アメリカ株は6月の中旬以降、急激に上昇した。だが「夏の株高」もそろそろ終了かもしれない(写真:ブルームバーグ)

私は前回の記事「『日経平均年末3万円回復』への3つの重要ポイント」(7月22日配信)の中で、「短期のリスクシナリオとして、日経平均株価が目先2万8000円前後でいったん天井を打つ可能性がある」と申し上げた。

日経平均はようやく重要な節目を突破した

経緯を含む結果はどうだったか、日経平均株価で振り返ってみよう。8月10日までは2万8000円前後でいったん天井を打ったようにみえた。だが、想定した急落はなかった。8月12日からは再度上昇に転じてきた。主な理由は下記の(1)〜(3)のとおりだ。

(1)前回配信した7月22日の終値は2万7914円だった。その後、8月4日までは2万8000円の壁を9営業日超えることはできなかった。この間の下値は8月2日の2万7594円、上値が8月1日の2万7993円となった。「上値2万8000円前後、下値2万6000円前後」という今年のボックス相場の上限付近で勢いが止まり、予想どおり、いったんは短期で天井を打ったように見えた。

(2)その後、8月5日の2万8175円と8月8日の2万8249円で2日間だけ2万8000円を超えた。だが、前回記事でもお伝えしたとおり、重視していた年初からの戻り高値である2万8252円(3月29日)にあと一歩のところで下落に転じてしまった。このため、この時点では「明確な強気サイン」は、なお点灯しなかった。

マーケット参加者は8月10日夜に発表されたアメリカの7月消費者物価指数(CPI)発表を警戒して、翌日8月9日は再度2万8000円を割り込み、10日も2万7819円まで押し戻された。今度こそ事前の予想通り「いったん短期の天井を打った」わけだが、短期的なリスクシナリオとして警戒していた大きな下落にまでは至らなかった。

(3)注目された上記の消費者物価指数の結果は物価の伸びが予想以上に鈍化したことを受け、「金融当局は比較的小幅な利上げに軸足を移す」との観測が高まり、アメリカ株が急上昇。休日明けの12日の日経平均株価はアメリカ市場の上昇に引っ張られる形となり、前営業日比727円高の2万8546円と大きく上昇した。テクニカル面では、ようやくボックス相場の上限だった前出の2万8252円を明確に超えて、上昇相場になったとのサインを送る形になった。

では、これからの相場をどう考えればいいのか。もはや「いったん下落の可能性がある」という事前のリスクシナリオを考慮せず強気の部分だけを継続、「日経平均株価は一気に3万円超えを目指す」という方向でいいのだろうか。

確かに、一見すると日本株の需給分析やテクニカル分析の観点からは、短期か中期かは別として、弱気にみていた市場参加者も強気転換せざるをえない局面かもしれない。

日経平均株価が3月29日の重要な節目2万8252円を超えたこともあり、改めて今年1月初旬から直近までの株価推移を確認すると理解しやすいだろう。

この間の主要な高値と安値を見てみると、1月5日に現時点の年初来高値となっている2万9332円をつけた。その後は3月9日の安値2万4717円、3月29日の高値2万8252円、5月12日の安値2万5748円、6月9日の高値2万8246円高値、6月20日の安値2万5771円、直近8月15日の高値2万8871円となっている。

これらを見るとわかるように、3月末と6月初旬に2万8000円台まで急騰して、多くの影響力のある海外投資家などを含む多くの市場参加者が強気に傾き、日本株を買ったところがピークとなっている。その後、それぞれ5月中旬と6月下旬には2万5000円台に急落したトラウマがあった。

8月高値が「今年の戻り高値」になる懸念

今回は、まず8月初旬にかけて日経平均株価が2万8000円前後で戻ったことで「ヤレヤレ売り」(購入した株式がやっと買い値近辺に戻り、損失もほぼ回避できたことでいったん手じまう動き)が増えた。

このヤレヤレ売りが終わるのに、なかなか2万8000円を上抜けしなかったと解釈すべきだろう。これをこなした日経平均株価は需給面の重しがなくなり、8月15日の高値2万8871円につながった。「日本株は素直にNASDAQなどのアメリカ株式の好調に連動して上昇しやすくなった」と見るマーケット関係者が増えているようだ。

こうした見方に対して、私は確かに日経平均株価が3月29日の戻り高値を一気に上抜けたことにより、当面はまだ高止まりする可能性があると見ているものの、「今年の戻り高値は年末」という前回までの予想よりも早くピークが近づいたのではないかと心配している。

その主な根拠は以下のとおりだ。6月中旬からインフレ懸念が後退したことなどにより、アメリカの10年国債の利回りは6月14日の3.478%から8月1日には2.571%まで低下した。直近では注目の7月26〜27日のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げ幅が0.75%に落ち着いたことも、景気を腰折れさせることなく物価高を抑え込む「軟着陸シナリオ」がFRB(連邦準備制度理事会)の思惑どおりに進むとの安心材料になった。

いわゆるグロース株(NASDAQ市場などに上場する株式)は、とくに今年の1月以降、アメリカの10年国債利回りの上昇と逆相関している。それに伴って、グロース株中心のNASDAQ総合指数は6月16日の1万0646ポイントからから8月15日の1万3128ポイントまで約23%リバウンドしてきた。これは前述のように、アメリカ市場がインフレ懸念後退の期待を織り込んできたためだ。

アメリカ市場は金融引き締めを意識、日本株にも影響

だが、同国の10年国債の利回りは上昇に転じてきており、株価急騰もそろそろ一服すると見る。

NASDAQで見ても、年初の1月3日1万5832ポイントから6月16日の1万0646ポイントまでの下落率は約33%の暴落だった。ここから直近までは23%も上昇。3月の戻り高値1万4619ポイントから6月16日安値の1万0646の「半値戻し」1万2632ポイント水準も上抜けした。確かに「半値戻しは全値戻し」という相場格言はあるが、だからといって「強気相場入り」までは言いすぎだろう。

私は、今の相場は「あくまで弱気(ベア)相場のリバウンド(短期的な反発)にすぎない」とみている。アメリカ株の反発をみて、「まだしばらくはベアマーケットラリー(弱気相場の中の反発局面)が続く」という評論家や株式ストラテジストなどの声も大きくなっているが、私は、このラリーは6月中旬から始まった約2カ月の上昇で終わり、下落するタイミングが近づいているようにみえる。

前述のように、足元の日米などの株価はまだ高止まりする可能性もある。だが今後の市場は9月20〜21日に開催されるFOMCでの利上げ継続・金融引き締め(QT)本格化を意識するとみており、ズバリ株価下落に転ずるとみる。日本株もアメリカ株下落の影響は免れず、いったんは下落に転じよう。

なお、株価の調整後は年末にかけて再度上昇に転じるとみている。ただ今回、年内の戻り高値の見通しについては若干引き下げたい。

これまで私は今後の日経平均株価のメインシナリオ(実現可能性70〜80%程度)は「3月を今年の大底として、年後半上昇、年末3万円超」としており、基本は強気の見通しを継続してきた。最新の予想では「日経平均株価の戻り高値は年内2万9000円前後から3万円」に下方修正する。繰り返すが、主要な理由はアメリカ株の下落リスクの高まりなどによるものだ。

最後に中長期の目線でメッセージをお伝えしたい。日本株はアメリカ株と相対比較してバリュエーション(企業価値評価)も低く、また企業統治改革の余地も高いという点で、魅力的である点は変更ない。

今回は主に年末までの視点で市場を予測したが、ゆったりとしたスタンスで再度押し目買いを仕掛けるチャンスを待ちたい。日本株の明るい未来を信じて。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(糸島 孝俊 : 株式ストラテジスト)