日本で唯一の定期寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」には、A個室寝台、B個室寝台4種、普通座席車「ノビノビ座席」が連結されています。その全てに乗車した筆者が、寝心地や特色を比較します。

鉄道車両は車両の真ん中が最も揺れない

 東京〜高松・出雲市を結ぶ寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」。2022年で運行開始から24年目となりますが、国内唯一の定期寝台特急として走っています。


寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」に使われる285系電車(安藤昌季撮影)。

「サンライズ瀬戸・出雲」は、A個室寝台「シングルデラックス」、B個室寝台「サンライズツイン」「シングルツイン」「シングル」「ソロ」、普通座席車「ノビノビ座席」を備えています。寝台列車ですので車内では寝られるわけですが、寝心地は各設備によってどう変わってくるのでしょうか。実際に寝て調べてみました。

 なお、本文中に「騒音計」「振動計」の数値が出てきますが、これはスマートフォンのアプリで計測したものです。3分間の平均値を取っていますが、運行区間や速度、個室設備の位置(鉄道車両は車両の真ん中が最も揺れず、台車の上が一番揺れる)によっても変化しますので、目安とお考えください。

横幅が広い「ノビノビ座席」

 最初は「ノビノビ座席」。寝台料金不要のため、指定席特急料金のみで利用でき、他の個室寝台より6070〜1万3450円安く利用できます。

 側窓に近い一部分のみ仕切りがあり、通路とはカーテンで仕切られます。カーペット敷きの空間が上下段に別れた構造で、上段は眺望がよく、下段は出入りが楽です。座席扱いですが、フルフラットで横になれ、毛布と枕カバーが付属します。小テーブルとドリンクホルダー、コップもあります。

 寝心地は「堅いカーペットが敷かれた床」です。付属の毛布を敷いて、その上で寝れば寝台に近い寝心地になりますが、上着などを布団代わりにすることになります。枕はないので、鞄などの上に枕カバーを敷いて、枕代わりにします。


指定席特急料金のみで利用可能な「ノビノビ座席」(安藤昌季撮影)。

ノビノビ座席上段(3番C席):平均騒音55.5dB(静かな事務室程度)
最大振動:震度3.7、平均振動:震度2.5

ノビノビ座席下段(3番B席):平均騒音58.4dB(静かな事務室程度)
最大振動:震度3.2、平均振動:震度1.7

 個室寝台ではありませんので、セキュリティに不安はあります。ただ1人分の空間は奥行き208cm、幅82cm、高さ96cmあり、特に幅は寝台幅70cmのB個室寝台よりも広く、余裕があります。なお、利用客用のコンセントはありません。

寝台幅が微妙に違う「ソロ」2階室と平屋室

 次は寝台料金6600円と、最も安い個室寝台である1人用B個室寝台「ソロ」を紹介します。B個室寝台の付帯サービスは枕、布団、シーツ、浴衣、コップ、目ざまし時計、スリッパ、ゴミ箱、鏡、コンセントで、どの設備でも同じです。

「ソロ」は平屋個室と2階個室が存在します。個室内の天井高さは1.4m程度で、個室内での直立は困難です。個室の入口部分のみ、平屋室は1.8m、2階室は2.1m程度の高さがあるため、着替えなどは可能です。

 なお室内にほかの個室の階段が張り出している関係で、寝台幅が寝台の途中で変わるのが特徴です。平屋は70cm幅の寝台が途中で56cm幅となるほか、2階室は最も広い部分は70cmですが、それはごく一部で大半が62cm幅とやや狭く、最も狭い部分は56cmです。


「ソロ」2階個室(安藤昌季撮影)。

 一般的に進行方向に足を向けると寝心地がよいとされています。東京行きでは2階室が、高松・出雲市行きは平屋室がその方向を向きます。

ソロ2階室(16番):平均騒音51.3dB(静かな事務室程度)
最大振動:震度3.0、平均振動:震度1.2

ソロ平屋室(17番):平均騒音53.6dB(静かな事務室程度)
最大振動:震度3.6、平均振動:震度1.5

 特に平屋室はモーター音が大き目なので、音に敏感な方は2階室を選んだ方がいいでしょう(出入りが階段なので、足が悪い人は平屋室がいいと思います)。

3種類ある「シングル」

「サンライズ」で最も個室数が多い(80室)のが「シングル」です。電動車で床下機器がある「ソロ」と違い、「シングル」は付随車ですから、2階建て構造でも十分な天井高さが確保されています。

 個室サイズは横幅98cm、縦幅196cmで、床面積は1.9平方メートル。寝台幅は入口付近の狭い部分で60cm。広い部分では70cmです。階上室(36室)、階下室(36室)、平屋室(8室)の3室から成り、寝台料金はいずれも7700円です。


「シングル」の中では屋根が高い平屋室(安藤昌季撮影)。

シングル階上室(7号車25番個室):平均騒音54.6dB
最大振動:震度3.5、平均振動:震度1.2

シングル階下室(14号車9番個室):平均騒音53.7dB
最大振動:震度2.9、平均振動:震度0.9

シングル平屋室(14号車1番個室):平均騒音57.3dB
最大振動:震度3.8、平均振動:震度1.5

シングル平屋室(12号車11番個室・電動車):平均騒音60.5dB(日常会話程度)
最大振動:震度4.1、平均振動:震度1.9

 各「シングル」には同等の設備がありますが、異なるのは寝台横の荷物スペースです。階上室が幅26cm、平屋室が幅25cm、階下室は幅15cmと差があります。

1人でも2人でも使える「シングルツイン」

「瀬戸」「出雲」に8室ずつ備わる、1〜2人用個室。寝台料金9600円と高いものの、補助ベッドの寝台料金は5500円と安いため、2人利用すると1万5100円となり「シングル」2室とほぼ同額になります。

 床面積1.9平方メートルは「シングル」と同じですが、入口付近は天井高さ2.1mあり、余裕があります。寝台幅は狭い部分で60cm、広い部分で70cmです。なお、上段寝台は使わない時は跳ね上げられます。


「シングルツイン」(安藤昌季撮影)。

 車いす対応個室以外は、東京側を頭にして寝る構造で、高松・出雲市からだと、上段寝台の利用者は進行方向と逆に足を向けることになります。2・9号車にある車いす対応個室は、個室長さ2.52mと広いですが、デッキ外にあるのでやや騒音が大きいです。

 寝心地ですが、下段寝台は寝台の横にあるスペースにも腕が伸ばせるので、幅広く寝られます。上段寝台は景色がよいですが、やや狭いです。

シングルツイン(13号車12番個室):平均騒音58.5dB
最大振動:震度3.2、平均振動:震度1.7

人気がある「サンライズツイン」

「瀬戸」「出雲」に各4室のみと数が少ないことから、販売開始と同時に売り切れることも多いのが2人用B個室寝台「サンライズツイン」。寝台料金は1万5400円(2名分)です。

 レール方向に寝台が並行して並ぶスタイルで、室内広さは幅1.94m、奥行き1.96m、床面積3.8平方メートルとかなり広いです。


「サンライズツイン」(安藤昌季撮影)。

 寝台幅は広い部分で75cm〜96cm、狭い部分でも61.5cmあり、他のB寝台よりも広くなっています。わずか5cmですが、寝心地には随分差があります。なお、寝台と寝台の間は41cm、寝台の高さは39cmあるので、スーツケースなどを間に置き、毛布や衣類などで高さを稼げば、親子3人で添い寝も可能です。

 階下なので眺望はよくありません。また冷房の吹き出し口が1か所のみで、吹き出し口が開閉式のため、閉めたままだと室内が蒸し風呂状態になります。

 進行方向に足を向けたい場合は、東京発なら2・4番個室を、高松・出雲市発なら1・3番個室を予約するとよいでしょう。なお3・4番個室は喫煙室のため、隣室でタバコを吸われた場合、若干煙が入ってきます。

サンライズツイン(11号車4番個室):平均騒音47.7dB(静かな図書館程度)
最大振動:震度3.1、平均振動:震度1.5

唯一のA個室寝台「シングルデラックス」

 最後は「瀬戸」「出雲」に各6室設けられた、現役の寝台特急で唯一のA個室寝台です。奥行き2.28m、幅2m、高さ1.8mで床面積は4.6平方メートルとかなり広く、寝台料金は1万3980円です。

 寝台幅は、B個室寝台よりもさらに広い85cm。寝具もサイズの大きな枕に羽根布団とハイグレードなものです。寝台特急A寝台の伝統として、靴クリーナーも備わります。


A個室寝台の「シングルデラックス」(安藤昌季撮影)。

 21〜23番は禁煙個室、24〜26番は喫煙個室です。23番では、24番の乗客がタバコを吸った場合、若干匂うことがありますが、24番を予約できれば、23番は禁煙室なので安心です。

 車端部にはA個室専用シャワールームが備わっており、シャワーカードを購入しなくてもシャワーを利用できるほか、フェイスタオルや歯磨きセット、シャワーキャップなどが入ったアメニティセットも付属します。

シングルデラックス(11号車24番個室):平均騒音49.4dB
最大振動:震度2.9、平均振動:震度0.8

 筆者は2022年9月の平日、月曜日発の「サンライズ」に乗車しましたが、「出雲」は「ノビノビ」11名、「ソロ」18名、「シングル」67名、「シングルツイン」8名、「サンライズツイン」4名、「シングルデラックス」6名の計126名乗車(定員158名、乗車率80%)と盛況でした。「瀬戸」もほぼ同じ乗車率だったと記憶しています。コロナ禍とはいえ、相変わらずの人気の高さをうかがえました。