日韓両国の文化の中で育ったムーギー氏が「なぜか行ったこともない韓国に大激怒している人に限って、よくある4つの残念な誤解」をご紹介します(写真: rainmaker/PIXTA)

「そっか、日本と韓国って」と検索したことがあるだろうか?

「韓国へのイライラ、日本へのモヤモヤがいっきに解消する」「グローバルな視点で、確かな学術論文に依拠して書かれている」「爆笑エピソードが満載で、絶対にこの著者にしか書けない」と話題を呼び、『週刊ダイヤモンド』『PRESIDENT』等のビジネス誌の書評でも評価されているのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』だ。

著者は、『最強の働き方』『一流の育て方』などのベストセラーでもよく知られる、著作累計70万部のムーギー・キム氏。京都に生まれ、日韓両国の文化の中で育ち、フランス・香港・シンガポールで学び働いてきた。同書は、著者が「人生を通じて最も書きたかった1冊」という。

以下では、そのムーギー氏が、「なぜか行ったこともない韓国に大激怒している人たちにありがちな、よくある4つの残念な誤解」について考える。

どちらの「研究結果」を信じるかは、あなた次第

「そっか、日本と韓国って」と検索したら、韓国へのモヤモヤのすべてがクリアに解決するというのが、近頃の私の中での定説になっている。


しかし、皆様そうなされないからか、日韓関係および私、ムーギー・キムへの誤解は根強い。

前回のコラムに対しても、おそらく遺伝子研究のイの字も知らないだろう方々が、2012年の日本人類遺伝学会による発表や、2019年5月13日の国立科学博物館による発表に異を唱え、それはそれは得意げに「Y染色体D系統は、日本人が韓国人と別人種であることの証だ」などなどと1000件くらいの批判コメントを寄せられるのだ。これを読んだ私の開いた口は塞がらず、逆に閉じた瞼が二度と開くことはないのである。

D系統の割合が日本は他の東アジアより高いというだけで、それでも韓国と同様にO系統が一番多いことなど細かいことを書くと果てしないので、やめておこう。人は所詮、信じたいことを信じる生き物だ(「それはお前のことだろ!」と数多くのブーメランがコメント欄で飛び交う姿が目に浮かぶ)。

それでもネットのどこぞで目にした怪しげな「研究結果」か、2019年という最近の、我らが国立科学博物館の「研究結果」のどちらに信憑性を感じるかは、読者の皆様に委ねるしかないのだ。

それにしても、この連載コラムを書けば書くほど、ネットで熱心にコメントを書き込んでくださる皆様と私との溝が広がっているのでは、と心配になっている。

そこで、皆様の温かい、時に熱すぎる叱咤激励に感謝の気持ちを捧げつつ、今日も元気に、深すぎる教養コラムを書かせていただこう。

日韓関係でよく問題になるのが、「韓国は国際合意を遵守していない」という議論である。

「日本政府は合意を守っている。守っていないのは韓国のほうだ」と思っている人は多いだろう。しかし韓国では、日本の政治家こそ「国際合意を無視し、過去を蒸し返す」と思っている。

こう書くと早くも大激怒されそうだが、念のため血圧を下げる薬を飲みながら、以下を読み進めていただきたい。

【誤解1】
日本政府は国際合意を守っているのに、韓国政府が一方的に破棄してきた

1993年の河野談話や1995年の村山談話では、「戦争の悲惨さを若い世代に語り伝え」「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」と語られた。

ところが、実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された。これで、合意を守っていると言えるだろうか?

日本は政権がなかなか変わらないだけ

「韓国は政権が変わるたびにコロコロ変わる」と言われる。しかし、日本はたんに政権がなかなか変わらないだけで、政権を担う勢力が変われば、外交政策や歴史認識、約束ですら、コロコロ変わるのである。

2015年の慰安婦合意では、「最終的かつ不可逆的に解決される」と相互に確認された。

これは韓国側からすれば、日本政府や政権に影響のある政治家たちから、「慰安婦は嘘だった」などと、また村山談話に実質的に反する声が出てくることを牽制するものだった(ただし、私は慰安婦合意に対する韓国政府の対応を擁護するものではない)。

2015年に世界文化遺産に登録された軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。

しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があったのである。

また、元徴用工への慰謝料の支払い問題については、1965年の日韓基本条約での曖昧な合意が根底にある。日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。

その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。

しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である。

「正当性」と「合法性」は違う問題

しかも韓国では、この日韓基本条約が結ばれたとき、民意を代表しない軍事独裁政権が、国民の反対を押し切ってこの問題を棚上げにしたのだった。

日韓併合の実態や経緯に関する学術的証拠に関しては、長くなるので詳細は新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』に譲ることにする。

ただし考えてみていただきたいのは、イギリスが清国に仕掛けたアヘン戦争も、侵略した側にとってみれば「合法」だった。

アメリカによるイラク侵攻も、ロシアによるウクライナ侵攻も、やっている側としては「合法」という主張である。

「正義」と「合法」、そして「正当性」と「合法性」は、また違う問題なのである。

次によく目にするのは、「日本から金をせびるために、歴史問題を蒸し返す」という言説だ。

【誤解2】
韓国は、日本から金をゆするために歴史問題を蒸し返す

しかしながら、たとえば慰安婦合意で日本が拠出した10億円は、韓国の200兆円に迫るGDPの何%だというのだろうか(念のために言っておくと、20万分の1=0.00005%である)。

韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰していたし、村山談話のときの民間からの寄付金に関しても、「国家賠償という性質ではないので、受け取るな!」という反発が強かったのをご存じだろうか。

もし、いま問題になっている元徴用工への賠償で差し押さえられた資産を現金化したとしても、その時に得られる金額は全体的にはごくわずかだ。

その後の経済紛争で生じる損失に比べれば微々たる金額であり、「経済的な観点からも、この現金化は合理的ではないと韓国国内でも議論されている

では、韓国が求めているのは?

韓国側の当事者が求めているのは、「お金」よりも「許し、前に進むための名分」であり、村山談話や河野談話のときのように、あとでその趣旨を覆すような発言をしたり、骨抜きにされたりすることがない、「真心」すなわち「チンジョンソン(真の意志)」がこもった謝罪の気持ちなのである。

ちなみに、日韓基本条約のときに日本から韓国に「経済協力金」が流れているが、その資金の使途は、特定の日本企業からの購入費用に充てられることになっていた

その後、毎年のように何兆円もの巨額の貿易黒字を日本が韓国からずっと獲得することの遠因になっていることも、理解しておきたい。日韓基本条約で、結果的に日本側も恒常的に儲けていたともいえるのだ。

また、「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか?

これを鑑みたとき、日韓基本条約で払った金額ばかりに目を向けるのではなく、巨額の分断・統一コストにも目を向けた、歴史に対する謙虚さは必要であろう。

そして一番多い誤解にもとづく批判は、なんと「『元寇のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」というものである。

これらの怒りも「誤解」に基づくか、重要な文脈を省いてしまっている。

【誤解3】
「『元寇』と『応永の外寇』は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」

そもそも「元寇」では、高麗軍および三別抄(さんべつしょう/モンゴルへの服属を拒んだ高麗国軍の一部の勢力)が約40年にわたってモンゴル軍に対抗したおかげで、日本へのモンゴル(元)の襲来は大幅に遅れた。

当初高麗は、モンゴルが日本を攻めれば自分たちが巻き込まれるので、日本にモンゴルに服属するよう遣いを送っていた。また、これとは別に三別抄は、モンゴルに対抗していたときに、日本に「モンゴルへの共闘」を呼び掛けた。

鎌倉幕府はこの相反する状況を理解できず、幕府と朝廷で指揮系統が混乱していたこともあって、回答しなかった。

そんな文脈のなか、当時の高麗王朝はモンゴルに対する姿勢で派閥争いがあったので、モンゴルをバックに高麗王朝に君臨しようとした忠烈王(ちゅうれつおう)が、フビライハンの歓心を買うべく自国民を犠牲にし、日本の大宰府攻めを進言したと言われている。

これは、日本にとっては大迷惑だが、反モンゴル派の高麗人にとってもたまったものではなかっただろう。

「元寇」から約150年後の室町時代にあった「応永の外寇」は、倭寇が朝鮮を襲い、これに対抗するために朝鮮軍が遠征したものである。

そのどちらも、秀吉による朝鮮出兵や、明治政府による「日韓併合」を正当化する類のものでもないのだが、近年ネットで「元寇と応永の外寇は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」などという誤解がかなり広まっているので、念のため解説しておくこととした。

それにしても、「元寇」や「応永の外寇」で、なんで私が非難されなければならないのだろうか

なんと筆者に「元寇」の賠償要求も!

なかでも私に対する批判の中でも衝撃的なケースでは、「元寇のとき、高麗軍に私の先祖が4人殺されたので、1人1億円で合計4億円、筆者(つまり私)が賠償せよ!」というものもあった。

さらに、比較的面倒見のいい私でも付き合いきれないのが、「刀伊(とい)の入寇」への謝罪要求だ。これ、1000年くらい前に中国大陸に住む北方民族の女真族(じょしんぞく)を中心とした海賊が攻め込んできたときの話だから、いくら何でも私には関係ないのではなかろうか。

それでも、私が謝ることで気が済むのなら、謝罪いたしましょう。「刀伊の入寇、なんか知らないけど、ごめんね」

ここまでお読みくださったかたの中には、プンスカ激怒されている人もいらっしゃることだろう。「反日韓国人が、また嘘を垂れ流している!」と。

ちなみに私は、「北朝鮮のスパイ」とも書かれている。「一人南北統一で、八面六臂の大活躍ではないか。

【誤解4】
ムーギー・キムは在日だから韓国批判はしない

しかし私は『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』では、韓国の擁護だけでなく、数多くの韓国批判も行っている。

韓国側は、ぜひ次のような点をきちんと記憶すべきであろう。

・韓国は、戦後の日本からの経済協力がなければ、漢江の奇跡をあの速さで起こせなかった
・日本には、韓国が感謝すべき「有り難い人」がたくさんいる
・韓国は的外れな怒り方で自爆している
・当事者でもない今の若い日本人に、いつまでも謝罪を求めるのは的外れ
・過度な旭日旗批判は、私が見ても失笑ものの言いがかりに見える
・元徴用工への慰謝料は、日本に支払わせるべきでない

他にも、高麗王朝の魂を元に売った忠列王は大迷惑などうしようもない人物だと思うし、ベトナム戦争での民間人虐殺にも、私は極めて批判的である。

私はこれまでも、一部の韓国人にとっては私が「親日派の嫌韓主義者」と批判されるようなこともたくさん書いているし、韓国人コミュニティの掲示板で私が猛批判をされることもある。

日本と韓国双方に愛情を抱くからこそ書けた1冊

私は重ね重ね、日本側の読者にさえおもねればいい一部の作家や、韓国側の読者さえ喜ばせればいい韓国の一部の政治家は、なんとラクな商売かと思ってきたものである。

しかし、両国双方の読者に認知不協和を起こし、猛批判と罵詈雑言を受けようとも、両国の「言い分」と「誤解」をそれぞれ知っている私が、そして何よりも日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である。

今回のコラムをお読みくださったあなたは、「そっか、日本と韓国って」と検索しながらすっくと立ち上がり、「ムーギー・キムよ、見直した、その通りや!」とスタンディングオベーションをして、周りの人に奇異な目で見られているだろうか。

それとも、「やはり『反日韓国人』とはわかり合えない。国際合意を無視した裁判所の判決を、私は忘れていませんよ?(ニヤリ) 国交断絶に限ります」とネットでコメントして、コメント欄を焦土にされているだろうか?

その答えは、いま本コラムを読んでおられる、あなたのみぞ知る、である。

(ムーギー・キム : 『最強の働き方』『一流の育て方』著者)