紙はいずれ「オワコン」(終わったコンテンツ)と化してしまうのだろうか。脱ハンコやリモートワークの流れが、製紙業界にとっては強い逆風となっている。完全に紙の需要が消えることはないにしても、ビジネスの縮小は免れない可能性が高い。
■これから製紙業界で起きること
脱ハンコや新型コロナウイルスの感染拡大によるリモートワーク化、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームは、いずれも製紙業界にとっては逆風となっている。アナログの紙からデジタルへのシフトを加速させるからだ。
● ●リモートワークによる影響は?
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、国は企業に対し、リモートワーク(テレワーク)の積極的な活用を求めた。リモートワーク導入のための緊急支援プログラムも実施し、すでにリモートワークの日々が日常と化した会社員も多い。
このリモートワークが浸透すると、おのずと紙でのやり取りが減る。同僚と資料をやり取りするときも、取引先に見積書や提案書を送るときも、PDFファイルやWordファイルを利用することになる。
新型コロナウイルスが収束したらこのような状況も終わるのかと言えば、完全にはそうでもない。リモートワークの利便性やリモートワークで事足りる業務があるということに気づいた企業は、その後も一部社員に対してリモートワークを導入し続けるはずだ。
優秀な海外人材や遠隔人材も、リモートワークという形態なら採用できるという点も大きい。
● ●脱ハンコによる影響は?
いま、官公庁において脱ハンコがすでに始まっている。河野太郎規制改革相は11月、行政手続きにおいて必要とされていた「認め印」を全て撤廃することを発表した。実印が必要な手続きは除かれるが、約1万5,000の手続きの99%以上で押印が不要となる。
これまでは、ハンコを押した資料をスキャンしてメールで送付する、といったことが当たり前のように行われていた。脱ハンコが進むと、押印してもらうために資料をわざわざ紙に印刷する必要がなくなる。つまり脱ハンコは「脱紙」も加速させるというわけだ。
河野大臣は、官公庁での脱ハンコを強力に進めているわけだが、この流れは民間企業にもすでに波及している。例えば日立製作所は、紙の使用量を年5億枚減らしつつ、2021年度中に押印を全面廃止する目標を掲げた。すでに電子署名サービスを導入し、目標達成へ動いている。
● ●DXも製紙業界にはネガティブ要因?
2020年の流行語大賞には選ばれなかったが、ビジネス業界で大賞を選ぶのであれば、間違いなく「DX」(デジタル・トランスフォーメーション)は候補に挙がったはずだ。DXとは簡単に言えば、ITやAI(人工知能)を最大限活用して、ビジネスの質を高めていくことである。
いま、企業が競い合うようにDX化に取り組んでおり、その流れの中で紙を使った業務の見直しがますます進み、ペーパーレス化に拍車がかかっている。米調査会社IDCの試算によれば、2020年のDXの世界市場規模は、前年比10%超の1兆3,000億ドル(約134兆円)規模となり、さらに勢いづきそうな予感だ。
■製紙業界の市場規模は2000年をピークに右肩下がり
リモートワーク、脱ハンコ、DX…と、このような変革が製紙業界には逆風であることをここまで説明してきた。今後の製紙需要が落ち込むと予想されるが、すでに紙の生産量は右肩下がりの状況となっている。
日本製紙連合会の調べによると、紙の生産量は2000年の1,903万7,000トンをピークに減少傾向が続いており、2019年は1,350万2,000トンだった。生産量が9年間で約3割減ったこととなる。
ティッシュペーパーなど「衛生用紙」向けの生産量は伸びているが、「新聞用紙」や「印刷・情報用紙」の生産量の落ち込みは歯止めが利かない状況だ。ここまでは触れてこなかったが、新聞離れも製紙業界にとっては大きな痛手であると言える。
■製紙業界は今後生き残れるのか?!
ではこのような状況の中、製紙業界の企業は今後どう生き残っていけば良いのだろうか。まずは競争力をつけることが1つの選択肢だ。紙のニーズがゼロにならない限り市場はある。その市場で高いシェアを取れれば、一定の収益性を確保し続けることは可能だ。
もう1つの選択肢としては、新たな収益軸をつくることである。例えば、最近注目されているのが「セルロースナノファイバー」だ。セルロースナノファイバーは紙と同じようにパルプ由来の新素材で、軽くて硬い素材としていま注目が集まっている。
すでにセルロースナノファイバーをシートの原料として使った大人用紙おむつなどが発売されており、今後はフィルター部材などとしての活用も期待されている。このような展開の可能性を考えれば、製紙業界の未来は決して閉ざされているわけではないのだ。
とはいえ、製紙業界を取り巻く環境が厳しくなっていくのは確かだ。うかうかしていると経営破綻へのカウントダウンがいつの間にか始まってしまうかもしれない。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)