[画像] ニコン「D6」レビュー ド“s”な使い心地にヒタヒタと迫る“EOSの影”

いよいよ販売が始まった、ニコンのフルサイズ一眼レフカメラ「D6」。デジタルカメラの頂点ともいえる高性能シリーズの最新モデルを、500mmの超望遠レンズ「AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR」1本で落合カメラマンにレビューしてもらいました。

6月5日に販売を開始した、ニコンのフラッグシップ一眼レフ「D6」。実売価格は税込み80万円前後(+ポイント10%)で、大半の販売店では入荷待ちの状態となっている。装着しているのは超望遠レンズ「AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR」で、こちらの実売価格は税込み50万円前後(+ポイント10%)


明確な進化を感じさせるオートフォーカスまわり

派手さはないがクソ真面目。D4やD5を使ってきたユーザーにこそググッと刺さるデキの良さ。やっとお目見えしてくれたニコン「D6」を使ってみて、まずはそんな「盤石の進化」を感じることになった。

グループエリアAFの選択パターンが17種に増えるなど、利便性の向上が著しいAF関連に進化の痕跡が明確だ。なかでも「オートエリアAF(測距点自動選択AF)」の動作と3D-トラッキングAFが互いに歩み寄るようなカタチで、被写体捕捉に係る確実性と合焦精度のさらなる向上を果たしているところが印象的。オートエリアAFでは、被写体を認識・追従する(撮影者が撮りたい思っているモノに自動で測距点を重ね追従させる)能力がさらに向上し、また3D-トラッキングAFが複数エリアの連携で被写体を追いかけるという新たな形態を見せるようになっているからだ。

個人的には、連写中などに被写体を逃したときのリカバリー操作に舌打ちをするのがイヤなので、どのカメラを使うときにもトラッキング系のAF動作とは一歩引いた関係で居続けている。そして、その反動なのか何なのか、測距点自動選択AFの動作を当該カメラのAF能力を推し量るための重要な指標にしているのが現状だ。そんな中、D6のAFは高度に洗練されているとの印象に終始し、満足度は95%に達した。撮影者は被写体をフレームに収めることに注力するだけで、ピントの方はD6が全部やってくれる(ピント合わせに関しカメラの機嫌を伺う必要がまったくない)と思っていても不都合は生じないであろう上々の仕上がりなのだ。

強いていえば、オートエリアAF時の振る舞いに「至近優先」が強すぎる傾向が変わらずに残っているところが、個人的にはチョイとばかりのマイナスポイント。でも、そんなものは「それが基本的な動作だからね」と片付けることも難しくはない。

コシアキトンボの飛翔を堂々、前方から捉えてみた。ちょこちょこホバリングをしてくれるトンボなので、実はまぁまぁ撮りやすかったりもするのだけど、どんなカメラでも撮れるかというとそうでもない。ましてや、500mmクラスの望遠レンズでは、測距点自動選択の確かな制御とピントを追従させながらの秒間コマ速の多さがものをいう(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO2500、1/4000秒、F5.6、+1露出補正)


手前にあるものに目を奪われがちなオートエリアAF時のピントなのだけど、いちど被写体をしっかり捉えればけっこうな粘りを見せてくれる一面も。また、人物が被写体の場合、ファインダー撮影時に「瞳の位置を優先したAF」が可能になったのも一眼レフとしては希有な進化ポイントのひとつだ(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO1800、1/4000秒、F5.6)


昨今のミラーレス機になじんでいると、測距点分布の狭さにガッカリさせられることが少なくない一眼レフなのだけど、ここまでカバーできれば実質的に困ることはあまりないのも現実(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO1400、1/2000秒、F5.6)


ついにEOSが逆転したと感じる部分も

しかし一方、競合機であるキヤノン「EOS-1D X Mark III」との比較では、測距点自動選択AF時の気の効き具合はEOSの方が勝っているのと印象だ。AFに関し、かつて見られていた「D5>EOS-1D X Mark II」の関係は、「D6 vs EOS-1D X Mark III」では逆転したと判断すべきかもしれない。ライブビュー(LV)撮影時の使い勝手(AF動作を含む)を鑑みるならば、宿命のライバル同士が見せる互いの関係性に変化が訪れているとの受け止め方はより強固なものとなる。さりげなく衝撃的な現状だ。

連写速度は、D5比2コマ/秒向上の最高約14コマ/秒を達成。それでありながら、連写設定中の1コマ撮りも確実にできるシャッターボタン周りのセッティングが見事だ。しかし、こちらが14コマ/秒の実現に対し慎重な対応を進めている間に、あちらは16コマ/秒になっていた。明確に「仕事の道具」として存在している一眼レフカメラの優劣を秒間コマ速だけが決めるわけではないことは百も承知も、今回ライバルは、その「数字」を達成するためにメカ部分を徹底的に磨いてきている(ように感じられた)ところがちょっとヤバい。EOSのMark IIIは、歴代もっとも上質なレリーズ感触を身につけているからだ。

これは、いうまでもなく、これまで明らかに優位に立っていた「官能面」でもニコンがキヤノンに差を詰められているということ。しかも、繰り返しになるが、それに加えてLV時のAFに見られる“新しさ”がライバルには明確だ。

ゴツいカメラが紡ぐ繊細な画にシビれる(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO1400、1/500秒、F16.0、-2.7補正)


極めて良好な高感度画質は、こういった場面=「ハイスピードシャッターを得るためのISO18000」でも強烈なありがたみを発揮する。暗いところを撮るためだけのものではないということだ(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO18000、1/8000秒、F5.6)


縦位置でも横位置でも測距点移動は素早く確実にできる。さすがはプロ機、そのあたりの使い勝手は徹底的に練られているのだろう。これ、素早く正確なAFの実力を確かに嵩上げしている要素でもある(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO800、1/500秒、F5.6、+1露出補正)


「6」の名に見合う進化が欲しかった

D6に関しては、その姿が明らかになる前から誰もが「D780と同じようにミラーレス機並みのLV時AF動作が可能であるはず」との期待を抱いていた(と思う)。D780が先に世に出てしまったから致し方のない流れであったとはいえ、D6の実態を知ったときに落胆がなかったといえば嘘になる。「そんなもの一眼レフには必要ない」とは、正論ではあるけれど、そこが現代の一眼レフが持ち得るほぼ唯一の「新たに明確な進化を与えられるポイント」であるのも確か。ここでD6に感じることになったそこはかとない物足りなさを効率よく擁護しうる言葉は、残念ながら持ち合わせてはいない。

要するに、かつての感覚を引っ張り出すなら「D6」ではなく「D5s」の方がしっくりきそうなド“s”な「D6」なのである。一眼レフとしての仕上がりはものすごくいい。実際に撮ってみれば、繊細でヌケの良い仕上がりと素性の良い超高感度画質から、有効画素数が2082万画素キープであることの必然性にもすんなり納得できる。だから、D4ユーザーなら四の五の言わずに“買い”だ。AFに細かな不満を抱いていたD5ユーザーのアナタも“買い”である。無論、いうまでもなく堅牢性や耐久性にはお墨付きなのだから。

でも、いかんせん総合的な進化の歩幅が小さかった。「s」の付くマイチェン機ではないというならば、D4やD5ユーザー以外をも漏れなくバッチリ納得させ得る何かが欲しかった。それがホンネだ。このD6のありようを想定内と捉えるか期待外れと切り捨てるかは、受け取る側の考え方次第。さて、アナタならどうする?

レンズの手ぶれ補正機能の能力とD6ボディのほどよい(けっこうな?)「重さ」が相乗効果を生んでいるのか、流し撮りの歩留まりがものすごく高い。誰でも流し撮り名人になれちゃいそうな手応えなのだ(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO160、1/200秒、F5.6、+1露出補正)


質感の描写にも一切の不足を感じさせない余裕にあふれる画作りには多大なる安心感が備わる。ピントの確実性を含め、いついかなる時にも「シャッターボタンを押すだけで期待以上に写る」のだ。これぞフラッグシップ機の隙のなさ。この特性が得られる次期イメージセンサーの開発には、なるほど苦労しそうである。像面位相差画素を入れようとするとなおさらなのかも?(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO2500、1/2000秒、F5.6、+0.7露出補正)


ISOオートで導かれた撮像感度はISO102400。ノイズの残し方を含む細部の描写には好みが分かれるかもしれないが、個人的には「この感度でもちゃんと画になっている」ところを最大限に評価したい。これなら(目的や被写体にもよるけれど)じゅうぶん使える。D3で初めてISO102400が使えるようになったときのことを思うと、まさしく隔世の感(AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR使用、ISO102400、1/400秒、F5.6)


D6に確実な進化を感じつつも、大胆な改良を遂げてきたEOS-1D X Mark IIIの存在が気になる落合カメラマン