「やべー、株上がってる・・・買わないと・・・」。もし、そう思っていたら、あなたは損をしやすい人かもしれない(写真:kouta/PIXTA)

ついに「緊急事態宣言」が解除になりました。すでにそれを先取りして、株式市場には比較的楽観ムードが漂っており、大きな下落もなく、少しずつ明るさが見えてきたような空気につつまれています。

周囲を見渡せばわかるとおり、実際の経済活動は相変わらず冷え込んでいます。5月15日までに2020年3月期の決算発表を終えた企業のうち、今期の予想を「未定」としたところが6割程度もありました。アメリカでは百貨店J.C.ペニー、日本でもアパレルのレナウンといった、よく知られた企業の破綻が出てきており、今後の企業収益動向は予断を許しません。

ところが3月下旬に大きく下落して以降、日米共に株価は今年の高値から下落した分の半分以上を取り戻したくらいの水準まで戻ってきています。

今は慌てて買わずに一定の現金を持っておく方が良い

果たして、株価はこのまま順調に戻っていくのでしょうか。私自身はそれほど楽観視できないと個人的に考えていますが、そもそも私は相場予測をするのが仕事ではありませんし、予想しても当たるかどうかはわかりません。

ただ、私は1973年の石油ショック以来、相場の変遷を体感してきたと同時に、これまでに3万人以上の個人投資家の投資行動を見てきました。ですから、今の相場の状況で、多くの個人投資家が感じている心理や陥りがちな思考については、ある程度想像ができます。そこで一般的な普通の投資家がここからどう考え、どう対処していくのが良いかについて、考えられる点や注意すべき点について述べてみます。

結論から述べますと、今は相場が戻り基調だとしても、あわてて買わずに一定の現金を持っておく方が良いと思います。プロの投資家でない限り、個人投資家は常に一定の現金ポジションを持っておくべきだと考えるからです。

確かに、今はコロナ禍の収束と、その後の経済の回復を先読みして相場は堅調に推移しています。しかしながら、本当に予想通りになるかどうかは誰にもわかりません。言われているように、秋以降には感染の大きな第2波が来るかもしれませんし、場合によってはそちらの方が深刻になる可能性もあります。したがって今後、再び大きな下落がないとは言い切れません。

多くの個人投資家が異口同音に言うのは、「投資をやっていて一番悔しいのは、暴落した時に、買えば良いとは思っていても買う資金がないことだ」ということです。これは投資に回す予定の資金で目一杯株を買っているからです。どんなに強気の見通しでも、個人投資家はやはり一定額の現金は保有しておくのが良いと思います。

「でも、そうやって買わないうちに株価がどんどん上がってしまったらどうするのか?」と思う人もいるでしょう。特に今のように大きな下げの後に相場が回復基調になってくると、「今買っておかないと、ここからは“持たざるリスク”がある」などと良く言われます。そう言われると、「やはり急いで買わなきゃ!」と思いがちになるでしょう。

個人投資家には「持たざるリスク」などない

しかしながら、そもそも個人投資家には「持たざるリスク」などというものはありません。それがあるのは機関投資家などのように投資家からお金を預かって運用している人達です。彼らは相場上昇局面で株式への投資比率が少ないままだと、他の運用会社に負けてしまいます。そうなったら、顧客から見限られ、契約を解除されて他の業者に資金を移されてしまいかねません。だから彼らには「持たざるリスク」があるのです。でも個人投資家は自分の運用成績を誰か他の人と比べることはありませんし、比べても仕方ないですから、他の人がどうあれ自分は自分で判断すれば良いのであって、「株を買わないリスク」というものなどないのです。

もちろん、この後、大きな下げも来ずに上がり続ける可能性もあるでしょう。そうすれば「あの時に買っておけば良かった」と後悔するかもしれませんが、それは「儲け損なった」だけであって、実際の損失が出ているわけではありません。言わば機会損失に過ぎません。いずれ次の下落相場が来るまで待っていればいいのです。

上昇相場の時も実際の利益が伴わない理想買いの段階から一度下げた後に業績買いの相場に移行するのと同じように、下落相場も2段階あると私は考えています。最初は得体の知れない恐怖と先の見えない不安から下げる、言わばショック安の第1段階です。今回で言えば2月の終わりから3月下旬までの暴落局面です。

ところが実態が見えてくると、少し安心感が出てきます。実際に欧米では一部経済活動が再開されましたし、日本でもいよいよそうなりそうです。今がちょうどこの段階だと言えます。ところが今後様々な実態経済の悪い数字が出てきた場合、しかもそれが予想以上に悪かったりすると、相場は再び反落する可能性があります。加えて、もし第2波の感染拡大が起こってくるというリスクも捨てきれません。もう大丈夫と思った後に再び悪いニュースが出てくると、人は心理的に大きなダメージを受けますから、さらに大きな下落という可能性だってあります。

最悪のパターンは、今のような戻り基調の時に乗り遅れまいと慌てて買い、次に大きな下げが来た時に恐怖に駆られて売ってしまうことです。だからこそ「乗り遅れまい」と焦って株式に資金を注ぎ込むのではなく、今は冷静に見ながら一定の現金を維持することが必要なのではないでしょうか。