iPhone 12 Pro パシフィックブルー(右)と、iPhone 12 グリーン。背面のガラスはProがマット、12は光沢とされており、カメラまわりはその逆の素材が用いられる。Proには望遠レンズとLiDARスキャナが備わる(筆者撮影)

アップルが10月23日に発売する「iPhone 12」「iPhone 12 Pro」の実機レビューをお届けする。新しいデザインと、次世代通信5G、格段によい絵作りとなったカメラ性能の進化、そして新しい高速充電は、2020年のiPhoneが、スマホのトップに君臨する貫禄を見せつけている。

今回登場する6.1インチの2モデルの違いは?

2020年モデルのiPhoneは2つに分かれて登場する。第1弾は、今回レビューしたiPhone 12とiPhone 12 Pro。いずれも有機ELディスプレー6.1インチを備える兄弟モデルで、寸法から厚みまで、両モデルで共通化される。ただしiPhone 12 Proは25g重い。同じサイズでも、iPhone 12のほうが大幅に軽いのだ。

ディスプレーの性能は異なっており、iPhone 12の標準最大輝度は625ニトに対して、Proモデルは800ニト。晴れた屋外で使う場合は視認性の良さに影響してくるが、室内や夜間では差を感じることはないだろう。またHDR(高ダイナミックレンジ)のビデオを表示する場合は、いずれも1200ニトまで明るくなり、最大200万:1のコントラスト比を発揮する。

iPhone 12 Proの違いはディスプレーに加え、望遠レンズを加えた3カメラ構成となる。またAR向け空間把握に加えて、暗所でのカメラ撮影のオートフォーカスを6倍高速化するLiDARスキャナも、Proモデルのカメラシステムの優位性となる。フレームは過剰なまでに磨かれたステンレススチールとなり、よりゴージャスな雰囲気だ。

一方iPhone 12はアルミニウムが用いられ、ホワイトとブラックのほか、レッド、ブルー、グリーンも選ぶことができる。ディスプレーとカメラ性能、あるいはより柔らかな雰囲気とカラーバリエーションで、選択していくことになる。

ちなみに11月13日には、5.4インチのiPhone 12 miniと、6.7インチiPhone 12 Pro Maxが発売される。つまり今年のiPhoneは6.1インチが標準モデルという扱いになる。

iPhone 12シリーズには、久しぶりにデザインの大きな変更が加わった。2014年のiPhone 6以降、側面は丸い曲線で描かれ、ディスプレー部分がぷるんと盛り上がるような一体的な弧を描くデザインだった。2020年モデルのiPhone 12シリーズでは、丸いエッジ(角)が垂直に立ち上がるデザインに整えられ、ガラスもフレームの高さとそろえられた。

iPhone 12のエッジは表面がサラサラとしたアルミニウムで、レビュー機材のグリーンは表面の質感と柔らかな色味から、とても親しみを感じた。一方iPhone 12 Proのパシフィックブルーは、光沢のあるステンレススチールが青く染め上げられ、吸い付くようなしっとりとした感触を楽しめるが、少しギラギラしすぎるとも感じ、暗い色でちょうどよい、と個人的には感じた。

より強度が増したディスプレー

ディスプレーを覆っているのはセラミックシールドと呼ばれる新素材で、これまでのガラスに比べてより強度が増している。セラミックのような多結晶物質は通常不透明に焼き上がるが、材料、高温に設定された温度、適切な焼き時間のレシピによって強固で透明な物質を作り出すことに成功した。また前述のフレームとセラミックシールドの高さをそろえるデザインの改善で、耐落下性能は4倍になったという。

擦り傷などはよりつきにくくなっているが、より硬い物質、例えばiPhone背面のカメラレンズやApple Watchなどに用いられているサファイヤクリスタルなどとこすれれば跡がついてしまうので、引き続き取り扱いには注意したほうがよい。

側面から膨らみが取り除かれたことで、iPhone 11と同じ6.1インチの画面サイズを持つiPhone 12のサイズは小さくなった。前述のようにサイズがより小さなiPhone 12 miniが控えているが、iPhone 12は十分に小さな握り心地。筆者も手が小さいほうだが、iPhone 12 miniを待たずに6.1インチモデルを選らんでも手に馴染むと感じた。

見た目以上に、触ったら‟やられる”デザインだ。5.4インチのiPhoneでなくても十分コンパクトさを体験できるなら、画面サイズが0.5インチ大きいモデルのほうがいいし、カメラが3つあるiPhone 12 Proを選びたくなる。

iPhone 12はiPhone XRやiPhone 11と同じディスプレーのサイズで、よりコンパクトで軽くなる。一方5.8インチだったiPhone X・iPhone XS・iPhone 11 Proと比べると、iPhone 12 Proはディスプレーサイズが0.3インチ拡大しながら、幅は0.1mmしか増加せず、1g軽量化。

新しい6.1インチモデルのデザインは、それぞれのモデルにメリットを持たせる形で設定された絶妙さがある。

iPhone 12シリーズ全体を通して、次世代通信規格の5Gに対応する。日本向けには、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3大キャリアで、5G通信に対応する。ただしエリアの狭さから、現時点では5G対応の効果は限定的であり、将来にわたって数年間使い続ける際の「保証」という位置づけで捉えておくべきだ。


6.1インチ有機ELディスプレーは、Proモデルではより明るいディスプレーを備える。液晶だったiPhone 11に比べて、画面上部の切り欠きの幅は小さい。5G設定は、標準では5Gを積極的に使わない「5Gオート」となる(筆者撮影)

アップルもそのことをわかってか、積極的に5Gを利用しない設定を標準としている。設定アプリのモバイル通信のオプションでは、購入した際「5Gオート」にセットされており、バッテリー持続時間が大幅に遅くならないときにのみ5Gが利用される状態で出荷される。つねに5Gを優先的に利用するためには「5Gオン」にしなければならない。

筆者はNTTドコモを利用しており、新宿や秋葉原などの繁華街で深夜の時間帯に速度計測を行ってみたが、5Gの電波を安定的につかむことは難しく、速度も実測で150Mbps出たらよいほう、という感覚であった。そして驚くべきことに、4Gで速度計測をすると、300〜550Mbpsを記録した。4Gインフラが充実するドコモでは、むしろ4Gの速さに驚かされる結果となった。

今後数年かけて、日本でも5Gインフラが整うようになるが、当面は4Gとの併用を前提としていくため、スポット的に5Gでの速度向上を見込むことができる、という体験が増えていくだろう。iPhone 12にしたからすぐに1Gbps級のスピードが手に入るわけではない点は、留意しておくべきだ。
加えて、スタジアムなどでの高速同時多接続を実現するミリ波は、日本向けのiPhone 12シリーズではサポートしない。

物理と処理で進化したカメラ

iPhone 11をレビューした2019年、そのカメラ性能の進化を「非線形」と表現した。順当な進化を飛び越えて、まったく異なる性能を発揮するようになったためで、とても驚かされたことを1年間覚えていた。しかしiPhone 12は、昨年から比べて再び非線形の進化を遂げた、と評価すべきだ。


iPhone 12で撮影したハンバーガー。コショウの立体感やシズル感が豊かに再現されている。新しいf1.6の明るい広角レンズ単体のボケ味は、やや散らかった印象だ(筆者撮影)

風景を撮ると、手元の草むらと空の双方で、豊かなテクスチャ(質感)が再現される。太陽をバックに自撮りしても、ちゃんと顔が写り、空の雲もくっきり。食べ物を撮ると、立体感、シズル感豊か。花を接写しても、美しい発色と花弁が緩やかに波打つ様子が再現される。東京の夜のビル群では光が十分なのか、長時間露光合成のナイトモードはなかなか発動しなくなっていた。

こうしたカメラの向上は、「物理的な進化」と「処理の進化」の両面が加わったことが理由だと考えられる。


夜の繁華街を撮影すると、看板の色や提灯の光で十分に明るい写真となった。本当に真っ暗な場所でなければ、ナイトモードを使うまでもなくなっている点で、使い勝手がよくなったと感じる(筆者撮影)

iPhone 12シリーズには、広角カメラにこれまでのf1.8よりも明るいf1.6のレンズが搭載され、よりたくさんの光を集められるようになった。暗所性能の高さの向上は、ハードウェア面でも強化されたポイントとなる。広角カメラでもよりボケるようになっているが、そのボケはポートレートモードのやんわりとしたものではなく、被写体によっては少しガチャガチャしていると感じる。

加えて、機械学習処理も含めた、画像処理が大幅に強化された点が効いてくる。iPhone 12シリーズにはA14 Bionicという最新のApple Siliconが搭載され、特に機械学習処理アクセラレータと16コアのニューラルエンジンの性能強化が行われた。これと画像処理エンジン、複数のカメラの連携によって、シーン解析を含む画像処理が、シャッターの瞬間に行われる。処理面での進化も相まって、迫力と質感に優れた写真が切り取られるのだ。

ホワイトバランスは、これまでのiPhoneカメラの弱点だと感じており、筆者の好みよりもつねに黄色が強く出ている傾向にあった。しかしiPhone 12の写真ではこの点がピタッと直っており、いちいち色味を変更する手間がなくなった。iPhone 11からの乗り換えですら画質向上を感じるのだ。それ以前のiPhoneからの乗り換えではまったく別のカメラと驚くことになるだろう。

新しい充電方式の意外な事実

iPhone 12シリーズには引き続き、Lightningコネクタが用意され、充電やアクセサリーの接続に対応する。充電する際は最大で12W(5V・2.4A)の速度で充電することができる。これまでも背面でQi規格のワイヤレス充電に対応しており、iPhone独自のプロファイルで7.5W充電に対応してきた。

iPhone 12ではワイヤレス充電を拡張し「MagSafe」と呼ばれる磁石で吸着するタイプのワイヤレス充電機能を備え、専用の充電器も発売した。MagSafeは充電に加え、NFCによるアクセサリーの認証機能も用意されており、純正ケースを装着すると、そのケースのカラーが画面のアニメーションとして現れる演出がある。


MagSafe充電器は強めの磁石で背面の正しい位置にぴったりと張り付く(筆者撮影)

MagSafe充電器は、ちょうどApple Watchに付属する充電器と同じような形状で、充電面をiPhone背面にくっつけて充電する。充電器側の磁力は強く、iPhone 12をつり上げることができるほどで、外す際は指で充電器を背面からずらす。充電器のケーブルの付け根を破損しないように注意して扱ったほうがよさそうだ。

このMagSafe充電器は15W(9V・1.6A)で充電することができ、アップル純正の20W USB-Cアダプタとの組み合わせが推奨される。ワイヤレス充電でロスは加味する必要があるが、MagSafeは規格上、Lightningよりも高い電力で充電することができる点は、意外な事実だ。

iPhone 12にはLightningポートが残され、USB-Cポートにならなかった点を惜しむ声があった。しかしアップルは、MagSafeでの充電を性能上の優位と位置づけたことから、LightningポートはUSB-Cに変わることなく、ポート自体が消滅する未来を用意しているのではないか、と思った。

手に馴染むデザイン、再び見せた非線形のカメラ進化、MagSafe優位の意外な充電の仕組みを中心に、iPhone 12・iPhone 12 Proのレビューをお届けしてきた。今回触れなかったが、iPhone 12・iPhone 12 Proともに、スマートフォンでは初めて、10ビットHDRビデオ規格のDolby Visionを撮影・編集・視聴・共有できる性能を備えた点も、カメラにこだわるユーザーへの魅力となる。

よりコンパクトで軽いデバイスと6インチ大画面の組み合わせは、iPhoneにコミュニケーションからエンターテインメント、決済などの日常を集約している人にとって、最適な選択となるだろう。