ロイヤルホスト」や「天丼てんや」など約70店舗が閉店する。運営会社のロイヤルホールディングスは外食だけでなく、ホテルや機内食などの事業も手がけているが、いずれの事業も新型コロナウイルス感染拡大で苦戦している。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は「時間をかけて築いたリスク分散という盾を、コロナがすべて破壊してしまった」と分析する--。
撮影=プレジデントオンライン編集部
ロイヤルホスト若林店(東京都世田谷区) - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■4月のロイホ既存店売上高は前年比57.9%減

ロイヤルホールディングス(HD)がファミリーレストラン「ロイヤルホスト」など約70店舗を閉店すると発表し、衝撃が走った。これは国内店舗の1割にあたり、創業以来、最大の大量閉店となる。

傘下のロイホや「天丼てんや」は、外出自粛や店舗の臨時休業、営業時間の短縮で業績が悪化している。ロイホの既存店売上高は3月が前年同月比20.3%減、4月が57.9%減と大きく落ち込んだ。てんやは3月が20.9%減、4月が41.9%減だった。新型コロナの影響で外食各社は厳しい状況に置かれているが、ロイヤルHDも例外ではなかった。

ロイヤルHDは、ロイホやてんやなどの外食のほかに、ホテル運営、空港や高速道路などのレストランの運営受託、飛行機の機内食も手がけている。外食以外の3つの事業も、大きな収益の柱に育っていた。直近本決算である2019年12月期の経常利益はホテル事業(36億円)が稼ぎ頭で、外食事業(23億円)よりも多い。レストランの運営受託事業(14億円)と機内食事業(10億円)は外食事業には及ばないものの、まずまずの額を稼ぎ出せている。

■外食事業以上に残る3事業も落ち込んでいる

新型コロナの影響で、残りの3事業も落ち込んでいる。その危うさは、外食事業以上といってもいい。

ホテル事業は休業などの影響で既存店売上高が大きく落ち込み、3月が58.2%減、4月が83.4%減となった。レストランの運営受託事業は、空港利用者の減少や施設の休館などが影響し、3月と4月の既存店売上高は激減した。特に空港ターミナルの落ち込みが大きく、3月が52.9%減、4月が77.6%減となった。機内食事業も、主な販売先である国際線航空便が4月はほとんどが運休となったため、当然大幅減だ。

こうした状況から、ロイヤルHDの20年1〜3月期の連結業績は厳しいものとなった。売上高は前期比16.6%減の279億円、経常損益は28億円の赤字(前年同期は6億5000万円の黒字)だった。ここからは、上記で挙げた4事業それぞれの業績を詳細に見ていく。

まずは外食事業だ。20年1〜3月期の業績は、売上高が前年同期比10%減の136億円、経常損益が2億5400万円の赤字(前年同期は5億8200万円の黒字)だった。

2020年(令和2年)12月期 第1四半期 参考資料より

主力のロイホはこれまで好調に推移していた。ファミレスの中では高級路線を行くロイホだが、12年12月に始まった「アベノミクス景気」を追い風に、高付加価値商品を開発することで「多少高くてもおいしいものを食べたい」という需要を取り込むことに成功した。これにより、マイナス傾向が続いていた既存店売上高は、12年12月期以降はプラス傾向が続くようになった。19年12月期までの8期中、6期が前期を上回っているのだ。好調は続いており、20年2月までは7カ月連続で前年を上回っていた。20年1〜3月期のロイホ事業の業績は新型コロナの影響で減収、経常減益となったものの、同利益は黒字を確保できている。

■2018年の値上げから不振が続く「てんや」

一方、てんやは苦戦を強いられている。18年1月に実施した値上げ以降、既存店売上高は前年割れが目立つようになった。売り上げの4割弱を占めるとされる主力の「天丼並盛」を税込み500円から540円に引き上げるなどしたのだが、これが引き金となり客離れが起きた。そこで、昨年10月の消費増税時に価格改定を実施し、一部商品の価格を据え置いて実質値下げを行い、集客を試みてはいる。

だが客足は戻っていない。18年1月から20年4月までの28カ月間のうち、既存店売上高が前年を上回ったのはわずか3カ月だけだ。20年1〜3月期のてんや事業の業績は、新型コロナが追い討ちをかけたこともあり減収、経常赤字に転落(前年同期は黒字)となった。なお、5月18日から天丼並盛を540円から500円に値下げしており、これにより客足を回復させたい考えだ。

このように、ロイホが踏ん張ったものの、てんやなどほかの飲食業態の赤字が響き、外食事業として減収、経常赤字となった。

■ホテルは客室稼働率90%から70%まで低下

次はホテル事業を確認する。20年1〜3月期の業績は、売上高が前年同期比24.1%減の約51億円、経常損益が10億円の赤字(前年同期は3億9200万円の黒字)だった。

ホテル事業では「リッチモンド」ブランドを展開。同ブランドは顧客満足度が高いことで知られている。日本生産性本部・サービス産業生産性協議会がまとめた「日本版顧客満足度指数(JCSI)」のビジネスホテル部門において「顧客満足」の順位で例年上位にランクされているのだ。18年度までは4年連続で1位を獲得していた。

フランチャイズを含めたホテルの店舗数は、3月末時点で43店。近年の訪日外国人(インバウンド)の増加を追い風に店舗数を増やしている。客室稼働率も高まっており、19年12月期は90.7%だった。大手都市ホテルの採算ラインは7割と言われており、9割超えは申し分ない水準といえる。このように好調に推移していたが、新型コロナの影響で業績は急激に悪化。20年1〜12月期の客室稼働率は70.7%まで低下した。

※2020年(令和2年)12月期 第1四半期 参考資料より

■インバウンドで空港ターミナルレストランは好調だった

続いては、レストランの運営受託事業だ。20年1〜3月期の業績は、売上高が前年同期比19.2%減の68億円、経常損益が3億800万円の赤字(前年同期は3億700万円の黒字)だった。

同事業では、全国の主要空港のターミナルや高速道路のサービスエリア、事業所などでレストランほかさまざまな飲食業態を展開している。近年はインバウンド需要の増加により特に空港ターミナルが好調で、既存店売上高は増加が続いていた。19年12月期は3.1%増だった。今年3月末時点の空港ターミナル内の店舗数は48店で、18年までは増加傾向にあった。

※2020年(令和2年)12月期 第1四半期 参考資料より

このように空港ターミナルがけん引したこともあり、同事業の業績は好調に推移していた。しかし、新型コロナの影響で航空便の運休や大幅な減便により空港ターミナルの利用者は激減。20年1〜3月の空港ターミナルの既存店売上高は前年同期比で21.2%減った。また、外出自粛や在宅勤務の広がりで高速道路のサービスエリアや事業所の既存店売上高も落ち込んだ。高速道路が13.1%減、事業所が13.3%減だった。

■機内食工場では売上高97.1%減のところも

最後に機内食事業を確認する。20年1〜3月期の業績は、売上高が前年同期比31.3%減の15億円、経常損益が2億3000万円の赤字(前年同期は2億4500万円の黒字)だった。

機内食は、ロイヤルにとって創業当時から68年にわたって手がける重要な事業だ。現在は、約30社の航空会社に提供している。関西工場(大阪府泉南市)と福岡工場(福岡市)、沖縄工場(那覇市)の3つの工場を持ち、ここから供給している。同事業も、近年はインバウンド需要の増加で好調に推移していた。19年12月期の既存店売上高は関西工場が14.4%増、福岡工場が5.1%増、沖縄工場が21.2%増とそれぞれ大きく伸びている。

だが、こちらも新型コロナの影響で航空便の運休や大幅な減便により売り上げは激減。20年1〜3月期の既存店売上高は関西工場が35.1%減、福岡工場が23.2%減、沖縄が17.3%減とそれぞれ大きく落ちんだ。4月も大きく落ち込んでおり、関西工場にいたっては97.1%減の大幅マイナスとなっている。

※2020年(令和2年)12月期 第1四半期 参考資料より

■リスク分散の体制をつくっていたが…

ロイヤルHDはこのように4つの事業を軸に経営を推進し、いずれもしっかりとした収益を生み出せていた。つまり、リスク分散ができていたわけだ。何か異変が起きて1つ2つの事業が不振に陥ったとしても、ほかの事業でカバーできる態勢になっていた。

だが新型コロナは4事業すべてに襲いかかり、いずれも大打撃をこうむってしまった。新型コロナは、同社が長い時間をかけて築いたリスク分散という盾をいともたやすく破壊してしまったのだ。こうした状況のためロイヤルHDは不採算店70店を閉鎖するなどして収益力を高め、各事業を立て直したい考えだ。今後の奮闘を見守りたい。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)