新型日産Zの意匠 原点回帰ではない

text:Kenji Momota(桃田健史)

日本時間2020年9月16日午前にオンラインで世界初公開された、日産フェアレディZプロトタイプ。2021年発売の次期「フェアレディZ」のほぼ量産状態で登場した。

2020年5月以降、日産は同車のシルエットやフロントライト周りの画像を公開してきたが、その際、メディアやユーザーの間では「原点回帰」という表現が数多く使われた。

日産フェアレディZプロトタイプ(上)/マツダ・ロードスター(下)    日産/マツダ

1969年発売の初代(S30)の雰囲気があるからだ。

ところが、フェアレディZコンセプトのオンライン記者会見では原点回帰という言葉は見当たらなかった。

日産のグローバルデザイン担当専務執行役員のアルフォンソ・アルバイサ氏は「レトロモダン」という表現を使い、シルエットの中にS30のデザインテイストを盛り込んだことを認めている。

だが、けっして原点回帰という表現は使わない。

ユーザーとの意見交換で登壇した、グローバルデザイン本部エグゼクティブ・デザイン・ダイレクターの田井悟氏も、また次期フェアレディZの商品企画を総括するチーフ・プロダクト・スペシャリストの田村宏志氏も、原点回帰とは言っていない。

田村氏は「オマージュ」という表現をしたが、その言葉の扱いついて、かなり気を遣っているように見えた。

なぜ、日産関係者は原点回帰という言葉を使わないのか?

新型Z、マツダ・ロードスターと違う

スポーツカーの分野で原点回帰と聞いて、多くのユーザーが頭に思い浮かべるのは、マツダ「ロードスター」(4代目ND)ではないだろうか。

筆者は2015年1日、スペインのバルセロナで開催されたNDの国際試乗会に参加したが、宿泊先から試乗会場まで初代NAの試乗が用意されていた。

マツダ・ロードスターNA型(左)/NB型(右)    マツダ

マツダ関係者は皆、NDを「NAへの原点回帰」と表現した。

NDの企画、設計、実験、さらに製造に関わるマツダ社員たちが、実際にNAに何度も試乗し「ロードスターの原点」を身体全体に浸み込ませて、皆が目指す方向に対する共通意識を持ってND完成を目指した。

その上で、デザインについては、NDはNAをモチーフ、またはオマージュしていない。

マツダが目指したのは、NDを操る時にNAに通じる「マツダのモノづくりスピリット」を感じてもらうことであり、それを実現するための結果として、エクステリアとインテリアのデザインがあるという考え方だ。

リアライトなどに「ロードスターの気配」は残したものの、クルマ全体のシルエットでNA、さらにはNB、NCを意識していない。

一方で、フェアレディZコンセプトの場合、デザインの重要性が高い上で、S30を筆頭に、32Zのリア周りを意識した上で、歴代Zのすべてを盛り込もうとしている。

ロードスターとは商品企画の考え方が大きく違う印象がある。

日産Z、ロードスターとは時代が違う

ライトウエイトスポーツカーとしてのロードスターNAからNDまでの進化と、フェアレディZのS30と次期Zまでの進化は、進化の幅のみならず、進化の種類が違う。

フェアレディZの場合、歴代Zの進化を振り返ってみれば分かるように、ボディサイズやエンジン出力で大きな差を考えると、S30と次期フェアレディZはまったくの別物だといえる。

日産フェアレディ Z-T(1977年)    日産

さらに言えば、企業体質の進化も大きく影響している。

S30の開発時期は、NAより約20年も前の1960年代である。

この頃の自動車メーカーの社内組織について、各社OBから直接話を聞くと、開発部門の花形部署はエンジン開発だったという。

良いエンジンができ、それに合わせた車体を仕立てて、そこにデザインが加わるというのが一般的な流れだった。

デザインについては、社内デザイナーだけではなく、イタリアのカロッツェリア(デザイン設計企業)などに委託するケースも多かった時代だ。

こうした様々な見地から、S30に対する当時のモノづくりに対する原点回帰を、次期フェアレディZに当てはめることは事実上、不可能なのだと思う。

見方を変えると、次期フェアレディZはS30への原点回帰ではないこと自体が、クルマとしての商品価値だともいえる。

Zの楽しみ方、時代変化を体感すること

結局、次期フェアレディZが目指すのは、原点回帰ではなく、日産が輝かしかった「あの頃」の気持ちをメーカーとユーザーが共有し、新しいZを愉しむことだと思う。

プレスリリースで、アルバイサ専務執行役員が「レトロモダンなテーマと、フューチャリズムを組み合わせることがわれわれの挑戦でした」

日産フェアレディZプロトタイプ    日産

「デザイナー達は、歴代のモデルを振り返り、数えきれないほどのスケッチを描き、多くの議論を重ねて、このフェアレディZコンセプトにたどり着きました」とデザイン開発のプロセスを説明している。

結果として、シルエット全体がS30っぽさ、フロントライトにもS30っぽさ、リアビューにZ32っぽさを感じるトータルデザインとなった。

今回の発表内容でも明白なように、デザイン優先感が強い次期フェアレディZ。

では、スポーツカーとしての本筋である、走りはどうなのか?

記者会見では「人馬一体」という表現が何度が登場しているが、走行中にふとS30を感じるような車内の空気を感じることができるのだろうか?

それとも、S30、Z32、そして直近のZ34とはまったく別の、新Z感が創出されているのだろうか?

2021年、いや2020年内にもしかすると開催されるかもしれない、プロトタイプ試乗会を楽しみに待っていたいと思う。