東京・池袋で2019年4月、暴走した車に母子がはねられて死亡した事故を巡り、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で起訴された飯塚幸三被告(90)=旧通産省工業技術院元院長=に9月2日、東京地裁で禁錮5年の判決が言い渡されました。控訴の可能性もありますが、刑が確定した場合、飯塚被告は実際にどのような「禁錮」生活を送ることになるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

読書は可、内容は事前確認

Q.禁錮と懲役の違いを改めて教えてください。

佐藤さん「禁錮は刑事施設に拘置する刑です(刑法13条)。それに対して、懲役は刑事施設に拘置して、所定の作業(刑務作業)を行わせる刑です(同12条)。すなわち、両者の違いは刑務作業を強制されるか否かであり、刑務作業をしなければならない懲役の方が重い刑罰とされています(同9条、10条)。

ただし、『無期の禁錮』と『有期の懲役』とでは禁錮の方が重く、『有期の禁錮の長期が、有期の懲役の長期の2倍を超えるとき』は禁錮の方が重い刑となります(同10条1項ただし書き)。例えば、『7年以下の禁錮』と『3年以下の懲役』とでは『7年以下の禁錮』の方が重い刑です」

Q.刑務作業がないということは、禁錮の場合、何をしてもよいということでしょうか。読書をしたり、新聞を読んだり、テレビを見たりしてもよいということでしょうか。スマホやパソコンを使うことはできますか。

佐藤さん「刑務作業の義務が課されないとはいえ、自由に何をしてもよいわけではありません。スマホやパソコンは外部のいろいろな情報や人に接することができるので、使用できません。たばこを吸ったり、お酒を飲んだりすることも禁じられています。

余暇の時間帯等であれば、読書をしたり、新聞を読んだりすることは可能です。本は外部から差し入れてもらったり、刑務所内にある図書館で借りたりすることができます。現金を差し入れてもらい、購入する方法もあります。新聞や雑誌についても自費で購入することができます。

テレビがついている部屋ではテレビを見ることもできますが、どの番組でも自由に見られるわけではなく、指定されたチャンネルや視聴を許可された録画のみというのが一般的です。ラジオについても同様で、問題がないと認められたニュース番組などは聞くことができます。なお、視聴できる時間帯など、具体的な運用は刑事施設ごとに異なります。

その他、親族などと面会することもできます。ただし、面会回数や面会時間には制限があり、場合によっては職員が立ち会うこともあります。手紙については、原則、誰とでもやりとりすることが可能ですが、内容について、あらかじめ検査が行われることがあります。

禁錮刑の受刑者も改善指導(犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、ならびに社会生活に適応するのに必要な知識および生活態度を習得させるため必要な指導)が行われます(刑事収容施設法103条)。交通事故を起こしてしまった人に対しては、交通安全指導など、特別な改善指導もあります」

Q.読書に関しては、どんな本でも可能なのでしょうか。例えば、漫画も可能なのでしょうか。

佐藤さん「書籍であれば、原則、漫画であれ小説であれ、読むことができます。ただし、外部から差し入れる書籍については、刑事施設の規律や秩序を乱すことにつながる情報が書き込まれていたり、脱獄に関する情報などが含まれていたりする可能性があるため、内容が確認され、閲覧禁止となることがあります(同70条)。

受刑者にももちろん、憲法で保障された人権があります。差し入れられた書籍の閲覧を禁じることは、受刑者の『知る自由』といった人権を制約することにつながりますが、受刑者の場合、刑事施設の規律や秩序を守ったり、矯正処遇を適切に実施したりするため、制約が必要となることがあり、差し入れの書籍の確認や閲覧禁止は必要、かつ合理的な範囲の規制として認められています。

なお、差し入れた書籍の内容を事前に確認することは憲法21条2項の禁じる『検閲』には当たりません。検閲とは、表現物の発表の禁止を目的として行うものとされており(最高裁1984年12月12日判決)、すでに出版されている書籍の内容を審査したとしても『検閲』には該当しません」

刑務作業を望む人多い

Q.読書や新聞購読が苦手な人は何もしないことで、かえって、つらくなることもあるのではないでしょうか。

佐藤さん「禁錮の場合、日中、監視を受けながら何もすることがなく過ごすことになり、精神的苦痛が大きいと言われています。そのため、禁錮受刑者の多くは『刑務作業を行いたい』と自ら申し出ています(請願作業)。

申し出があると、刑事施設長は原則、作業を行うことを許可します(刑事収容施設法93条、同法規則56条)。作業を行うことを許可された者がその後、作業を行わないことを希望する場合、2週間前までに申し出ることになっています(同法規則56条2項)」

Q.禁錮の実際の生活はどのようなものですか。元大臣など世間的には特別な存在の人の場合、部屋が広いなど、他の受刑者と違う扱いになることはあるのでしょうか。

佐藤さん「刑事収容施設ごとに起床時間、就寝時間、食事の時間などは異なりますが、次のような流れが一般的かと思います。

朝6時半ごろ起床し、人員点検や清掃などを行い、7時ごろには朝食、その後、刑務作業を許された禁錮受刑者は作業を行い、正午ごろに昼食をとります。休憩時間を挟みながら、午後4時半過ぎに作業が終わり、身体検査等を行います。午後5時ごろには夕食、その後自由時間となり、午後9時ごろ就寝となります。

元大臣など世間的に特別な存在だからという理由で優遇されるわけではありません。ただ、受刑者は改善更生の意欲や社会生活に適応する能力の程度に応じて、第1種から第4種までの『制限区分』に指定され、それに応じて、設備や処遇方法が決められる仕組みになっています。

また、受刑態度を評価して、第1類から第5類までの『優遇区分』に指定し、優遇区分に応じて面会の回数を増加させたり、自分の費用で購入できる物の範囲を広げたりする制度もあります。こうした制限区分や優遇区分によって待遇が決まります」

Q.退屈に耐えかねて、暴れたり、刑務官に暴言を吐いたりするとどうなるのでしょうか。

佐藤さん「暴れたり、暴言を吐いたりすることは刑事施設の職員の職務の執行を妨げる行為に当たる可能性があり、合理的に必要と判断される限度で刑務官によって制止されたり、拘束されたりします(刑事収容施設法77条)。

また、こうした問題行動は順守事項違反に当たり、懲罰が科されることがあります(同150条)。懲罰の内容によっては、一定期間、自分の費用で購入した物品の使用が認められなくなったり、書籍の閲覧が制限されたりすることもあります(同151条)」

Q.高齢で禁錮生活の継続が難しくなった場合、どのような処遇になるのでしょうか。

佐藤さん「高齢受刑者は増えており、介護が必要な受刑者も少なくありません。そのような場合も、刑事収容施設での生活を継続する運用がなされています。具体的にどうするかというと、若い受刑者の刑務作業として、着替えやおむつ交換の介助をさせたり、ペースト状の食事を用意したりして対応するのです。

刑事施設においては、受刑者の心身の状況を把握することに努め、健康保持のため、社会一般の水準の医療を受けられることになっています(同56条)。病気の疑いがあったり、飲食物を摂取できず生命に危険が及んだりする場合は、速やかに刑事施設の職員である医師による診療を行い、医療上の措置をとり、刑事施設外の病院に入院させるのは、やむを得ない場合に限られます(同62条)」