「THE ANSWER スペシャリスト論」ラグビー・廣瀬俊朗

「THE ANSWER」はスポーツ界を代表する元アスリートらを「スペシャリスト」とし、競技の第一線を知るからこその独自の視点でスポーツにまつわるさまざまなテーマで語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」をスタート。元ラグビー日本代表主将の廣瀬俊朗さんがスペシャリストの一人を務め、スポーツにまつわる話題を豊富な知見を活かして定期連載で発信する。

 今回のテーマは「体育会系部活と就職活動」について。高校、大学と文武両道を貫き、現役時代はラグビー日本代表のキャプテン。引退後は起業家としても活動の場を広げる廣瀬さんに、就活生へ向けて伝えたいことを聞いた。(文=THE ANSWER編集部・角野 敬介)

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「就職活動」――。多くの学生が直面し避けては通れない、人生の大きな節目の1つだ。そんな就活市場で、まことしやかにささやかれる格言として「体育会出身者は就活に有利」というものがある。実際にある検索エンジンで「体育会系 就活」と打ち込むと、関連ワードの最上位に「有利」と出てくるほどだ。

「●●大学のラグビー部」「××大学の野球部」は本当に就職に強いのか。そんな疑問を、元ラグビー日本代表キャプテンであり、現在はマルチにフィールドを広げる廣瀬さんに率直にぶつけてみた。

「どうでしょうね。有利そうでありますが、一括りに言えない。当然、体育会でも頑張っている人もいるし、頑張っていない人もいますよね」と前置きしつつ、こう続けた。

「ただ実体験として、体育会に入って頑張っている人は何かをやり遂げようという力が強いのではないかと感じます。多少、理不尽だったり、納得いかないことが起こる中でも、続けてきたという経験は大きいのかなと思います」

 廣瀬さん自身、日本代表にまで上り詰めたラガーマンとしては異色ともいえる経歴の持ち主だ。大阪の名門・北野高から慶大に進学。慶大ラグビー部で主将としてプレーする一方で、理工学部に籍を置き、文武両道を地で行った。就職活動の経験こそないが、大学院進学を念頭に置いて、楕円球を追うのは大学までと考えた時期もあるという。

 現役引退後は東芝のコーチを務めながらビジネス・ブレークスルー(BBT)大学大学院で経営学を学びMBAを取得。東芝を退社後は俳優、ニュースコメンテーターにも挑戦するなど精力的に活動の場所を広げている。ラグビー界、アスリート界だけではない、様々な人間と交流を持つ中で、体育会出身者が企業に好まれるとするならば、どんな理由が挙げられるだろうか。

「はきはきしていたり、最低限の礼儀やマナーが、体育会出身者はある程度“しっかりしている”というイメージが持たれやすいのだと思います。それに思い切りや挑戦する意識、根性があるというような、実際その人のことが分からなくてもイメージはできますよね」

 一般的に体育会出身者が持たれる「体力がある」や上下関係による「理不尽に強い」といったイメージに加えて、実際に描いたことを実行に移す力“実践力”の存在も強調する。

「事前に考えていたことを実践している分、頭でっかちにならないというのがあるのかもしれません。頭で描いていたことを、実際にやってみたら全然できない。やってみたら、想像とは全然違うことがあることを経験しています。体感することの大事さを知っている強みがあるのかなと思います」

 ではやはり体育会出身者は、こと就活においては明確に有利なのだろうか。廣瀬さんが本当に伝えたいことは違った。

「傾向というのはあるとは思います。ただ自分自身が会った人で、『(体育会で)やっていなかったから頑張ってなかった』という人にはお会いしたことはありません。今はどこの大学を出たから、何をやっていたから絶対に有利という時代ではなくなってきている。結局はその人自身がどんな人なのかが大事です」

廣瀬さんが評価する人材とは? 「自分で考えて動けるかどうか」

 前段階として体育会出身者が持つイメージは、おぼろげな先入観になりこそすれ、今や無条件にアドバンテージになる時代ではない。それ以上に求められるものがある。東芝退社後の2019年に株式会社「HiRAKU」を立ち上げた。経営者としての視点から、採用したい人物像は明確だ。

「(自分の理念、信念に)共感してもらえるかというのが、前提としてまず1つあります。そして成長して常に学んでいけるような人間で、かつそれにアクションが伴うこと。実践できる力を持っているかどうかは見たいですね。

 普段の生活を共にしていく中でわかってくるものもある。例えば1日ゴルフを一緒にすれば、人となりが見えてきますよね。プレッシャーがかかる局面で、普段は出てこない一面が見えたりします」

 追い込まれた時にこそ、その人の真価が見えてくる。さらに言うと逆境に置かれた経験が人を成長させるのかもしれない。廣瀬さん自身も立場が変わり、人に求めるものも変わっていった。

「相手がこうなってくれるだろう、といった点に関しては現役の時のほうが強かった気がする」と明かす。キャプテンとしてチームを引っ張った選手時代はその人の現実を見据えずに、楽観的に期待していたが、その責任は取らなくても済んだ。

「コーチや経営者になってくると、願望だけじゃない。現役の時のように『やってくれるに違いない、やってくれるだろう』という考えで接することはできません。(周りに)期待をし過ぎて結果が出なかったら、結局は自分の責任です。見通しが甘かったということ。そう思うようになりました」

 そんな中でも廣瀬さん自身、学生時代から今に通じて一貫してブレない信念というものもある。そしてそれが学生に対して、求めるものでもある。

「ずっと大事にしていた考え方は『自分で考えて動くこと』。大学時代もそうですし、選手としても大事にしていました。そこは大前提としてありました。誰かがこう言ったから、じゃあそうしようと。それで成功したとしても楽しくないと思います。自分で考えて行動した時に、成功するとより面白い。“面白さ”の価値観というものがそこにあった。小さい頃からそうやって自分で考えてやっていくのが好きでした。

 ただ難しいことではなくて、ただ言われたことをやることだって、最終的には自分で考えて決断している。その前提に立つということ。これから何が正解かわからない時代の中で、自分で考えてワクワクしながらやっていくのが楽しいことなんじゃないか。結局、社会から求められるのはそういった価値観なのかもしれない。最初から大きなことはできないが、小さいことからでも、自分からでもアクション出来るといいかなと思っています」

 自分で考えて動く――。簡単ではないように聞こえるが、誰もが日常的にやっていることだと廣瀬さんは説く。体育会かそうでないかよりも、自らの意思で道を切り開ける人こそ強いと感じている。

■廣瀬俊朗/THE ANSWERスペシャリスト

1981年生まれ。元ラグビー日本代表キャプテン、日本代表キャップ数28。現役引退後、「ビジネス・ブレークスルー大学大学院」にて経営管理修士(MBA)を取得。ラグビーW杯2019では公式アンバサダーとして活動。試合解説をはじめ、国歌を歌い各国の選手・ファンをおもてなしする「Scrum Unison」や、TBS系ドラマ「ノーサイド・ゲーム」への出演など、幅広い活動で大会を盛り上げた。現在は、株式会社HiRAKU代表取締役として、ラグビーに限定せずスポーツの普及、教育、食、健康に重点をおいた様々なプロジェクトに取り組んでいる。2020年10月より日本テレビ系ニュース番組「news zero」に木曜パートナーとして出演中。(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)