今やすっかり夏の風物詩となった音楽フェスティバル。コロナ禍によって20年と21年はほとんどのフェスが中止や規模の縮小を余儀なくされたが、今年は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されていないこともあって多くの音楽フェスが開催を発表。失われた景色が戻りつつある。

音楽フェス復活を象徴するのが7月29日〜31日に新潟県・湯沢町の苗場スキー場で開催された「FUJI ROCK FESTVIAL’22」(以下フジロック)。まだ日本に野外音楽フェスが定着していなかった1997年に初開催した日本フェス界の先駆けともいえる存在だ。

そんなフジロックだが、コロナ禍により大きなダメージを受けていた。ある音楽ジャーナリストは言う。

「一昨年は開催中止、昨年は史上初めて国内アーティストのみで開催されました。昨夏はデルタ株の拡大によって感染者が急増していたことを受けて、ほとんどのフェスが開催を中止。フジロックはそんな状況下での開催だけに、来場者数を例年の半分以下に絞り、『場内でマスク着用を義務化』『酒類の販売、持ち込み禁止』など様々な制約を設けました。

しかし、感染が拡大するなかでの開催は賛否を呼び、直前で出演辞退を申し出るアーティストも少なくありませんでした。さらに開催終了日から2日後に公式HPで、会期中の会場内では陽性者が一人も出なかったと発表し、批判を浴びました」

そうして迎えた今年のフジロック。今年3月、事務局は公式サイトで開催にあたり《今年は、いつものフジロックを目指して、皆さんと共に新たなフェーズに挑戦します》と宣言。出演者にも例年通り海外からの名だたるアーティストが顔を揃えた。

“いつものフジロック”を掲げたものの、新型コロナ対策は欠かせない。公式サイトに掲載されている感染対策ガイドラインでは次のような注意事項が記されている。

《基本的な感染防止対策として、マスクの着用は重要です。不織布マスクを推奨いたします。ただし、屋外でお客様同士距離があり発声や会話がない場合は、感染のリスクが少ないためマスクを外して熱中症の予防やリフレッシュをしてください。会話をする際は、必ずマスクを着用していただき、周りの方へのご配慮をお願い致します。》
《場内では、大声での発声や会話、来場者同士の接触はお控えください。》
《ライブ鑑賞時や飲食時、入退場時や移動時など、人と人との十分な間隔の確保をお願い致します。》

この他にも、「入場時の検温実施」「過度な飲酒を控えること」「こまめな手洗いと消毒」なども呼びかけられていた。

開催終了から2日後の8月2日、「FUJI ROCK FESTIVAL’22 終了のご報告」として公式サイトでは、《フジロック・フェスティバル’22は、7/28(木)の前夜祭からのべ4日間、69,000人のお客さまにご来場いただきました。一部プログラムを変更して開催いたしましたが、出演者の皆様のご協力により無事終了することができました。》と綴られていた。

無事終了を報告した今年のフジロック。しかし、参加者への取材を進めると“危うい実態”が浮かび上がってきた。

10年以上参加し続けている常連参加者は言う。

「コロナ禍前までは、人が密集するステージの前方エリアや一部のスペース以外であれば周囲に配慮した上で喫煙は認められていましたが、昨年から会場内の喫煙所以外での喫煙が禁止になりました。しかし、それでも喫煙所以外でタバコを吸う人がおり、中には前方エリアで堂々と吸っている人もいました」

前出の感染対策ガイドラインでは、会話時のマスク着用を義務付けられていたが、こちらも無視する人がいたようだ。

「フジロックは毎年ほぼ必ず会期中に雨が降るのですが、今年は珍しくほぼずっと晴れて日差しも強かったんです。運営スタッフからは『会話時や人が密集する場所以外ではマスクを外して、熱中症対策をしてください』と頻繁に呼びかけられていました。なのに、密集している場所でマスクを外している人や外した状態で話している人も少なくなく、不安になる場面がありました」(前出・参加者)

オミクロン株の爆発的な流行によって、連日、全国各地で過去最多の感染者数を記録するなか開催された今年のフジロック。無症状の感染者も多いだけに、参加者には感染対策の意識が求められるはずだ。しかし、感染を広げかねない行動が頻発していたと別の参加者は言う。

「昨年は厳戒態勢での開催ということもあり、ほぼすべての参加者がアーティストのパフォーマンスに対して歓声を上げることなく、拍手で応えていました。しかし、今年は酒類の販売が解禁されたせいもあるのか、初日からパフォーマンスに対して歓声を上げる参加者が続出。『声を出しちゃダメだよ』と呼びかけるアーティストはいたのですが、中には歓声や一緒に歌うことを求めるアーティストもおり、それに同調する参加者も少なくありませんでした。大声を出している人を見て、『自分も出していいんだ』と思い、雪だるま式に声を出す人が増えていた印象です。

各アーティストのパフォーマンスが始まる直前に運営スタッフが参加者に『大声を出さないでくださいね』と必ず注意するのですが、あるアーティストのパフォーマンス前ではその呼びかけに対して大勢の参加者が『イエーイ!!!』と返していて呆れました。また2日目のメインステージのトリを務めたジャック・ホワイトが、最後に『Seven Nation Army』という曲を披露しました。冒頭のリフにあわせて観客が合唱するのがお決まりなのですが、大合唱が起きていました」

大声は“会場の外”でも確認されていた。フジロックはYouTube上で各アーティストのライブ配信も行っていたのだが、配信でも参加者の大声が確認される場面が続出。ネット上ではライブ配信を見た人たちからこんな反応が。

《えっ!今年のフジロックも大声禁止だったんですか!?あの歓声なんだったの!?!?》
《フジロックの配信今日ずっと見てたのだけど、声出し禁止にも関わらずめちゃくちゃ当たり前のように歓声聴こえてきて、思ったよりお客さんの民度低いのか?って思った》
《てか今年は歓声すごい大きいなぁ…野外の開放的な雰囲気で素晴らしい音楽聴いたらそりゃ叫びたくなるのもめちゃくちゃわかるけど無料配信で流れてるから少し抑えておくれと思う》

前出の参加者は最後に複雑な心境を吐露する。

「多くの人はルールを守っていましたし、破っていたのは一部の人です。コロナ禍前までフジロックは日本の他のフェスと比べても、制約が少ないフェスとして知られていましたし、そこが大きな魅力の一つでもあります。

ですが、コロナ禍の今、感染を拡大させないためにも参加者はいつも以上に制約を守ることが求められていたはず。なのに、一部の人がルールを破って、しかもその様子が全世界にライブで配信もされている。参加者自らが大好きなフジロックの評判を貶めるようなことをして、どうするのでしょうか」

日本を代表する野外フェスであるフジロック。その火を絶やさないためにも、参加者の姿勢が今、問われているのではないだろうか。