オンラインサロンを体験した島田氏

 コロナ禍のいま、ネット上の有料会員制コミュニティ「オンラインサロン」の会員数が伸びている。

 サロン運営大手2社(DMMオンラインサロン、CAMPFIREコミュニティ)の合計会員数は、前年比で約2倍の16万8000人にもなる。

 主宰者は、いずれも熱狂的なファンを持つ著名人だ。しかし、彼らと会員との繋がりは、「教祖と信者」との関係にも似てーー。

 日本を代表する宗教学者の島田裕巳氏(67)が、この新しいコミュニティに自ら入会し、その実態を綴った!

 少し前のこと、ツイッターの投稿に、「カリスマとコミュニティという点において、オンラインサロンについて島田裕巳が何か書かぬものか」というものがあった。この書き込みのことは気になっていた。

 最近では、オンラインサロンがもたらす害についての記事も見られるようになったので、今回、宗教学者としてオンラインサロンに潜入してみることにした。

 宗教の本質は、たしかに「カリスマとコミュニティ」にあるからだ。

 宗教団体に潜入するのは、かなり覚悟がいることだし、危険もともなう。それに対して、オンラインサロンは、直接入っていくわけではなく、生身の相手と接するわけではないので、自宅にいながら潜入が可能だ。

 多くのサロンは月々1000円程度の会費を設定している。それさえ支払えば、たちどころにメンバーになることができる。

 入ったひとつが、オリエンタルラジオの中田敦彦(38)の「PROGRESS」というオンラインサロンだった。

 入ってみると、そこは「学園」になっていて、中田による朝礼があり、授業がおこなわれていた。

 親切にも、初心者向けにZoomによるオリエンテーションもあるようだが、顔出ししなければならないようなので、それは避けることにした。

 中田はシンガポールへ移住するらしく、最初に見た朝礼は、隔離中のホテルからのものだった。朝礼なので短いのかと思ったら、1時間以上続いた。

 いちばん驚いたのは授業である。

 シンガポールでの最初の授業(3月28日)を聞いてみたが、それはなんと3時間半も続いた。最後のほうは、見ているメンバーとの質疑応答になったが、中田は延々としゃべりつづけるのだ。

 最初は動画の準備時間があり、そのときは緊張感がないが、授業開始となると中田は一気にテンションを上げ、そのまま3時間16分の間、授業は続いた。

 本人はさすがに疲れたと言っていたが、用意していたメモも見ないままのトークだった。まさにPERFECT HUMANである。

 授業の内容は漫画『DEATH NOTE』についてのもので、漫画を読まない私には関心のないものだったが、中田の放つエネルギーには圧倒された。

 私も大学で授業をしており、今はオンラインだが、授業時間は1時間半である。その倍以上、突っ走るように話しつづけるのは容易なことではない。

 中田のようなPERFECT HUMANでなければ、とてもオンラインサロンで人を集めることはできないだろう。

「PROGRESS」の会員数は5000人をわずかに上回るようだが(取材当時、以下同)、オンラインサロンのなかで圧倒的に多くの会員を抱えているのが、キングコングの西野亮廣(40)の「西野亮廣エンタメ研究所」である。

 なんとその会員数は約7万人にのぼる。私は、そちらにも潜入してみることにした。

「エンタメ研究所」は、西野がほぼ毎日投稿すFacebookが中心である。それはまず西野の近況が短く綴られ、その後に、彼が進めているエンタテインメント事業の進捗状況や、事業を進めるうえでの方針やコツなどについて説明されている。

 全体は4000字程度で、ひどく長いというわけではないが、毎日となると、会員も読み通すのはかなり大変だろう。

 西野は2016年に『えんとつ町のプペル』という絵本を出版している。この絵本は相当に豪華な作りで、2200円もするが、累計で69万部出ているという。

 それを映画化したものが、2020年のクリスマスの日に公開され、これもヒットした。3月14日の時点で、興行収入は23.6億円、動員数は171万人を記録した。

■「西野があなたを意識する権」1万円

 西野は絵本と映画の成功をもとに、ミュージカルの公演や美術館の開館をめざしており、投稿では、そうした話がよく出てくる。現在進行している事業であるということが強みになっているようだ。

 なかなか賢いと思わせたのが、エンタメは、その結果や成果を売るだけではなく、そこに至る過程も売る必要があるという方法論である。

 いくら優れた作品を作り上げたとしても、それが金銭的な利益に直結するわけではない。西野はたとえば、ミュージカルをやる会場の下見をする権利を商品化し、それを販売して利益を確保する道があると示唆しているのだ。

 ただ、こうしたやり方には批判があり、「西野があなたを意識する権」というものを1万円で販売(「購入型クラウドファンディング」の返礼品にして支援を募集)したことがやり玉に挙げられている。

 これは、購入者のことを西野が意識して感謝し、困ったときは本気で相談に乗るというものである。意味があるのかないのか、そこがわからない内容だが、これを購入した人間は123人にものぼったという。

 こうした方向に傾斜していけば、世間からの批判は大きなものになっていくだろう。

吉本興業を退社する前日の西野

 西野は、投稿を通してだけではなく、リアルタイムでメンバーに語ることもある。一度私はそれを見た。西野は、今自分が進めている事業について語っていたが、それに対して、メンバーからはチャットによる反応がある。

 彼は、それを見ながら話していて、関心を呼ぶようなチャットには直接反応していた。そのなかで、これがこのサロンの魅力なのだろうと思わせたのが「速さ」だった。

 それは夜の9時半近くではなかったかと思うが、突然、「では10時からエンタメについての作戦会議をZoomでやろう」と言い出した。それは10名限定で、参加費は5000円だった。集まった金は、ミュージカルをやるときの弁当代にするとも言っていた。

 果たして集まった金がそうした使い方をされるのかはわからないが、西野のサロンにはスタッフがいて、すぐに会議ができる用意をしたようだ。

 普通、何か物事を決めるには、それ相当の時間がかかる。意見が割れて、実現しないこともある。根回しも必要だ。

 ところが、西野のサロンでは、それを動かしているのは主宰者である西野本人だけなので、決定は即座になされ、すぐに実行に移される。そのスピード感に引きつけられるからこそ、多くの会員が生まれるのだろう。

 西野のサロンは、現実の社会と根本的に違うという点で、会員にとっては一種のユートピアになっている。ライブ配信を見て、私はそのように感じた。

 そのことは西野のサロンの会員になって、対面でのイベントに参加した経験を持つ人に話を聞いて、さらに確信できるようになった。その人物は、西野の投稿を読むだけではなく、会員の一人が開催したオフ会にも参加したという。

 集まってきたのは、ほとんどがそれまで付き合いのなかった人間たちで、初対面であった。ところが、初対面であるにもかかわらず、話がはずみ、昼前にはじまった会は夜まで続いたという。

 普通だとあり得ないことだというのが、その人物の感想だった。

 オフ会というのは飲み会でもあるわけで、普通ならそこにいる人間は愚痴をこぼすことになりやすい。愚痴を言いたいがために、そうした会に参加するという人たちも少なくない。

 だが、そのオフ会では、愚痴など出なかった。皆、前向きで、そうした話しかしなかったというのだ。

■愚痴に満ちた「煙突だらけ」の社会

「前向き」がオンラインサロン全般に共通する特徴でもあるようだが、西野の言動も影響している。西野は、どうしたらエンタメの事業がうまくいくのかを語り、またその成果について言及している。

 サロンの会員が求めるのも、物事を前向きにとらえるということであり、愚痴を言い合うことではない。そうしたことがオフ会にも反映されていることになる。

 私はその話を聞いて、『えんとつ町のプペル』の舞台が煙突だらけの町に設定されていることとの関連性に気づいた。

 西野にとって、煙突だらけの世界は、愚痴に満たされた一般の社会なのだ。社会は煙突から出てくる煙で覆われており、青い空を見ることができない。そんな世界観が、彼の根本にあるようなのだ。

 それをいかに突き破るのか。それが絵本や映画の描き出そうとすることであり、サロンが目指すところもそうなのである。だからこそ、サロンは一種のユートピアになるのだ。

 そうであれば、西野はそのユートピアを生み、支えている教祖のような存在なのだろうか。「西野があなたを意識する権」の話を聞くと、彼は教祖化の道を歩んでいるようにも見える。

 しかし、前出の人物の話によれば、会員のあいだで西野の話が出ることはほとんどないし、オフ会に西野本人がいても、全体の注目をさほど集めないという。その点では、西野が教祖への道を歩んでいるわけではないようなのだ。

西野亮廣エンタメ研究所の様子

 決定的に重要なのは、中田のサロンでも西野のサロンでも共通して言えることだが、会員のあいだに序列が作られていないことである。

 ほかのサロンのことについてはわからないが、サロンを運営しようとする場合、序列を作ろうという考えが生まれるのは、ある意味自然なことである。

 サロンに金銭的、あるいは物理的に大きな貢献をした人間を厚遇する。会員をいくつかの種別に分けて、待遇に差をつけるのだ。宗教団体ではそうしたことを試みるところが多い。

 新宗教の代表である創価学会でも、活動歴によってブロック長や支部長に昇進していく仕組みがある。それは宗教団体だけのことではない。家元制度では、免状を与えることで金集めをしている。宝塚の私設ファンクラブでも、貢献度によって待遇が変わる。

 ところが、私が潜入したオンラインサロンには、そうした序列が導入されてはいない。

「西野があなたを意識する権」を購入しても、それで序列が上がるというわけではない。

■かつての新宗教のようになっていく

 1000円の会費でも7万人いれば、7000万円である。収入としてはかなりのものだ。しかし、内容以外に会員をサロンに縛りつけるものはない。やめようとしている会員を、ほかの会員が引き留めるなどということも起こらない。

 それがおこなわれているのは、マルチ商法にサロンを利用しているところである。主宰者が異様な情熱で熱く語りつづけ、事業で次々と成功を収め、発展していかなければ、会員は簡単に離れていくことだろう。

 それぞれのサロンのなかでは、オフ会もそうだが、主宰者とは別に会員同士が活動することも可能になっている。それが発展していけば、サロンはより強固なものになっていくのかもしれない。

 実際、素人の会員が出るライブをほかの会員が観にいったり、会員の新しく開いた店に出かけていくということはあるようだ。その点では、かつての新宗教のように、相互扶助の組織になっていく余地はある。

 まとめてみれば、現在のオンラインサロンは、「カリスマの力が弱い、ゆるやかな繋がりのコミュニティである」ということになるのではないだろうか。

 それは、現代の社会が求めるところを象徴しているように思える。強力なカリスマはうさんくさい。強い繋がりのコミュニティは要らない。そんな心性が広がるなかで、オンラインサロンは、そうした社会的な願望を実現する場となっている。

 オンラインサロンは、人と人とを結びつけるというかつての新宗教が果たしていた役割を代替しているのである。

●しまだひろみ 
1953年生まれ 東京都出身 東京大学大学院博士課程修了(宗教学専攻)。現在は作家、宗教学者、東京女子大学非常勤講師。著書に『創価学会』(新潮新書)、『日本の10大新宗教』(幻冬舎新書)など多数。最新刊は『いつまでも親がいる 超長寿時代の新・親子論』(光文社新書)

 次ページでは、そのほかのカリスマたちの「オンラインサロン」を比較する。

本田圭佑

【️カリスマたちが「オンラインサロン」に続々参入】

■落合陽一塾

落合陽一/メディアアーティスト
会費 1万1000円/月 
会員数 353人
※作家・落合信彦氏を父に持つ多才な主宰者がジャンルレスに徹底講義

■Edo All Unitedオンラインサロン

本田圭佑/プロサッカー選手
会費 1万円/月
会員数 194人
※本田が発起人のクラブ「Edo All United」を会員で運営

■ひぐち君の日本ワイン会

ひぐち君/髭男爵
会費 3500円/月
会員数 60人
※醸造者やソムリエをゲストに迎え、ワインを愉しむ少数サロン

■箕輪編集室

箕輪厚介/編集者
会費 1000〜5940円/月
会員数756人
※有名編集者が主宰する、クリエイター志望の大学生に人気のサロン

■西野亮廣エンタメ研究所 

西野亮廣/キングコング
会費 980円/月
会員数 6万7532人
※ほぼ毎日更新されるFacebookの書き込みを通して、考え方を学ぶ

■シナガワえんためクリエイト

品川祐/品川庄司
会費 5000円/月
会員数 61人
※俳優、脚本家、スタッフを募り、目指すはハリウッド映画の製作

■カズレーザーとクイズ天国・難問地獄(仮) 

カズレーザー/メイプル超合金
会費 1000円/月 
会員数 188人
※番組出演を機にクイズにハマった芸人と新作問題や攻略法を研究する

■アニキリゾートライフ

丸尾孝俊/実業家
会費 1350円/月 
会員数 2982人
※元暴走族総長の企業経営者が、移住したバリ島の魅力や成功術を配信

■つんく♂エンタメ♪サロン〜「みんなでエンタメ王国」

つんく♂/プロデューサー
会費 1000円/月 
会員数 989人
※音楽などの制作志望者とサポーターがプロジェクトを一緒に進める

■石井裕之オンラインサロン「沢雉流儀(たくちスタイル)」 

石井裕之/セラピスト 
会費 5500円/月 
会員数 2136人
※定価6万円の情報商材をヒットさせた主宰者のモチベーションアップ術。現在は募集休止中

■人生逃げ切りサロン

やまもとりゅうけん/フリーランスエンジニア 
会費 2480円/月 
会員数 4608人
※アフィリエイトやネット物販、動画編集などの副業で稼ぐ方法を伝授

■堀江貴文イノベーション大学校 

堀江貴文/実業家・著述家 
会費 1万1000円/月 
会員数 1009人
※約30の分科会があり、多くのビジネスや商品が生まれる実践的サロン

■PROGRESS 

中田敦彦/オリエンタルラジオ
会費 980円/月 
会員数 5335人
※海外に移住した高学歴芸人が講義動画を配信。“部活動”も豊富

■本田健オンラインサロン 

本田健/実業家
会費 980円/月 
会員数 6339人
※29歳でセミリタイアした自己啓発本作家。ゲストの参加も多い

(週刊FLASH 2021年4月27日号)