全日本では3強の一角、青学大を最終8区で抜いた明治大の鈴木聖人

 明治大は近年、力のある選手を揃えながらも、なかなか力を出し切れていなかったが、前回の箱根では5年ぶりにシード権を獲得する6位になった。

 今年は大エースの阿部弘輝(住友電工)が卒業で抜けたものの、11月の全日本大学駅伝で後半まで先頭争いに加わり、青学大に先着する3位というすばらしい結果を残した。箱根でも、青学大と東海大、駒大の3強を脅かす存在として注目が集まっている。

 今年就任3年目になる山本佑樹駅伝監督は、その要因をこう語る。

「前回の箱根で復路の終盤まで3位争いに加われたことが、選手だけではなく私の自信にもなり、そのおかげで一気にチーム状況がよくなりました」

 全日本で3位を獲得した実績もさらなる自信につながり、次は「箱根で優勝争いをしたい」と、より高い目標を目指せるようになった。

「卒業した阿部の穴を、みんなで埋めよう、と団結できたことも大きい」と山本監督は話す。

「阿部はエースでしたが、競技力だけではなく人間的にもしっかりしていたので『僕も阿部さんみたいになりたい』という選手が多かったんです。今の4年生や3年生だけではなく、前回の箱根で8区を走った櫛田佳希(2年)も、学法石川高校で阿部の後輩だったので影響を受けていました。それに同学年の加藤大誠(2年・前回2区)たちも影響をされて、下級生でも阿部を目標にする選手が増えました」

 前回の箱根で、4年生は7区区間賞の阿部と10区の河村一輝だけ。3年と2年が3人ずつで1年が2人と、次につながるチーム編成だった。

 そんな中、今シーズン山本駅伝監督が課題にしたのは「各選手の持ちタイムを上げること」。前回の箱根で見ると、阿部以外の1万mの記録は、当時3年の小袖英人の28分34秒33が最高で、上位10人のシーズン平均タイムランキングは29分02秒15で全チーム中8位と決して速くはなかった。

 実際に前回の箱根で走ったときでも、明治大の選手たちは他校の選手の持ちタイムを意識してしまい、臆している印象があった。

 しかし、この1年でスピードと持久力の練習に取り組んだことで課題を克服。エントリーした上位10人の平均タイムは、駒澤大に次ぐ2位の28分31秒78まで上がった。

「ただ、駅伝は持ちタイムがそのまま反映するものではない、ということは前から選手たちに話していました。『記録は自信になると思うけれど、あとはそれぞれが適材適所のコースできちんと駅伝の走りができるようにしよう』と伝えました」(山本監督)

 前回の箱根での目標はシード権獲得だったが、明治大の区間配置は戦略性の高いものだった。2区には長い距離に安定感を持つ当時1年生の加藤を置き、3区には手嶋杏丞(きょうすけ/当時2年)、5区の鈴木聖人(きよと/当時2年)を配置した結果、手島は順位を12位から7位へ、鈴木も9位から5位へと上げた。

 そして、エースの阿部は7区を区間新で走り、3位争いへのお膳立てをした。全体としては、区間10〜13位で走るところが5区間あったものの、タイムを稼ぐべきところで稼げたため、6位と上々の結果だった。

 その戦略について、山本監督はこう振り返る。

「僕が旭化成で選手やコーチだった時に宗さん兄弟が、『(旭化成陸上部が)90年代に駅伝で勝ち続けていた頃(ニューイヤー駅伝90年〜95年、97年〜99年優勝など)は、エース区間をほぼ(他チームと)同等の走りでしのいで、つなぎの区間でドカンと勝つようにしていた』と話していたことがすごく印象的に残っていました。それで、前回も阿部をエース区間にぶつけるより、むしろ7区で爆発させて気持ちよく卒業させた方がいい、と思いました。

 8区の櫛田も、阿部の高校の後輩だからこそ、阿部の勢いをもらって走れるなと考えました。往路を若手に任せてしのぐことができれば、次につながるという考えもあったので、ああいう区間配置にしました」

 5区は、鈴木が上りのトライアルでダントツに強かったので起用し、6区の前田舜平(当時3年)は、1500mもやっているスピードのある走りが認められ、早い段階から確定していたという。

「旭化成時代には九州一周駅伝(10日間連続で九州を一周する駅伝。2013年で終了)も経験しましたが、コーチになって監督車に乗って選手についている時に、宗さんたちが『こういう走りは上りに合っている』とか、『こういう選手はアップダウンに強い』と話すのを聞いていたのが今になって生きている」と言うように、山本監督は自分自身の経験を戦略に生かしている。

 今回の箱根は優勝を意識した戦いになるが、山本監督はレース展開を次のように考えている。

「できれば往路優勝も狙いたいですが、田澤廉選手(駒澤大)のようなスーパーエースの爆発力を考えると、往路は若干出遅れても仕方ないと思います。

 5区と6区も前回より上積みできる自信はありますが、ほかの強豪校もそこに(有力選手を)そろえてくるので、うちが大きくリードすることはできないだろうと考えています。そこをしっかりと接戦で抑え、7〜9区に層の厚さを生かしていい選手を置ければ、巻き返しはできるでしょう。全日本もアンカー区間の争いになったように、箱根も7、8、9区でも接戦になると思うので、いかに割り込んでいけるかが勝負だと思います」

 そんな明治大の往路でプラス材料となるのが、児玉真輝(まさき/1年)の1区起用に目途が立ったことだ。児玉は全日本1区を区間5位で走り、11月末には1万mの記録を28分22秒27まで伸ばしている。児玉を1区に起用できれば、前回1区を走った主力の小袖には3区を任せることもできる。

 起伏もあって終盤が上りになる2区と4区は、前回2区10位の加藤と8区を走った櫛田が適性を持っている。山本監督は「前回5区だった鈴木を含め、その3人で2、4、5区をうまく配置したい」と、広いスタンスで見ている。

 さらに、復路の競り合いの起点ともなる7区には手嶋がいる。

「前回の3区という手もあるが、少し上ったり下ったりした方が走りにリズムの出るタイプなので、3区より7区の方が合っていると思います」

 今年はチームトップの28分17秒58(1万m)まで記録を上げているだけに、前回の阿部のような走りも期待できる。

 その後の8、9、10区には、豊富な候補がいる状況だ。

 1万mを28分40秒92まで上げ、大学駅伝初出場だった全日本で6区の区間2位に入った大保海士(4年)は、ロードの適性があってアップダウンも強い選手。他にも、タイムを28分36秒54まで上げてきた長倉奨美(4年)や、前回9区を走った後に28分40秒61(1万m)まで上げている村上純大(4年)、28分35秒41で爆発力もあるという富田峻平(2年)などがいる。

◆日本のクイーン・オブ・アスリートは寂しがり屋。ヘンプヒル恵の素顔

「ほかにも、小澤大輝(2年)や漆畑瑠人(2年)も面白いし、前回4区を走った金橋佳佑(3年)も安定感があるので復路向きです。結局は、直前で調子のいい選手を起用することになると思いますが、ポイントになる9区は最初の下りで突っ込んでいかなければタイムが伸びないので、それをできる選手を使いたいと思っています」

 今回エントリーしている16人は、本当に選びたい選手全員を選べたという。また、チームとしても、長距離選手46人中、故障で別メニューの練習をしているのは一人だけ。栄養指導も開始したことで、各選手が体のことを考えるようになった効果もある。なによりチームの調子がいいだけに、各選手に「ケガをして取り残されたくない」という意識の高さが浸透している。

「本番直前になれば、選手たちも神経質になって『足が気になる』など言い出すと思うので、あまり彼らを焦らせることなく備えていきたいと思います」

 そう言って山本監督は笑顔を見せる。今回の明治大は"チーム力で戦える状況"を整えているところが、大きな強みになりそうだ。