アマゾンやヤフー、楽天などのネット通販サイトで、中国企業の存在感が高まっている。EC事業のコンサルティング会社GROOVE代表の田中謙伍さんは「日本のモノづくりは真面目でレベルも高いが、商慣行が足を引っ張っている。その結果、中国企業が国内市場でも台頭している」という――。
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■日本で起きているのは中国からの「逆・越境EC」

自宅のパソコンやスマホからネットの通販サイトで商品を購入する人は多い。こうした「eコマース」(電子商取引、以下「EC」)はもはや日常風景になっている。

企業側の中には、海外向けに販売する「越境EC」も盛んだ。

だが、実際に日本で起きているのは中国からの「逆・越境EC」だ。

Amazonやヤフーショッピング、楽天市場などのサイトに、中国人が運営するEC店舗が増えているのだ。アマゾンジャパンの市場シェア率をGROOVEが独自で分析したところ、金額ベースで全体の約25%を占める。

なぜ、中国勢は日本国内のEC市場に侵食できるのか。それは、価格が安いからという単純な理由だけではなく、日本の商慣行に根本的問題があるからだ。

このままでは、新型コロナウイルス感染症拡大による巣ごもり需要が高まる中、中国からの逆・越境ECだけが勢いを増す結果になりかねない。

私は大阪府内にある5代続く繊維メーカーの後継ぎとして生まれた。大学を卒業してアマゾンジャパンの新卒採用1期生として入社後、数多くのメーカーの売り上げアップを実現しトップセールスとしての実績を挙げてきた。

その後、独立。AmazonD2Cメーカーを立ち上げ年商50億円を実現した。

D2Cとは、メーカーが自ら企画・生産した商品を卸や小売店を挟まず、自社ECサイトなどを用いて直接、消費者に販売するモデルのこと。2015年には日本のモノづくりをアップデートすることをミッションにしたコンサル会社GROOVEを立ち上げ、メーカーに対し、EC市場での成功に向けた支援を行い、現在に至っている。

それだけに数多くの日本企業がECにおけるチャンスを取りこぼしている現状に危機感を覚えている。

■コロナでも開拓が進まない日本……EC化率は8%止まり

コロナ禍でECは大きく伸びた。

経済産業省の調査によると、日本国内における2020年のEC市場規模(物販系)は12兆2333億円で前年比21.7%増となった。ここ数年のEC市場の伸び率は毎年1桁台で続いていたことを考えると急激な伸びを見せた年だった。

また、小売業全体の商業販売額の増減率は前年比0.9%増だったことからも、消費者のEC需要が拡大していることが分かる。

しかし日本のEC化率は前年から1.32ポイント増やしたものの、まだ8.08%しか開拓できていない。先進国の中では日本のECは遅れているのが現状なのだ。

ここで米中両国のEC市場規模(2020年)も見ておこう。

・中国
市場規模:11兆7600億元(約208兆1520億円、前年比10.6%増)
EC化率:30.0%(前年比3.9ポイント増)
・米国
市場規模:7879億ドル(約89兆4270億円、前年比32.4%増)
EC化率:14.0%(前年比3.1ポイント増)

米中は2桁増で市場規模を拡大させていた。日本は市場規模もEC化率も大きく差をつけられている。日本はコロナ禍による巣ごもり消費の定着で急拡大している市場をほとんど取り込めていないといえる。

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■しがらみに悩むメーカー幹部

日本国内のEC市場開拓率が低い背景には、日本独特の商慣行の構造的な「しがらみ」の問題がある。メーカーの中間流通業者への忖度(そんたく)がEC推進の障壁になっているケースが多い。

現状、メーカーが消費者へ商品を届けるまでに、商社などの卸売業者や百貨店、ドラッグストアなどの小売業者が中間流通として複雑に絡み合っている。

EC化を推進しようとしても、既存の取引先との古い付き合いや依然として高い実店舗売上比率(日本全体では約92%)もあり、中間流通業者の影響力は大きい。

EC側で価格を大きく下げるとすぐさま小売店のバイヤーから指摘の連絡が入る。小売店も生き残りに必死だ。

こういった状況もあり、実店舗と同様に卸売などを中継した旧来の商流構造をECでもなぞってしまうメーカーが多い。そのためEC化に向けた「戦略がない」「人材がいない」「ノウハウがない」といった課題が解決されず放置されたままとなっている。

旧来のメーカーがこのような既存のしがらみや商習慣から脱却できないまま、片手間的にECに取り組んでいる間、近年「D2C(Direct to Consumer)」と呼ばれるECを通して消費者に直接商品を販売するビジネスモデルが、スタートアップ企業を中心に盛んになっている。

D2Cはそもそも中間流通業者を挟まないビジネスモデルのため、利益率が高く、価格決定権がメーカー側にあることが特徴だ。

またD2Cメーカーは消費者からの意見を吸い上げやすく、商品改善サイクルが早いことが従来のメーカーの新商品開発体制との大きな違いである。

ターゲット消費者もミレニアルやZ世代といったデジタル世代を中心に拡大をしているD2Cは消費者の多様なニーズを捉え、次々と新ブランドが市場に誕生している。

■追い打ちをかける中国メーカーの躍進

このように市場での存在感を増しているD2Cメーカーだが、当然この流れは日本国内に限った話ではない。世界中でD2Cメーカーによる市場開拓が進んでおり、中国をはじめ海外のD2Cメーカーは日本へと越境してきている。

中国は安い人件費を武器に単価を下げた商品ラインナップで、ジリジリと日本への越境ECを展開してきた。10年以上前は、中国製品というと「粗悪品」「盗品」「コピー」などと否定的なイメージを抱く消費者が多かったであろう。

しかし今では、このような商品は大幅に減ってきており、日本の家庭では、雑貨をはじめ、服やパソコンのマウスに至るまで中国からの逆・越境EC商品という事態になっていることに気づいているだろうか。

低人件費で商品の単価を極限まで下げる一方で、商品の品質を徐々に“まとも”にさせ、日本国内に着実に浸透してきている。

今やこの種の低価格品の大半は中国からの越境ECによってもたらされていて、日本のAmazonでは約4分の1を中国製品が占めてしまうことになったわけだ。この状況を日本企業が巻き返すのは容易ではない。

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■中国と日本のメーカーの決定的な差

なぜ中国メーカーの品質が向上してきているのか。国策をはじめいくつかの理由があるが、ここではメーカーとして日本との大きな違いをピックアップする。

中国メーカーのモノづくりは、日本従来の完璧品質を求めるモノづくりとはスタンスが全く異なっている。最初から完全なものを作ろうとはせず、未完成な状態で市場に投入をして、後から改善をしていく考え方である。

何よりも市場に投入するスピードを重視し、そして消費者の声を取り入れながら改善を繰り返していく。当然改善の速度も圧倒的で高い頻度で繰り返される。永遠のベータ版をリアルなモノづくりで行っているのだ。

また中国のEC市場規模は世界ランキングのトップである。

ECだけでなく、ライブコマースなどの新しい販売チャネルも発展しており、SNSを活用した消費者とデジタルで直接つながるマーケティングノウハウも、豊富に持ち合わせていることも中国メーカーが強い理由だ。

旧来の日本のメーカーでは前述のとおり、国内の既存中間流通業者の存在感が高く、コントロールできない領域があまりにも多い。そのため消費者との距離が遠く、新商品の市場投入スピードも遅くなる。

さらに日本中でDX人材不足が叫ばれているとおり、社内にデジタル人材が育っておらず、ECやデジタルマーケティングのノウハウの蓄積もできていない。

なお、国内でもD2Cメーカーは中国メーカー同様の強みを持ち、従来の日本メーカーの弱点をついて、スピードとダイレクトな消費者とのつながりによる商品開発の力で成長をしてきている。

■従来の慣習から抜け出せなかった油断

結論として、少々厳しい言い方となるが、中国発の越境ECがあふれてしまった本当の理由は従来の慣習から抜け出せなかった日本企業の油断が招いたと言っても過言ではない。

EC事業の伸びは実店舗小売と比べると高く見えるので安心しているメーカーがいるが、実はEC市場全体の成長スピードにはついていけておらず、市場内シェアはどんどん中国メーカーや一部の国内D2Cメーカーに食われてしまっている実態を見落としている。特にAmazonではそのケースが多いので注意が必要だ。

なお、政府も危機感を持って支援策を講じている。今年から10月10日を「デジタルの日」と定め、デジタル庁を中心にECでのセールやキャンペーン、イベントなどの開催に取り組んだ。さらに今年度の補正予算にも、事業者に対するEC化支援策を盛り込んでいる。

成果はこれからとなるが、政府の支援策は企業がECサイトに出店することやECサイトを構築するスタートラインに立つところだけの支援で終わっており、その先の成長戦略を描けていない課題がみられる。

本当に必要なのは、メーカーと消費者のコンタクトポイントをネット上に増やし継続的に運用し続けることであり、売り上げ増のための工夫やノウハウを伝える人材の確保・育成・投資などへの支援も今後期待したい。

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■変化への対応力が日本メーカーに試されている

さて、従来の日本のメーカーが本質的に持つ強みはこれからの時代全く通用しないのだろうか。

日本EC市場に進出している中国メーカーのすべての企業がきちんとした商品を提供しているとは限らない。いわゆる「やらせレビュー」「サクラレビュー」といった不当な手法で高評価の書き込みを増やし販売を誘発するようなやり方をする企業も少なくない。

Amazonではこの事態を大きく問題視しており、これら不当なレビューに対する対策に、年々力を入れ厳しく取り締まりを行っている。

米Amazonシニア・バイス・プレジデントRuss Grandinetti(ラス・グランディネッティ)氏は10月5日に開催したAmazon ECサミット2021において、不正レビューの取り締まりに対して年間数百億円の投資をしており、2020年は2億件を超える不正なカスタマーレビューを停止したと明らかにした。消費者の不安や不信感を取り除き、健全な市場を作ることに力を入れている証拠だ。

また、Amazonは日本国内の中小規模の販売事業者の支援を2020年から強化している。日本国内だけではなく世界に向けての販売支援を行っているのは、日本のメーカーにはまだまだポテンシャルが眠っていると感じているからだろう。

■「真摯な姿勢」だけでは中国勢に勝てない

当然ながら消費者が求めているのは正しい情報と安心な取引、そしてきちんとした商品である。中国メーカーの安かろう・悪かろうが受け入れられたのではなく、自分自身のニーズに対してその商品が持つ価値と価格が見合っていたから受け入れたのだ。

そこには中国メーカーであることもD2Cメーカーであることも老舗の国産メーカーであることも関係ないのが今の時代の消費者の姿だろう。

日本企業のモノづくりや消費者に対する真摯(しんし)さは、強みでもあり弱みにも成り得る。

消費者、メディア媒体、流通構造など時代の変化を捉えてフェアバリューを生み出すことが肝要である。これまでの価値観を大きく変えてモノづくりを行いEC市場への進出をうまく活用していかない限り、中国メーカーの躍進に勝てない状況が当面の間続くだろう。

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田中 謙伍(たなか・けんご)
GROOVE代表 ECコンサルタント Amazon研究家
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社、出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、同社大阪支社の立ち上げを経験。マーケティングマネージャーとしてAmazon CPC広告スポンサープロダクトの立ち上げを経験。GROOVEおよび Amazon D2CメーカーのAINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円超の年商を達成。
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(GROOVE代表 ECコンサルタント Amazon研究家 田中 謙伍)