[画像] Jリーグ好調3チーム、スタートダッシュ成功の要因を分析する

福田正博 フットボール原論

■Jリーグが開幕し、J1では望みどおりのスタートダッシュを成功させたチームがいくつかある。好調チームの要因は何か。福田正博氏に解説してもらった。


開幕5連勝の川崎。旗手は献身的な動きで大活躍している

 Jリーグが開幕し、J1各チームの戦いぶりを見ながら、改めて川崎フロンターレが他チームより一歩も二歩も先んじていると感じている。

 圧倒的な成績で優勝した昨シーズンのチームがベースなので、開幕前からその強さは予想していた。一方で中村憲剛が引退し、守田英正が移籍(サンタ・クララ)したこともあって、「そう簡単には行かないのでは?」という懸念もあった。それが蓋を開けてみたら、さらに進化した姿を見せつけられた格好だ。

 開幕から5連勝。その得点力もさることながら、セレッソ大阪戦では大久保嘉人に2ゴールを許したものの、3点を奪い返して逆転勝利。こういうチームはなかなかお目にかかれるものではない。

 強さの一つとして目立っているのは、攻撃のところでボールを奪われると、素早く切り替えてボールを再奪取し、そこからチャンスをつくっていく点だ。これは昨シーズンも行なっていたが、今季はインテンシティ(強度)と、チームとしての連動やプレーの精度がさらに高まっている。

 そして感心させられるのは、これだけの強さを見せながらも自分たちの強さやうまさに酔わず、慢心や驕りといった部分が見えないこと。

 これは全盛期のジュビロ磐田もそうだった。圧倒的な強さとうまさを持ち合わせながらも、最前線の中山雅史が泥臭くプレーしてチーム全体が常に勝利のためにハードワークし続けて隙を見せなかった。

 今の川崎も、最前線のレアンドロ・ダミアンが体を張り、左サイドバックの旗手怜央がハードワークをするなど、全員がチームのために汗をかいている。だから、足元をすくわれるようなプレーぶりがないのだろう。

 選手層でも昨季を上回り、先発メンバーを大幅に入れ替えてもチーム力が落ちない。仙台戦では、前節から先発メンバー6人を入れ替えたが、チームとしての戦い方に大きな変化はなし。主力をしっかりと休まて、いいコンディションで次の試合に臨ませることができている。この好循環を開幕早々につくれたのは、長いシーズンを見据えた時には大きいだろう。

 敢えて不安材料を探せば、今季から加入したジョアン・シミッチの務めるアンカーのところ。シミッチには足元の技術やセットプレーで高さを発揮できる武器がある反面、守田に比べれば、守備での強度がやや足りないが、言いかえればそれくらいしか懸念点がない。

 昨季の川崎は開幕戦こそ引き分けたものの、第2節から10連勝し、第14節からは12連勝。今季はどれくらい連勝を伸ばしていくのか。また、どこが川崎を止めるのかに注目している。

 昨季川崎と1勝1敗の対戦成績だった名古屋グランパスは、リーグ戦とACL(AFCチャンピオンズリーグ)を両睨みした大型補強を敢行して今季に臨み、開幕から4戦4勝。ただ、この勝ち点12は課題だった攻撃力がもたらしたものというよりは、昨季から安定している守備陣によって手にしたものと言っていいだろう。

 マテウス、前田直輝、相馬勇紀、阿部浩之、ガブリエル・シャビエルに、今季から柿谷曜一朗と齋藤学を加えたアタッカー陣の顔ぶれは充実している。その彼らを活かすポイントになるのが、1トップの選手だ。

 金崎夢生が故障で出遅れているなかで、山崎凌吾が1トップを務めている。山崎は左利きで足元もうまく、ヘディングでの強さもあるいい選手だ。ただ、現状のレベルで言えば、優勝を狙うチームの1トップとしてまだ迫力不足の感は否めない。彼がもう一段レベルアップするか、新たな強力FWを獲得できれば、川崎に食らいついていけるのではないか。

 川崎に次ぐインパクトを残しているのは、サガン鳥栖だろう。主力だったボランチの原川力(現C大阪)、左サイドバックの森下龍矢(現名古屋)、FWの金森健志(現アビスパ福岡)が移籍し、新たに獲得した外国人FWが合流できていないなか、開幕からリーグ戦3連勝。4試合で8得点、失点ゼロは最高のスタートと言っていい。

◆鎌田大地以来の「希望」となる17歳が出現。新生サガン鳥栖の未来>>

 昨季13位の鳥栖は、大卒2年目のFW林大地や、26歳の仙頭啓矢と25歳の小松屋知哉の京都橘高出身のMFコンビなどがいい働きをしているが、目を引くのは金明輝監督が大胆に起用するアカデミー出身の10代の選手たちだ。昨季から17歳のDF中野伸哉、19歳のMF本田風智、18歳のMF相良竜之介などを起用し、育てながらチーム力を高めてきたが、それが今季のスタートダッシュにつながっている。

 印象的なのは、戦い方の幅が広がっている点だ。昨季は4−4−2や4−2−3−1の布陣を使っていたが、今季は開幕戦から3バックを導入している。これについて金監督は、「昨季は降格がなかったので理想を追求したが、今季は現実的に戦いたい」と狙いを明かしている。

 若い選手が多いなかで戦い方に幅が持てるのは、金監督が長くアカデミーで指導してきたことも要因だろう。鳥栖のアカデミーはボールをしっかりつなぎ、ハードワークをするサッカーを徹底していて充実しているが、そこからトップチームに昇格した選手たちと金監督との間に、厚い信頼関係が構築されている点も見過ごせない。

 サッカーは名前や年齢でするものではない。鳥栖の選手たちが若く、全国的には無名ということで侮ってかかると、どこのチームも鳥栖に痛い目にあわされるはずだ。

 好調なチームが見えてきた一方で、昨季2位のガンバ大阪にとっては、厳しいシーズンの幕開けになってしまった。ゼロックス・スーパーカップで川崎に敗れ、開幕戦ではヴィッセル神戸に足元をすくわれて、今季の公式戦は2連敗スタート。

 立て直しを期した矢先に、選手やスタッフの新型コロナウイルス感染が判明し、第2節から第6節までの5試合と、ACLの兼ね合いで前倒し開催の予定だった第11節の合計6試合が『試合前中止』となった。

 新型コロナの感染リスクは全チームが同じように抱えているものだが、実際に起きると苦しさしかない。試合中止分は代替日程が組めなければ0−3での不戦敗になるのだが、今季はACLも戦うG大阪にとっては6試合も新たに試合を組み直すのは容易ではない。仮に6試合すべてで不戦敗になれば、4チームが降格となるリーグ戦で大きなハンディを背負うことになる。

 なにはともあれ、試合ができる環境を取り戻すことに集中してもらいたい。J1の20チームがすべて揃って、全試合が行なえる日が来ることを願っている。