大学ラグビー2022注目選手インタビュー
慶應義塾大・永山淳(3年/CTB)
11月23日、東京・秩父宮にて大学ラグビー「早慶戦」が行なわれる。1922年に早稲田大ラグビー部が慶應義塾大に頼んで始まった対抗戦は、今年ちょうど100周年(99回目)。慶應大は早慶戦7連敗中なだけに、今年こそ何としても"宿敵ワセダ"を倒したいところだ。
「日本ラグビーのルーツ校」である慶應大は現在、4勝1敗・勝ち点19で早稲田大と並んで対抗戦3位。復活を期すチームを今年の春から引っ張っているのが、3年のCTB(センター)永山淳(國學院久我山出身)だ。
笑顔がまぶしい慶應義塾大の永山淳
ユース時代から注目されてきた世代屈指の大型BKは、大学1年時にラグビーを指導するアカデミー事業を立ち上げるなど、起業家の一面も持ち合わせる。ラグビー選手、コーチングを学ぶ大学生、そして起業家と、3つの顔を持つ21歳だ。
また、大学ラグビーきってのイケメンとしても知られ、試合会場やキャンパスでは女性から「ファンです!」とよく声をかけられる。渋谷を歩けば芸能事務所から「モデルや俳優に興味はありませんか?」と名刺を渡されることもしばしば。
ただ、試合のピッチに立てばふだんの優しげな雰囲気から一変。身長188cm・体重95kgの体躯を生かし、冴えわたるオフロードパスやロングキックで相手に襲いかかる。
今シーズンは高校の一学年上の先輩でもあるSO(スタンドオフ)中楠一期(4年)のケガによって、春は10番としてプレーした。その後、中楠が復帰すると「間合いが自分に合っている。一番プレーしやすい」と黒黄ジャージーの12番を背負っている。
春から夏にかけて、慶應大を率いる元日本代表WTBの栗原徹監督は「永山を鍛え上げる」という方針の下、多少のケガがあっても10番で起用し続けた。
「徹さんと話す機会が増えて、ゲームメイクや、慶應がどう崩したいかなどが頭に入った。結果、12番をやっている時も『ふたり目の10番』みたいな感覚でやれている」(永山)
花園に立てなかった悔しさ今年4月には、前日本代表監督のエディー・ジョーンズ(現イングランド代表監督)にも薫陶を受けたという。
「めちゃくちゃわかりやすかったですね! キック、パス、ランのオプションを同時に持てる(ボール)もらい方などを教えてもらいました。相手ディフェンスの脅威になるし、見える範囲がわかって判断もしやすくなりました」
永山は今シーズン、10番または12番のゲームコントローラーとして常に先発。10月の筑波大戦では4年ぶりに勝利(16-12)を挙げて、慶應大の開幕4連勝に貢献した。
「今季が始まった時、入学してから勝ったことのない筑波大と早稲田大には勝ちたいと思った。筑波大に勝ちきれたのはチームの成長を感じた」
しかし11月6日、全勝同士の対決となった明治大との一戦では3-54で大敗。永山は「明治大戦はチャレンジマインドを持って臨んだ。(キックで)エリア前に出して、相手陣の密集で戦い、モールで(トライを)取る形を持っていたが、それを活かしきれなかった」と悔しがった。
イギリス人の父と日本人の母を持つ永山は、神奈川・田園ラグビースクールで5歳から始めた。父と弟の丞(じょう/筑波大1年)と公園でも練習し、現在チームメイトの中楠や早稲田大4年のWTB槇瑛人はスクールのひとつ上の先輩にあたる。
中学は「ラグビー部のある学校に行きたかった」と國學院久我山中を受験して合格。東京都中学校選抜として活躍する。高校はそのまま國學院久我山高に進学。高校1年時にチームは「花園」に出場したが、永山はメンバ−入りするもピッチには立てず、高校2年は早稲田実業、高校3年時は本郷高に敗れ、予選決勝で涙を呑んだ。
「花園には出たかったですね......」と悔しそうに振り返る。だが、選手として「高校日本代表に選ばれること」をターゲットとし、U17日本代表で初めて桜のジャージーに袖を通すと、セブンズアカデミーを経て、見事に高校日本代表に選出された。
ラグビー選手を続けるか否か高校日本代表には、帝京大で活躍するFL(フランカー)奥井章仁(大阪桐蔭出身)、HO(フッカー)江良颯(大阪桐蔭出身)、明治大のCTB廣瀬雄也(東福岡出身)と、錚々たるメンツがいた。ただ、大いに期待された世代だったが、コロナ禍により海外遠征は中止となった。
大学を選ぶ際は「高校までを振り返るとラグビーしかしてこなかったので、広い視野を持ちたい」と考え、慶應大の総合政策学部にAO入試で合格。現在は他競技の選手らとともにコーチングを勉強している。
ラグビーを教えることも大好きな永山は、中学・高校では限られた顧問からしかコーチングを受けられないことに疑問を感じていたという。「日本ラグビーを底上げしたい」という想いに駆られ、大学1年時に中高生を中心にラグビー指導する「ESC Academy」を高校時代の同級生と立ち上げた。
「ラグビー界で問題となっている中学生のアカデミーの拠点を増やすこともそうですが、今の大学生の選手たちが選手を引退した頃、セカンドキャリアとして指導者を受け入れる箱を増やしておきたい。10年後にはセカンドキャリアのひとつとして考えてもらえるアカデミーにしたい」
日本ラグビー界の将来を見据え、永山は今後の夢をこう語る。
実は大学1年の終わりに、永山は「アカデミー事業に専念」すべく、栗原監督に「大学2年でラグビー部を辞めたい」と相談したという。しかし、栗原監督からラグビー部とアカデミー事業を両立させるスケジュールを提案され、大学3年になった今も選手を続けている。
高校時代から大型BKとして将来を嘱望されてきた永山は、もちろん多くのリーグワン強豪チームから誘われている。だが、永山はラグビー選手を大学で終えるか、卒業後もプロとして続けるか悩んでいるという。アカデミー事業を発展させるうえで、「若いから話を聞いてくれる人もいる」と考える一方、「プロ選手であれば事業と両立できるかもしれない」とも思うからだ。
早稲田大を抑えるためには?永山は日本代表のポテンシャルを持つ存在だと、栗原監督は思っている。
「これからもっと大きくなって、体重100kgを超えるCTBになれば面白い。リーグワンでプレーすれば泊(はく)がつくし、アカデミー事業の宣伝にもなる。可能ならば選手を続けてほしい」
話を「早慶戦」に戻そう。2010年以来の勝利(2014年は引き分け)を目指す永山は、慶應大のプライドにかけて語気を強める。
「4年生がいるうちに勝ちたいですね! 課題はディフェンスと(反則を減らす)規律の部分。やはり慶應はディフェンスからだと思う。また、12番として常に冷静になってコントロールし、やってきたことを出して勝ちにこだわりたい!」
高速BK陣を擁する早稲田大を抑えるには、モールやプレースキックで得点を重ねて勝機を見出したいところだろう。
昨季の「早慶戦」はリザーブからの出場だった。永山は「今季は(先発から出て)最初からやり合える。独特な雰囲気になると思いますが、緊張はあまりしないから落ち着いてプレーできている。率直に今、ラグビーをやっていて楽しい! それがいい方向にいけば」と声を弾ませた。
二刀流、いや三足の草鞋(わらじ)を履く大学ラグビー界きってのイケメンが慶應大の早慶戦勝利のカギを握っている。
【profile】
永山淳(ながやま・じゅん)
2001年5月10日生まれ。神奈川県出身。2020年、國學院久我山高校から慶應義塾大学に入学。ポジション=センター、スタンドオフ。身長188cm、体重95kg。