日本の企業は従来、「年功序列」が主流で、年齢に関係なく仕事ぶりを評価する「成果主義」が広がってきてはいるものの、まだまだ完全には振り切っていないのが現状です。つまり勤続年数が長いほど給料が上がっていく企業があるわけで、「高い給料をもらっているのに仕事をしない『働かないおじさん』がいる」という目撃証言が散見され、この「働かないおじさん」というワードが広く使われつつあります。

 この記事では働かないおじさんの実態や、なぜこの言葉が誕生したのかについて、いくつかのエピソードを通じて考察したいと思います。

ネットサーフィンやゲームばかり

「働かないおじさん」は、20〜30代の若手社員から特に、批判を集めているようです。罵詈(ばり)雑言や怨嗟(えんさ)の声は、他のネット記事やSNSで容易に見つけられるので、ここではもう少し詳しいエピソードをピックアップしてみました。

「仕事中、手を抜くことにものすごく一生懸命なおじさんを知っています。隙を見つけてはたばこ休憩やネットサーフィンに精を出していますが、上司の前では全力で“働いているアピール”をします。僕たち部下は『彼の本性に気付いて、上司…!』と、いつもやきもきしています。

彼が出先を記入するホワイトボードに『NR(出先から直帰)』と書いているのを見ると、『またか…』とうんざりします」(30代男性)

 出先で用を終えてから帰社すると退社時刻を過ぎてしまう場合に使う「NR」は妥当ですが、帰宅時間を大幅に早める意図で使われる、ちょっとずるい「NR」も存在します。手抜きに一生懸命な人ほど、この「NR」を上手に活用していそうです。

「スマホゲームばかりやっているおじさんがいて、いつ仕事をしているか分からないのですが、不思議なことに自分が与えられた最低限の仕事だけは、必ずきっちりこなしています。しかし人の仕事を手伝うことは決してなく、『自分の領分は絶対守る!』という人なので、部下や後輩からは信頼されていません。

私は社員同士が助け合える関係でいるべきだと考えているので、反面教師としてその人を見ています」(20代女性)

「仕事をしているように見えないのに、自分の仕事はきっちりこなしている」というこのスマホゲームおじさん、見方を変えれば「少ない時間で仕事を終わらせられる」――つまり「仕事ができる」とも言えそうです。それ故に、他人にまったく手を貸そうとしない姿が残念に映るのかもしれません。「スマホゲームをしている時間を他の人へのサポートに充ててくれれば…」というところでしょうか。

「働かない」のはおじさんだけ?

 一方、「働かないおじさん」という言葉に違和感を覚える人たちもいるようです。

「同期や後輩から『あのおじさんは働かない』といった愚痴を聞くたびに、『その人たちなりに働いているんじゃない?』という気がしてしまいます。そもそも、『働かない』と言われるべき人は、おじさんに限らず、女性にも若手にも一定数いるはずです。それなのに『働かない』という枕ことばがおじさん限定というのが、ちょっとふびんに感じます」(30代女性)

 該当しそうな年代の人からも、こんな声があります。

「『働かない』といえば、今の若い世代も大概だと思いますけどねえ。今の若い人たちは全体的に、僕たちが若いときほどガツガツしていないから、よく言えばスマート、悪く言えば淡白という感じです。物足りなく感じることもあるのですが、まあ時代なのかなと思います。

もちろん、ガツガツしている若い人もいますし、スマートな仕事スタイルでも一生懸命さが伝わってくる仕事ぶりの若い人もいます。それでも『若い人たちはガツガツしなくなった』と僕自身が感じる理由は、『現代の若手はドライ』といった先入観があるからかな?と自分自身を疑うこともあります。

それと同じで、『働かないおじさん』も『時代に取り残されて、仕事への情熱も失った中年男性が多い』というイメージが世の中に広まっただけで、実際そんなにいるのかな?という印象です」(50代男性)

 この2人は「『働かない』のはおじさんだけじゃない説」を推しているようです。この説の正誤についての考察は別の機会に譲るとして、ではなぜ「働かないおじさん」という言葉が誕生したのか、考えたいと思います。

高年収で恨まれやすい?

 若手から中堅に変わろうという年代の会社員に話を聞きました。

「部下によく思われていない先輩や上司が『給料だけたくさん取っている“働かないおじさん”』と思われやすい、というのは確実にあると思います。成績が数字で表れる営業のような部署でない限り、『仕事ができる・できない』はその人が醸し出す雰囲気によるところが大きいので、嫌いな上司をディスる時に『仕事してないくせに』と思ってしまいやすい、という構図です。

私も昔は完全にそっちタイプで、『なんでこの上司はたいして働かないくせにこんなに偉そうなのだろう』とイライラしていたのですが、『働かないおじさん』と思っていた上司が、上司自身が抱えている案件と並行して、私を含めた部下のフォローに陰で奔走してくれていたことを知って、『自分の目で見えていることだけが全てではない』と考えを改めました。

確かに、正真正銘の『働かないおじさん』もいますが、ちゃんと働いているのに『働いていない』と思われがちな先輩・上司がいる、というのも事実だと思います」(30代女性)

 年功序列で年収が高くなっているおじさんは恨まれやすく、真偽はどうあれ、「働かないおじさん」と悪口を言われやすい、という説です。これが全てではないにしろ、この言葉が生まれた一側面を表しているであろうという説得力はありました。

”当事者”の思いは?

 最後に、「自分は『働かないおじさん』と思われているかも」という50代の男性に、自身の現状を語ってもらいました。

「働き方改革やネットの普及、さらにここ数年ではコロナ禍の影響で、私が若い頃と今では仕事の在り方が大きく変わっています。

同世代の人たちを見ているとその変化への対応方法はさまざまで、うまく順応している人もいますし、『非能率的』と言われるような昔ながらのやり方を続けて、若手から陰口をたたかれている人もいます。環境の変化が主な原因で自分の仕事や発言が空回りするようになり、それが続くうちに仕事への熱意を失ってしまった人も見てきました。

私自身はというと、変化についていくのに必死ですが、なんとかギリギリやれている手応えがある…というところです。

働いていないつもりはまったくなく、むしろ懸命に働いているつもりではありますが、『仕事に自信満々のオーラ』は出ていないと思うので、周りから『あの人は仕事ができない→働いていない』と見られることもあるのかな、と思っています…」(50代男性)

「働かないおじさん」というフレーズは非常にキャッチーなこともあり、急スピードで広まっています。今後使う機会・耳にする機会が増えるでしょうが、「『働かないおじさん』というフレーズには、いろいろな解釈の可能性がある」ということを胸にとどめておけば、より本質に近い判断ができそうです。