自分と向き合う時間が増えたコロナ禍、20代の自分を見つめる方法とは(写真:Zinkevych/PIXTA)

「あなたは幸せですか?」

こう聞かれたら、ちょっとどきっとしませんか。


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博報堂生活総合研究所が行った長期時系列調査「生活定点」(最新調査は2020年6月24日〜7月31日実施)に、「あなたは幸せですか?」という質問項目があります。そこで「幸せである」と答えた人の割合で、気になる動きを見せた年代がありました。20代女性です。

20代女性の幸福度が下がっている

「幸せである」と答えた20代女性は2014年以降、男性も含めた全年代でトップでした。しかし2020年は78.2%と高い水準であったものの、前回調査の2018年から5.9ポイントも急低下。トップから陥落してしまったのです 。


(出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」)

ほかにも、20代女性の意識の変化について、気になる項目があります。前回はトップだった「生活が楽しい」では7.2ポイント下がり、1998年の調査開始以来トップを保っていた「身の周りでよろこばしいことが多い」も前回から15.3ポイント下がって、いずれも1位の座を明け渡してしまいました。


(出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」)


(出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」)

30代女性に「幸せである」「生活が楽しい」と答えた人の割合が増えているのも印象的なのですが、それは全体からすればむしろ珍しい傾向です。20代を含め、それ以外のすべての年代でこうした「幸福度」に関するような値が下がっているわけです。多くの世代で、自粛生活や先への不安など、新型コロナの影響を受けて全体的に幸福度が下がるのは自然にも感じられます。

その中でも、今回特徴的な動きを見せた20代女性たちは、どんなことを感じているのでしょうか。3人の20代女性へのインタビューを交えて探ってみたいと思います。

20代女性の3人に2人が占いを信じる

まずは筆者が気になったのが、こちらのデータです。

「占い・おみくじを信じる」が、20代女性では前回から17.1ポイント伸びて66.3%となり、全年代で1位でした(全体平均32.5%、男性平均21.5%、女性平均43.7%)。

もともと全年代の中でいちばんスコアが高く、最も占いを信じる年代ではありましたが、今回調査では20代女性の実に3人に2人が占い・おみくじを信じていることになります。


(出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」)

そして、この大幅な伸びには何か理由がありそうです。その実態を知るべく、筆者の知人で占いが好きだというYさんにインタビューしました。

Yさん(27歳/女性/会社員)

──占いやおみくじを信じていますか?
私は夢占いが好きです。深層心理が夢に表れる感じなので当たることが多いと思います。
変な夢を見たときも、そこに深層心理的な意味合いがあることが、夢占いを続けていると直感的にわかってきて……そうすると、今日見た夢はどんな意味なんだろう? どんな精神状態を表しているんだろう?と気になって。
なので、今の私のコンディションはどんな感じだろう?という感覚で占いをやっています。

自分の状態やコンディションを知る手がかりの1つとして、夢占いをやっているというYさん。もちろん占いといっても、「あなたの今日の運勢は〇〇」といったものから、手相や星座、血液型、タロット、風水など、さまざまな種類があります。それぞれタイプは異なると思いますが、多くのものは自分で自由に解釈できる余地が残されているのではないでしょうか。

占いの内容が肯定的であれば、前向きに行動するきっかけになるし、励ましの言葉とも受け取れるかもしれません。身の周りの人と会う機会が減って、気軽な雑談も減った分、人に励ましてもらうような機会も持ちにくくなっています。そうしたなか、占いの言葉がそれにとって代わることもあるのかもしれません。

なお、「生活定点」の調査では、「自分自身のことをもっと深く知りたい」とする20代女性の比率が伸びていました。前回から11.6ポイント伸びて39.6%となり、全年代で1位となっています。(全体平均17.1%、男性平均13.6%、女性平均20.7%)。こうしたことも無関係ではないように感じます。


(出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」)

ほかにも、コロナ禍が長期化する中では 、

◼時間的ゆとりがある
20代女性71.8%(前回調査+5.1ポイント) 全体平均65.7%

◼自分の将来のことがストレス[ストレスを感じる人のみ] 
20代女性46.8%(前回調査+6.6ポイント) 全体平均29.4%

といった結果も出ています。

コロナ禍によって時間に余裕ができて生活が変わる一方、先行きの不透明さを抱える人は少なくありません。自分のことをもっと知ることで、今後への不安を少しでも払拭しようとしているのかもしれません。

もう少し掘り下げるべく、コロナ自粛中に占いにハマったという、Oさんにもインタビューしました。

Oさん(22歳/女性/大学生)

──占いにハマったきっかけは何ですか?
時間に余裕ができた分、有効に使わなきゃという気持ちがあって……何かしていないと「この時間を無駄にした」と後悔するのではと不安だったんです。家にいる時間を充実させたい気持ちがあったので、自分を飽きさせないために何かないかと探していたところ、自粛期間中にテレビでタロット占いをやっているのを見て始めました。タロットカードと解説本を買って、自分や友達を占っています。

──占いを始めて、何か変化はありましたか?
今までは動きまわってないといけないと思っていたけど、家にいても意外と平気だったり、1人になっていろいろ考えたら、実はこういうことのほうが自分に合ってて楽しいかもって気づきました。自分を見つめなおす時間になっていると思います。

時間に余裕ができた分、何かやることを探す中で占いにたどりついたというOさん。タロット占いが自分を見つめなおす時間となり、今までとは少し違う本来の自分に気づくきっかけになったようです。

今の自分を知るための新しい趣味

同じく、コロナ自粛をきっかけに新しい趣味を始めたというSさんにも話を聞いてみました。

Sさん(25歳/女性/会社員)

──コロナ禍をきっかけに、何か新しいことを始めましたか?
初めの時期は友人みんなで何かを共有するのが楽しかったけど、オンライン飲みも飽きて、おのおの好きなことをやり始めています。私は運動不足なのでアプリを見ながら筋トレをしたり、料理も始めました。会社の同僚は、きのこを育てたりぬか漬けをしたり……新しい趣味を始めている人が多いですね。前より外には出なくなったけど、やりたいことはいっぱいあります。

──なぜやりたいことがいっぱいあるのですか?
どこに自分らしさを出すか、自分のこだわりをどう突き詰めるかを、みんななんとなく探している気がします。何かをしているときのほうが、今の自分が何を好きなのかを感じやすいので。
ただ、これをやるべきというのはなくて、たくさんある選択肢の中で、自分は何をやったら楽しいんだろう、成長できるかな、というのを意識しています。つねに楽しくありたいし、幸せでありたい。

──何か目指している姿があるのでしょうか?
漠然と成長したい気持ちがあるだけで……今成長してる途中なんだっていう実感があれば十分です。
筋トレも、この体型になりたいからとゴールを置いた瞬間、強制されている感じがして苦しくなったり、自分のものじゃなくなる感じがします。それよりは、日々筋トレをやっていること自体に満足しています。続かなければそれでいいし、周りの人も自由にやっている人が多い気がします。

今の自分がどうしたら楽しく幸せでいられるのかを知るために、新しい趣味を始めたというSさん。何かをしているときのほうが、自分らしさが何かを感じやすい。つまり、新しい趣味は今の自分を知るための手段の1つだということです。時間ができて1人になったことで、意識がさらに自分に向いていったのだと思います。

Sさんは会社で人事を担当しているとのことで、こんな話もしてくれました。最近の学生さんに会うと、圧倒的に“川下り型”が多いと感じる、というのです。

川下り型とは、キャリアの歩み方や人生の考え方を2タイプに分けたときの考え方です。将来なりたいものから逆算するタイプを山登り型、つねに川を漕いでいき、分かれ道が来たときにどちらに行くかを考えて進むタイプのことを、川下り型といいます。

私も学生のときは、例えば受験やダンスコンクールでの優勝といったわかりやすい目標があったけど、仕事を始めたら、将来どうしようかと考えてもキリのないことだと悟り……徐々に自分も川下り型になっています。いくらでも選択肢があるからこそ、今から狭めたらもったいないので、無理に先を考えないようになりました。

今の自分は前と比べて何が好きなんだろう、最近こういうことが好きになってきたなといった、今の自分を知ることに時間を割くようになりました。将来の設計より、今の自分の振り返りを大事にしているし、コロナ禍でよりいっそう強まった感じがします。


「今の自分」を意識して大事にしていることがわかります。先の見えない将来のことを気にしてもしょうがない、ということの裏返しかもしれません。

何が幸せで何が不幸せなのか、その定義は人によって異なり多様化している時代です。今の自分を大切にすることで、自分の幸せを見つけ、自分で認めてあげようとしているように感じます。

幸せになるための努力をする世代

最後に、今回話を聞いた中では最年少のOさん(タロット占いを始めた大学生)は、コロナ禍で下がってしまった幸福度を、自分たちがどう取り戻そうとしているかをこのように語ってくれました。

私たちは、自分が胸を張って幸せと言えるように、いつも幸せになる努力、楽しむ努力をしている世代だと思います。自分にとって幸せ・楽しいこととは何か?を考えて、努力してその幸せに向かおうとする人が多いと感じます。

また、自分なりの幸せを見つけようとするので、多様な価値観とともに、幸せの種類も増えている気がします。例えば、恋愛がうまくいかないときは単に不幸だと思うのではなく、別の場所で楽しみを見いだそうとするので、好きなアイドルやアニメを見つけてのめり込んでみるとか、カフェを回ったりご飯を食べ歩いたりするとか、どこかで幸せを感じられるように行動すると思います。幸せじゃない、楽しめていない自分なんて認めたくはないのです。

ここまで、「占い・おみくじを信じる」を入り口に、20代女性の幸福観を探ってみました

家にいる時間が長くなって新しいことを始めてみたというのは、単調な生活を充実させるためだけでなく、幸せになるための模索でもあるのかもしれません。自分を知り、今を大切にし、自ら幸せになるんだという強い意思を、20代女性の行動の裏側に感じました。

インタビューを通じて自身を振り返ると、自分の幸せを外や周りに求めすぎていないか? 自分にとっての幸せが何かをわかっていたか? そんな疑念が頭をよぎりました。

せっかく1人の時間が増えたのだから、今回登場してくれた20代女性たちのように、何か新しい趣味を通じて自分を見つめる時間を増やしてみるのもいいかもしれません。先がわからない世の中で、拠り所になるのは他人や未来ではなく、今の自分なのだということを、改めて感じるきっかけになるのではないでしょうか。

【参考情報】
「生活定点」調査概要
調査地域:首都40km圏、阪神30km圏
調査対象:20〜69歳の男女2597人(2020年・有効回収数)
調査手法:訪問留置法
調査時期:1992年から偶数年5月に実施(2020年調査のみ時期が異なり、6月24日〜7月31日実施)