その影響は日本国内だけではない。多くの海外メディアも伝え、世界中のファンに衝撃、そして深い悲しみを与えた。

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遊戯王』作者・高橋和希さんの遺したもの

 漫画家・高橋和希さん、死去。享年60。あまりに早すぎる死だった。

「観光で沖縄に訪れていた高橋さんは、海でシュノーケリングを楽しんでいたようです。詳細は現在警察が調査中ですが、沖縄県名護市の沖合で“遺体らしきものが浮いている”とレジャー業者から通報があり、沖合300メートルの場所で発見され、その場で死亡が確認されました。遺体は発見されるまで時間が経っていて、サメなどによる損傷が見られたそうです……」(全国紙社会部記者)

 高橋和希さんという漫画家の名前を知らない人でも、『遊☆戯☆王』の作者と説明されるとピンと来る人も多いかもしれない。

「『遊戯王』は、'96年に『週刊少年ジャンプ』で連載がスタート。連載初期は1話完結で、主人公の武藤遊戯が悪人を “闇のゲーム”でこらしめていくという内容でした。

 しかし、劇中で登場した架空のカードゲーム『マジック&ウィザーズ』が人気を博し、このカードゲームを中心にストーリーがシフト、かつ漫画としての人気も爆発しました」(マンガ誌編集者)

『遊戯王』は海外でも有名だが、売り上げなども含めた“経済規模”は、このカードゲームによるものが大きい。いや、“大きい”などという表現では小さすぎるほどに巨大だ。

「『遊戯王』に登場し、高橋さんがひと晩で考案したと言われる架空のカードゲーム『マジック&ウィザーズ』は、それ以前から販売され、日本でも人気を博していたアメリカの実在のカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』をモチーフにしています。

 モチーフというより、漫画内での登場当初は“パクリ”という声もあった。しかし、『遊戯王』及び『マジック&ウィザーズ』が人気を博したのは、おそらく漫画界で初めて“カードゲームでの闘いを、かっこよく漫画にしたこと”でしょう。

 “漫画界初”は、イコール“世界初”。日本ほど漫画が発展している国はありませんから。高橋さんの“発明”と言っていい」(前出・マンガ誌編集者、以下同)

億の金額が動く『遊戯王』カードゲーム

 “架空”は、その突出した人気から、“実在”となった。'99年、ゲーム会社・コナミによって、『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム デュエルモンスターズ』が、実在のカードゲームとして発売された。

「『遊戯王』のカードゲームは爆発的な人気となりました。'11年に累計販売枚数251億7000万枚を突破し、“世界一販売枚数の多いトレーディング・カードゲーム”としてギネス認定。

 '13年にも“参加人数が最も多いトレーディングカードゲームトーナメント”としてギネス認定されています。

 販売枚数だけでなく、“レアカード”の高騰ぶりもすごい。『遊戯王』のレアカードは数十万、数百万円という値が付くのも少なくない。大会での入賞者限定で配布されたあるカードは、“遊戯王カード最高額”と言われ約10億円の値が付いています」

 こうしたカードの高騰は、メーカーの販売価格ではなく、二次流通での取引額になるので、高橋さんに入るお金ではない。しかし、“世界でいちばん売れているカードゲーム”の作者に入った金額は当然ながら膨大だ。『遊戯王』のカードゲームが発売されたのは、'99年2月のこと。

「発売から1年後である'00年、当時まだ公開されていた『長者番付』の文化人部門で高橋さんは1位に。

 納税した所得税額は4億369万円で、推定所得10億9800万円。漫画家では『ドラゴンボール』の鳥山明氏、『名探偵コナン』の青山剛昌氏、『うる星やつら』『らんま1/2』などの高橋留美子氏といった誰もが知る名作の作者を抑えての1位。

 他にも音楽界のヒットメーカーである秋元康氏や小林武史氏らも下位に従えていた。その後、公開が終了するまで高橋さんは長者番付の常連でした」(ゲーム会社社員)

高橋さんが漫画家を目指したきっかけ

 もちろん高橋さんの収入にはカードゲームだけでなく、漫画自体の印税、アニメなどメディアミックスによる収入、カード以外のグッズ収入など多岐にわたる。しかし、多くを占めたのはカードによるものだっただろう。

「カードゲームはその作者に印税の形で収入が入ります。販売枚数に対する印税です。実はこの印税率はそれほど高くなく、例えば漫画の単行本なら、作者に10%となりますが、カードゲームの場合は1%程度になります。

 しかし、売り上げ枚数が膨大なので、その実入りはすさまじい。これは“カードゲームメーカーあるある”ですが、カードゲーム業界ではよく“お金を刷っているようなもの”と言われます。『遊戯王』カードはその最たるもの。

 業界では“コナミは造幣局を持っている”などと言われていますし、一部のコナミ社員たち自身も社内の『遊戯王』担当チームを“造幣局”と呼んだりしています。『遊戯王』の売り上げはカードだけで、累計1兆円を超えている計算になりますからね」(前出・ゲーム会社社員)

 高橋さんの資産は、数十億円とも数百億円ともいわれる。

 お金を製造する“造幣局”とも評価されるゲームを作った高橋さんが、漫画家を志したきっかけ……。元々絵を描くのが好きだったが、いちばんの発端は教師によるあまりに心無い言葉だった。高橋さんは'02年発刊の『遊戯王』のコミックス28巻で以下のように語っていた。

《「高橋!お前は『喰って、ウ◯◯して、寝るだけのウ◯◯製造機』じゃあ!」教室内は爆笑の渦!ボクは笑いながらも拳を握りしめ--「殴ったろか!このタコ!」と思っていました。ウ◯◯製造機にマンガが描けるかい!!(怒)マンガ家になる決意をしたのであった--!!》(※編集部伏字)

 中学時代こんな最低な言葉を投げられてから数十年。高橋さんはお金を製造するようなゲームを開発した。いや、それ以上に世の中にもたらしたのは『遊戯王』や『遊戯王』のカードゲームを楽しむ世界中のユーザーの笑顔だろう。