iPhoneやNintendo Switchといった機器の生産を担当していることで有名な台湾のFoxconnは、アメリカのウィスコンシン州に製造拠点を建設中です。多額の助成金を用いて建設されている製造拠点ですが、そのほとんどが空っぽのまま放置されており、このままでは「数年後には工場も仕事もなくなる」と海外ニュースメディアのThe Vergeは報じています。

Inside Foxconn’s empty buildings, empty factories, and empty promises in Wisconsin

https://www.theverge.com/21507966/foxconn-empty-factories-wisconsin-jobs-loophole-trump

Foxconnがアメリカ・ウィスコンシン州での大規模な事業計画を発表したのは2018年のことです。当初、Foxconnはアメリカ国内に100億ドル(約1兆円)を投資し、2000万平方フィート(約1.9平方km)の敷地内に1万3000人を雇用できる液晶ディスプレイ(LCD)製造工場を建設する計画を立てていました。

Foxconnがウィスコンシン州でのプロジェクトについて初めて言及したのは、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任してわずか2日後の記者会見の中です。Foxconnの創業者兼CEOのTerry Gou氏が、「アメリカで70億ドル(約7400億円)の工場を建設し、5万人の従業員を雇用する」と語ったことがすべての始まりでした。

Gou氏がこの種の発言をすることは珍しいことではなく、多くの場合「大言壮語が実現することはない」とThe Vergeは指摘しています。実際、Gou氏は2007年にベトナム、2011年にブラジル、2013年にペンシルバニア州、2014年にインドネシアで工場を建てるとコメントしましたが、実際にはほとんどが実現しておらず、実現しても当初のコメントよりもはるかに規模の小さい工場しか建設されていません。

また、Gou氏は2015年にインドで数十億ドル(数千億円)規模の工場を建設するとコメントしましたが、2020年になり、最終的に工場は建設されないことが発表されています。インド・マハラシュトラ州の産業大臣は、「州が大規模な投資を約束する企業を信じることについての教訓を学ぶこととなった」と語り、Foxconn側を暗に批判しています。



ウィスコンシン州でのプロジェクトにおいても、当初のGou氏の発言と、実際の計画はかけ離れたものとなっています。Gou氏は当時のウィスコンシン州知事であるスコット・ウォーカー氏との会談の中で、計画を徐々に精査していき、最終的にウィスコンシン州の製造工場で1万3000人を雇用すると発表しました。

その結果、ウィスコンシン州からFoxconnに支払われることとなった助成金の額は15億ドル(約1600億円)から30億ドル(約3200億円)にまで増加しています。しかし、実際にFoxconnが提案した製造工場が商業的に実現可能なものかを調べる人は誰もいなかったと情報筋は語っており、「ウィスコンシン州にとっては、Foxconnが世界最大の企業のひとつであるという仮定がありました」とその理由を推測しています。

Foxconnはウィスコンシン州からの助成金のほかに、製造工場が建設される予定であった小さな町のマウント・プレザントからも約8億ドル(約840億円)の助成金を受け取っており、その他の助成金も含めると政府機関から総額40億ドル(約4200億円)超もの資金を調達することに成功しています。



しかし、Foxconnのウィスコンシン州ミルウォーキーにあるオフィスで働くこととなった新入社員によると、オフィスは1960年代に建てられたビルをリノベーションして使用する予定だったものの、リノベーションは一向に進んでおらず、それだけでなく社員たちは働くことなくNetflixを視聴したり「こんなはずではなかった」と泣いたりしているだけだそうです。

The VergeがFoxconnのウィスコンシン州でのプロジェクトに関与した19人の従業員などにインタビューし、数千ページにもおよぶ公開文書などを調査した結果、「Foxconnはほぼすべての約束を破った」と結論付けています。Foxconnが「ファブ」と呼んでいる建物は、計画当初は2000万平方フィートもの敷地面積となる予定でしたが、最終的には約20分の1のサイズにまで縮小しています。

以下がウィスコンシン州マウント・プレザントに建設された製造工場。1が多目的ビルで、建設以降ほとんど製造作業は行われていません。2が球状の建築物で、当初はネットワークオペレーションセンターとして機能するはずだったのですが、記事作成時点ではオフィスやイベントスペースとして使用される予定です。3はメインの製造設備が入る予定だった工場で、これは最終的に保管庫として使用されることとなる模様。4はサーバー用の部品を製造することを予定した製造施設で、300〜500人が雇用される見込みです。



工場の多くが空っぽのまま放置されているだけでなく、Foxconnのウィスコンシン州オフィスもほぼ空っぽのまま放置されていることが2020年4月に報じられています。

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Foxconnは多額の助成金を受け取り、大規模な雇用計画を発表していますが、実際にFoxconnに雇用された従業員の数は微々たるものです。以下はFoxconnがウィスコンシン州で実際に雇用している従業員数(赤)、州政府から助成金を受け取るために必要な最低限の雇用数(オレンジ)、Foxconnが計画していた雇用数(黄)を示したグラフです。Foxconnは2020年末までに5200人、2022年までに1万3000人を雇用するとしていましたが、実際には2019年時点で281人しか雇用できていないのが現実です。



2019年の時点でFoxconnが雇用している従業員でさえ、実際は同社がウィスコンシン州から助成金を受け取るために雇われたものに過ぎないとも指摘されています。The Vergeに情報を提供したFoxconnある採用担当者は、「州から助成金を受け取るための必要な人数として、260人を雇うように上から命令された」と証言しています。

一時的に従業員の数が増えたことで、Foxconnのウィスコンシン州にあるオフィスはすぐに人でいっぱいになったそうです。しかし、従業員たちに明確な仕事が与えられることはなかったため、オフィスではNetflixを見たりスマートフォンでゲームをしたりと、仕事をせずにダラダラと過ごす従業員が多かったとのこと。しかし、最終的にウィスコンシン州はFoxconnからの助成金申請を却下しているため、Foxconnは多くの従業員を解雇しており、最初にウィスコンシン州のオフィスで働くこととなった従業員は「すでにほとんどいない」そうです。



Foxconn側の事業計画もめちゃくちゃなもので、当初はLCDの製造が計画されていましたが、工場用に購入した土地を「魚の養殖場」や「ボートの保管庫」として使用する案が浮上しては立ち消えていったそうです。上手くいっていなかったのは事業計画だけでなく、内部でも「リーダーの頻繁な交代」や「お金を使うことへの抵抗」、「横暴な企業文化」が横行しています。

また、Foxconnがウィスコンシン州にシリコンバレーのようなテクノロジー業界にとっての一大拠点を設けることになることを期待して、周囲からは同社のプロジェクトが「ウィスコンバレーを形成する」とも呼ばれました。しかし、実際にFoxconnで働いていた従業員からは「私はそこに居ましたが、それは本物ではありません。つまり、ウィスコンバレーなどというものは存在しません。これは私が二度と話すことができないことです。なぜなら、ウィスコンバレーは決して起こりえないことだからです」という否定的な意見が述べられています。



それを裏付けるようなデータが以下のグラフ。以下のグラフにはFoxconnがウィスコンシン州の製造工場の設備投資にかける予定であった金額(オレンジ)と、実際に設備投資した金額(赤)が示されています。当初、Foxconnは2018年に5億4300万ドル(約570億円)、2019年に27億6000万ドル(約2900億円)を投資する予定でしたが、実際に投資された金額は2018年が9910万ドル(約100億円)、2019年が2億236万ドル(約210億円)とはるかに少ない金額です。



なお、アメリカでの助成金の平均額は仕事あたり約2万4000ドル(約250万円)ですが、Foxconnが雇用したのはわずか281人。

The Vergeは「Foxconnは繰り返し失敗し、単なる失敗よりもはるかに破壊的な失敗をしました」と、Foxconnのずさんな計画を批判しています。