えられ、コロナ後遺症によるメンタル不調は、心理的要因というより、脳神経系の障害や機能不全の側面もあると捉えている。

第2に、後遺症はコロナの重症度とは相関しないことがわかってきている。「コロナが軽症だったとしても、決して後遺症をあなどってはいけない」と中富さんは強調する。

コロナ後遺症の治療についてだが、特効薬はなく、対症療法(症状に応じた治療)をかかりつけ医のいる医療機関や、コロナ後遺症外来で行うことを厚生労働省は推奨している。

「まずは他の病気と関係しているのかどうかを鑑別診断して、他の病気の疑いがない場合は一般的な疲労と同じ治療をしていきます。コロナ後遺症外来などでは、ビタミン剤や漢方薬を処方します」

ビタミンには抗酸化力(回復力)を補う働きがある。ビタミン投与に関する研究では、今のところアスコルビン酸(ビタミンC)投与療法の研究的治療については治療成績を左右しないという結果が出ているそうだが、「感染のさなかは酸化ストレスが上昇して抗酸化力(回復力)が低下することはすでに知られている。抗酸化力を補うという点では合点がいく」と中富さんは話す。

睡眠の質を改善する

このほかにも、第1世代の抗ヒスタミン薬(や抗アレルギー薬)も使い始めているという。抗ヒスタミン薬はそもそもアレルギー反応を抑える薬で、開発された年代により、第1世代・第2世代と分類される。第1世代の抗ヒスタミン薬には強い眠気を誘う副作用がある。抗うつ薬系も同様で眠気を引き起こす。

「休眠催眠作用のある第1世代の抗ヒスタミン薬(や抗アレルギー薬)を使い始めています。私の経験では、コロナ後遺症の1つである『睡眠障害』に着目した治療が必要で、睡眠障害への適切な評価や治療によって倦怠感が改善される。そのため、第1世代の抗ヒスタミン薬、抗うつ薬系で睡眠の質を良くするのが効果的だと思います」

コロナ後遺症では認知機能の低下(ブレインフォグ)の症状が見られる場合もある。こうした症状に対しては、TMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)という、難治性のうつ病や線維筋痛症などに対する磁気刺激治療もあり、日本でも研究治療を始めている医療機関がある。

このほか慢性上咽頭炎(鼻とのどの間にある上咽頭が炎症を起こしている状態が2週間以上続く)が起こっているという考え方もあり、上咽頭擦過(さっか)療法(Bスポット療法※詳しくは最終ページに)なども一部の医療機関で試みられている。

「コロナ後遺症についての治療法については、世界中でさまざまな研究や大規模な臨床試験も行われているため、新たな治療法が確立するのではないかと期待しています」(中富さん)

家族や周囲の理解が重要で、それによって不安やストレスが軽減できることもある。仕事先の理解に関していえば、会社の人事や産業医に相談し、就業への配慮や休養の必要性について検討してもらうことも大事だ。診断書の提出が必要になることもあるだろう。

コロナ後遺症で注意しなければならないのが、慢性疲労症候群やコロナ疲労だ。

コロナ後遺症から慢性疲労症候群に

中富さんはコロナ後遺症による疲労や倦怠感を訴えて来院する患者をこれまでに100人あまり診ている。その多くが、コロナ後遺症から慢性疲労症候群になってしまった人たちだ。

慢性疲労症候群とは、風邪などの感染症や、ストレスなどをきっかけに発症する原因不明の病態で、患者数は推定30万人、さらに慢性疲労症候群の診断基準を満たさない、より原因不明な慢性疲労である『特発性慢性疲労』は、200万〜300万人存在するといわれる。

慢性疲労症候群の明確な治療法はいまだ見つかっていない。十数年単位で疲労が蓄積される、病的な疲労である過労から回復できず、QOL(生活の質)を著しく落とし、日常生活を送るのが困難になっている人も多い。

「慢性疲労症候群は、1980年代にアメリカで集団発生しました。それ以降、感染症を想定してさまざまなウイルスが候補に上がりましたが、特定のウイルスで起こるというところまでの解明はできていませんでした」と中富さんは話す。

今回のコロナの感染拡大で、慢性疲労症候群に移行する患者が数多く存在しているということがわかりつつあり、特定のウイルス関与が初めて疑われているという。「慢性疲労症候群のような重度な病態にならないよう、コロナ後遺症をあなどらず、早急に対処していかなくてはなりません」(中富さん)

続いて、コロナ疲労をみていこう。

コロナに感染していなくても、コロナ禍におけるストレスで疲労を蓄積している人は多い。内閣府が2021年4月〜5月に実施したインターネットによる約1万人の意識調査では、コロナ疲れを感じると回答した人が7割を超えた。

内訳を見ると、全体で「感じる」が33.7%、「やや感じる」が37.9%。年代別では20代の「感じる」41.3%が最多。「やや感じる」の33.5%と合わせて74.8%だった。(外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


(引用)内閣府『第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査』(令和3年6月4日)より

「コロナがはやりだした頃は、コロナという未知のウイルスに対する不安が、社会全般でも個人レベルでもありました。それまでとは生活が一変し、生活のリズムが狂ってしまったことに対するストレスは強かったのでしょう」(中富さん)

当時、テレワークにより在宅での生活時間が増えたことで、夫婦関係、親子関係などがギクシャクするという話はよく聞かれた。テレワークではコミュニケーションの取りにくさなどもあって、いまでもストレスを強く感じている人もいる。

運動不足で睡眠も浅くなる


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また長時間動かないことも、疲労の蓄積につながっている。デスクワークで同じ姿勢を続けると、足の筋肉が動かず血管が圧迫される。血液は筋肉にたまった疲労物質を押し流してくれるが、血行が悪くなると、疲労物質が蓄積されて、疲労感を感じるようになる。

「疲労対策には生活にメリハリをつけることが重要なのですが、会社に行って、仕事をする、昼休みをとる、帰宅して休むというようなメリハリができにくくなっています。テレワーク中心だと血流も悪くなって代謝も落ち、活性化できなくなります。スリーププレッシャーといって、ある程度運動量がないと睡眠は深くならないのですが、自宅から一歩も外へ出ない生活だと、運動不足も否めません。結果的に睡眠が浅くなり、疲れがとれないということにもつながります」

疲労は体力を低下させることから、体調を崩してコロナに感染しやすくなるおそれもある。後遺症のことを考えればコロナを甘く見るべきではない。感染予防に加え、十分な養生を心がけることも大切だ。

※上咽頭擦過療法(Bスポット療法)
鼻の奥にある上咽頭は、外気から吸い込んだ塵やばい菌がたまりやすい。その上咽頭の状態を内視鏡で調べ、炎症がある場合に消炎・殺菌作用のある塩化亜鉛を塗布する治療法


ナカトミファティーグケアクリニック院長
中富康仁医師

2002年、京都府立医大卒。同年より同大学病院精神神経科、関連病院に勤務。04年、同大学大学院で脳科学の研究をおこない、09年、大阪市立大学医学部代謝内分泌病態内科学・疲労クリニカルセンターで疲労外来を担当。14年同院を開業。日本精神神経学会精神科専門医。日本疲労学会研究奨励賞受賞。日本疲労学会評議員。日本医師会認定産業医。

(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)