[画像] バイデン勝利は、広告主やメディアにとって何を意味するか?

米大統領選挙で混乱が続いている。このままジョー・バイデン氏が僅差で勝利するにせよ、泥沼化するにせよ、今回の選挙の結果は米国メディア業界と広告スポンサーにも大きな影響を与えるだろう。短期的には消費者心理、長期的には法規制や通商政策面で違いが出てくると考えられる。

だが今回の大統領選挙と同様に、その影響の予測も一筋縄にはいかなそうだ。上院については、波乱がなければ今後も共和党が過半数となる見通しではある。しかしながら、たとえ前政権との相違が少ない政策であっても、バイデン政権がそれを通すのは容易ではなくなるかもしれない。

バイデン氏は超富裕層や企業への増税を約束しており、ほかにも数兆ドル規模を投入してのインフラストラクチャーの強化、クリーンエネルギー政策への転換、海外拠点での生産や海外外注に対する「懲罰税」の導入、SNS企業の責任回避を定めた通信品位法230条の撤回といった公約を掲げている。

共和党も民主党も、米国の国益を支え国内の雇用を高めるために貿易と税制に取り組むと述べており、法人税率や国際課税の引き上げにより、米国企業と国外の企業との競争に影響が出る可能性を、広告主は注視している。

大手IT企業にとっては困難が



PwCの技術メディア通信企業戦略リーダーのダン・ヘイズ氏は、選挙前に立てられる対策として、両候補者が対立する政策を分析するだけでなく、両者が一致している分野に注目するべきだと指摘する。両政党が一致する政策が、最初に通る可能性が高いからだ。

そしてこの一致している政策が、大手IT企業関連の政策だ。どちらが大統領になろうが、上院でどちらの党が過半数になろうが、大手IT企業にとっては困難が待ち受けている。

バイデン氏は、トランプ氏ほど表立って大手IT企業への批判を行ったわけではない。だが、オバマ政権で副大統領を務めたときほど、これらの企業と良好な関係にならないのは確実と見られている。上院では、いずれの党からも大手IT企業への規制を求める声が大きい。これらの企業を解体するのは行き過ぎだと主張するバイデン氏だが、プラットフォームによるコンテンツ規制や規制の運用方法ついて、より厳しい制限を求めている。

最大の争点は通信品位法230条



一例が上述の通信品位法230条だ。1996年に制定されたこの230条は、「双方向のコンピューターサービス」に対し、プラットフォーム上で暴力や憎悪といった好ましくないコンテンツを制限することを認めており、この制限が、言論の自由を定めた米国憲法の修正第一条第一項を侵害しないと定めている。

この「双方向のコンピューターサービス」は、現在でいえばFacebookやYouTube、Twitterなどのプラットフォームだ。つまり、これらの企業は、230条によって、プラットフォーム上で投稿されたコンテンツについて発行責任を問われない仕組みになっている。バイデン氏はこの230条の撤回を目指している。

ヘイズ氏は「大統領選挙の結果として、広告主にとって、もっとも影響が大きいのは230条だろう」と指摘する。「今や、ユーザー生成コンテンツを発信するオンラインプラットフォームと広告は、切っても切れない関係にある。それにもかかわらず、『プラットフォーム全体にわたって、問題のあるコンテンツに対処する』という課題への回答を、業界はいまだに見つけられていない」。

移民政策とプライバシー関連法案



一方、IT業界にとっては、バイデン氏が打ち出すこういった規制や増税の影響が、同氏の移民政策によって多少和らぐのではないかとの見方もある。トランプ氏は6月にH1Bビザの新規発給を停止すると発表。これはIT企業やアドテク企業が、高い技術を有する海外の労働者を雇用するために利用していたビザだ。一方、バイデン氏はH1B制度の改革を公約として掲げており、政府が毎年発行するグリーンカード(米国の永住権)も増やしていく方針だ。

また、個人情報関連では、バイデン氏は米国が「欧州の定める個人情報規則と遠くないものを設定すべき」だと述べている。

すなわち、欧州の一般データ保護規則(GDPR)をベースとする、より厳格な基準ができる可能性がある。

かつてないほど分断された米国



政策のみならず、今回の大統領選挙は、結果の発表がされた後もマーケターを悩ませることになりそうだ。

今、米国はかつてないほど分断されている。今回トランプ氏が獲得した票数は、4年前より多い。つまり、トランプ氏の政策のなかには大きな論争を巻き起こしたものもあるが、これに対し米国民の大多数がノーを突きつけたわけではないのだ。マーケターにとっては、この二分化したカスタマー層へいかに慎重にアピールしていくかという悩ましい課題が残されている。米国の誰もが不満を覚えないアプローチというのは、実のところ、もはや存在しないのかもしれない。

※記事公開後、読者の方よりご指摘を受けて、一部表記を修正しました。

[原文:What a Biden presidential win would mean for advertisers and online media owners

SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU