アメリカ新型コロナウイルス対策の初動が遅れた理由は(写真:REUTERS/Tom Brenner)

2月29日、ワシントン州でコロナウイルス(COVID-19)によるアメリカ初の死亡例が公表された。それ以降、このウイルスはアメリカ各州に広がり、感染者21万人以上、死者は5000人近くに上る。

3月13日には国家非常事態宣言が出され、多数の商店やレストランが閉鎖された。また、さらなるウイルス感染拡大のリスクを最小限にとどめるため、一部の知事や市長は住民に自宅待機を求める「ロックダウン(都市封鎖)」を発令した。

3月初旬には共和党、民主党で認識に大きな違い

3月のはじめ、アメリカで「あなたの地域におけるコロナウイルスの感染拡大についてどの程度心配しているか」と質問したところ、共和党員の40%以上は「まったく心配していない」と答えたのに対し、民主党員で同じ答えは5%未満と、35%の開きがあった。

しかし3週間後の3月21日になると、共和党員による同回答は40%から18%にまで急激に減少し、民主党員の回答も5%から2%に下落した。3月はじめにおける共和党員と民主党員の間の35%というこの差は、政党間の分断を反映したものと言える。

しかしながら、このように3週間で両党の差が35%から16%に縮まったということは、この危機に対し両党の認識が近づいているということなのかもしれない。とは言え、共和党員と民主党員の間で脅威の認識にこのような乖離が生じるのはなぜなのだろうか。

1つめの理由として、指導者たちが国民に向けて相反するメッセージを発していたということがある。アメリカの情報機関は、1月初めには中国でコロナウイルスの感染が拡大していること、そしてそれが世界的パンデミックにつながりうることをドナルド・トランプ大統領に説明していたが、大統領がその問題を真剣に受け止め、国家非常事態宣言が必要であるとの結論に至るまでには1カ月以上かかった。2月27日になっても、トランプ大統領は「今は15人だが、この15人も数日以内にほぼゼロになるだろう」と力説していたのである。

同じ頃、国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・フォーシは、「来週、あるいは2、3週間のうちに、われわれは地域のあちらこちらで多数の症例を目にすることになるだろう」と警告していた。そしてその後まもなく、民主党の州知事であるカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事やニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事などは、それぞれの州でロックダウンを発令し、不要不急の企業活動の休止や住民の自宅待機を促した。

2つめの理由として、情報源の二極化がある。調査によると、共和党員のテレビ視聴者に人気のFOXニュースと、民主党員の多くが視聴するMSNBCでは、コロナウイルスについての報道がまったく異なっており、保守陣営の中には、民主党が意図的に「11月の大統領再選にダメージを与えようとコロナウイルスの感染拡大を「でっちあげ」ているのだ」と非難する者すらいる。

また、共和党のSNSユーザーの多くは、主に保守系情報源を利用し、民主党SNSユーザーの多くが主に進歩系情報源を利用しているために、両者は互いに異なった、ときとして互いに理解不能な世界を作り出しているのである。

地理的な事情も影響した

3つめの理由として、地理的な政治要因がある。東海岸および西海岸の高人口密度地域(ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シアトル)や、アメリカ中西部の大都市(シカゴ、デトロイト)は、特に感染者が多い場所である。そしてこれらは民主党が強い地域でもある。

これに対し、感染者数が比較的少ない中西部や南部は共和党の牙城である。従って、共和党員の間でコロナウイルスに対する危機感が弱いのは、彼らの生活圏が大都市に比べて感染拡大による影響が少ない地域だからということも考えられるのである。

コロナウイルスに対する危機認識は共和党員と民主党員の間で収束しつつあるが、この危機に対するトランプ政権の対応については、依然として党派間で意見が両極端に分かれている。

3月初め、アメリカで「コロナウイルス発生に対する米国政府の現在の対応にどの程度満足しているか」という調査を行なったところ、共和党員では50%が「完全に満足している」と答え、「全く満足していない」と答えたのはわずか4%であった。

これに対し、民主党の回答者のうち「全く満足していない」と答えたのは61%、「完全に満足している」と答えたのはわずか3%であった。3月21日の調査では、民主党員は64%が「全く満足していない」と答え、「完全に満足している」と答えたのはわずか2%。共和党員の回答者のうち、「完全に満足している」と答えたのは46%、「全く満足していない」と答えたのは5%だった。

つまり、共和党員の間で危機認識が高まりはしたものの、トランプ政権のコロナウイルス危機への対応についての評価には、党派間の溝が依然として存在するのである。しかし、こうした党派間の分断にもかかわらず、党派的ないざこざの後、コロナウイルスによる経済的損害の緩和に向けた2兆ドルの法案を、3月25日に上院で可決できたことは心強い。

おそらくこれは、誤魔化しが効く政治的危機とは対照的に、具体的に死者がでている現実的な危機的状況においては、党派の主義主張よりも事実が勝るということを示しているのではないだろうか。

統一的対応の欠如は中国の存在感を高めることに

つい最近までは、トランプ大統領が3月24日に「4月12日のイースターまでに経済活動を再開したい」という意向を示したことをめぐり、新たな論争が勃発し始めた。大統領は、「ちょうどいい時期だし、ちょうどいいタイミングだと思った」のだという。

しかし、公衆衛生の専門家から「その期限はあまりにも時期尚早であり、コロナウイルスの克服という見地から見て悲惨な結末につながる」と非難されたため、3月29日、大統領はこの目標を撤回した。

世界的パンデミックの中心地はこの2カ月間で中国からイタリアへと移動し、そして今やアメリカがその中心地である。トランプ政権は、「武漢ウイルス」や「チャイナウイルス」などとレッテルを貼り、中国がパンデミックの発生源であると非難しているが、国内における両党派の対立や世界におけるアメリカの統一的な対応の欠如は、最終的には中国の存在感を高めることにつながる可能性が高い。なぜなら、現実はさておき、中国には国内における危機の克服と他国に対する支援の両面で明確な戦略があったからである。

国内だけでなく、世界においても、党派間の対立を克服し、科学、エビデンス、透明性、そして真実に基づくリーダーシップをアメリカが発揮できるようになることを期待したい。