2020年4〜9月期において赤字に転落した朝日新聞社。社員向けの新聞購読を有料化するだけでなく、希望退職の募集など大規模なコスト削減策を打ち出す(撮影:梅谷秀司)

社員ならばタダで読めていた『朝日新聞』が有料になる――。

朝日新聞社が社員に対する自社の新聞購読料の補助を廃止することが、東洋経済の取材で明らかになった。

同社ではこれまで、社員による朝日新聞の購読で発生する料金を、福利厚生の一環として会社が負担してきた。しかし、この制度が2021年4月以降のどこかで廃止される見込みだ。

「自ら購読することで部数を支える」

朝日新聞社は東洋経済の取材に対し、「購読料補助の廃止について従業員と労働組合に伝え、現在、理解を得るべく説明を行っている」と回答している。

2020年12月15日付の同社社内報によれば、制度廃止の理由は約2億円の支出削減に加え、社員が「自社の商品を自ら購読することで朝日新聞の購読部数を支えるとともに、有料で購読している一般読者の視点に立って朝日新聞の価値を考えるきっかけ」とすることだ。

業界を代表する企業の1つである朝日新聞社が、社員の福利厚生にまで手を付け、コスト削減に踏み切る。その背景には、経営成績への強い危機感が透ける。

朝日新聞社は2020年4〜9月期決算で、売上高1390億円(前年同期比23%減)、営業利益92億円の赤字(前年同期は6.5億円の黒字)に沈んだ。中間期での営業赤字転落は2009年度以来だ。

主力のメディア・コンテンツ事業では、ネットの普及などに伴い新聞の需要が減退。部数の落ち込みはとどまることを知らず、朝日新聞朝刊部数が1日平均504.8万部(前年同期比8%減)まで減少。新聞などの広告収入やイベント収入が縮小したことも痛手となり、前年同期に30億円だったセグメント損失は116億円に拡大した。

本業の赤字を補ってきた不動産事業も、ホテルで新型コロナ影響による急激な減収が発生。セグメント利益は12億円と前年同期から半減した。

419億円の巨額赤字で社長が退く

さらに、将来の利益計画の前提を、新型コロナ影響が2022年3月期も継続する仮定に見直した結果、繰延税金資産の取り崩しが約300億円発生。純利益ベースでは419億円の大赤字に陥った。

同社の社内報では経営状況について、「創業以来の深刻な状況」と書かれている。渡辺雅隆社長は業績不振を引責する形で退き、2021年4月より後任に中村史郎副社長が就任する見込みだ。

2020年11月30日付の中村新体制における基本方針には、「緊急収支改善対策の推進」や「不採算事業の撤退・縮小」といった言葉が並ぶ。社員に対する新聞購読料の補助廃止は、この一環とみられる。

朝日新聞社によれば、今後は社員の給与から新聞購読料を天引きする方向で労働組合と調整している。自腹での購読継続に強制性はないが、購読を停止する社員はその旨を、会社側に伝える必要がある。

朝日新聞社員からは「購読しなかったことで自身の評価に影響がないか」「上司からの圧力はないのか」といった声が上がる。また、社員による購読部数の下支えを掲げる会社側に対し、「これでは(自社製品を買い取らせる)自爆営業と同じではないか」と憤りを隠さない者もいる。

一方、会社側は「購読の有無という事実を評価の基準とする考えはないし、その点は従業員にも説明している」「購読の実態を把握しようとしていない」(広報)という。

希望退職に記者の配置転換も

中村新体制の基本方針には、ほかにも厳しいコスト削減策が並ぶ。その1つが希望退職者の募集だ。2024年3月期までに300人規模の募集を想定し、自然減も含めて2020年3月期比で計500人の人員削減を掲げる。

同時に非新聞事業の拡大へ、大規模な配置転換も実施する見込みだ。中村次期社長は社員への年頭メッセージとして「編集のノウハウを持った人がビジネス部門(中略)に貢献するという流れを加速させる」必要性を訴えている。現在、朝日新聞社が収益の3本柱と位置づける「デジタル(朝日新聞デジタルなど)」「イベント」「不動産」への人員異動を活発化させる見込みだ。

年頭メッセージの中で、とくにベテラン社員に対しては、やりたい仕事と会社から求められる仕事のズレがあった場合「この機会に、自らのキャリアデザインと本社の方向性について、じっくり考えていただきたい」と言及がなされた。

前出とは別の朝日新聞社員は「お金を稼ぐわけではない記者の数を減らし、ビジネス部門へ異動させる。もしそれが嫌であれば辞めてくださいということだ」と語る。

中村新体制の基本方針の冒頭にはこのように表記されている。「未曾有の赤字を乗り越え、事業構造を一気に転換し、成長するメディア企業として生き残り、ジャーナリズムを守る」。

しかし、新体制下で社員が不満を持ち、協力する体制が作れなければ元も子もない。大胆なコスト削減とともに、全社の機運を高めることはできるのか。中村次期社長の経営手腕が早くも問われている。