2月に改装したヤマダ電機の池袋店。大塚家具が仕入れた高級家具を並べるコーナーを設置した(記者撮影)

2月7日、「LABI1 日本総本店 池袋」には、ヤマダ電機の山田昇会長の姿があった。ゆっくりと店内を視察する山田会長の後ろを、大塚家具の大塚久美子社長がしずしずと歩く。その光景は、大塚家具がヤマダの傘下となった事実を、如実に物語っているようだった。

「お客様にインテリアのトータル提案ができるようになる。これからに期待してほしい」。池袋店が改装オープンした同日、報道陣の取材に応じた久美子社長の表情は晴れやかだった。

ヤマダの主力店の1つである池袋店では、ヤマダと大塚家具が互いの商品を共同展開する。大規模改装を行い、革張りソファの前に大型テレビを配置するなど家電と高級家具を組み合わせて展示するコラボレーションコーナーを導入した。

昨年12月30日に大塚家具株の51%を取得して親会社となったヤマダは、池袋店など東京都心や大阪の大型店で大規模なコラボコーナーを運営。それらを含めた全国34店で大塚家具の商品の取り扱いを始めている。

大塚家具の直営店でも、3月から有明本社ショールームにヤマダの家電を配置。4月に名古屋などの4店舗でもコラボコーナーを設置する計画だ。

救いの手をさしのべたヤマダ電機

ヤマダによる子会社化は大塚家具には「救いの手」以外の何ものでもなかった。

2015年、父・大塚勝久氏との経営権をめぐる委任状争奪戦に勝利した久美子社長は、勝久氏が築いた会員制での販売を廃止。顧客層拡大やデジタル強化などの改革を打ち出した。


だが、お家騒動でのイメージ悪化やニトリなど低価格SPA(製造小売業)の台頭で客離れが深刻化。売り上げ減少に歯止めがかからず、店舗の撤退や面積縮小も進めたが、16年以降は赤字が常態化した。2020年4月期(16カ月の変則決算)も売上高368億円(2018年12月期373億円)にとどまり、67億円もの営業赤字を垂れ流す見通しだ。

営業キャッシュフローもマイナスが続き、運転資金は枯渇。18年からはスポンサー交渉を本格化させた。ヨドバシカメラなど子会社化を検討した企業もあった。しかし、「どこかの傘下になるのではなく、複数の企業から少額ずつ出資してもらうことを模索していた」(出資を打診された企業の首脳)。久美子社長が自身の経営権に固執したため、交渉は難航した。

2019年3月には、日中間での越境EC(ネット通販)を手がけるハイラインズを中心としたファンドなどから計26億円を調達。が、その後も販売不振が続く。

2019年夏ごろには、「久美子社長の経営能力を問題視した一部の取締役と社員が水面下で『社長降ろし』を企てる動きもあった」(同社関係者)とみられる。反・久美子社長派が多数派工作に失敗し、解職動議は取締役会に提案されずじまいだったが、資金面でも経営面でも危機的状況だった。

そこに2019年11月、以前から出資を打診していたヤマダから、「株式の過半を取得したい」と返答があった。12月末にヤマダから43億円の出資を受け、何とか倒産の危機は免れた。

一息ついたとはいえ、大塚家具の行く末は険しい。「大塚家具は粗利益率が高い。少しテコ入れして信用不安がなくなれば、回復できる」。買収を発表した12月の会見で、ヤマダの山田会長はそう言い切った。だが、事はそう簡単ではない。大塚家具の決算書には2018年12月期上期から「継続企業の前提に関する疑義注記」がついたままだ。


山田会長は「コラボ展開によってシナジーの最大化が図れる」とも強調する。実際、コラボコーナーを設置した「LABI品川大井町」は2020年2月の家具・インテリア売上高が前年同月比で倍増したという。

大塚家具回復に不可欠な条件

もっとも、これには大規模改装後の一時的な集客効果が含まれる。安売りのイメージが根強いヤマダの店内で、高級家具の需要をどこまで掘り起こせるかは、現時点で未知数だ。


また大塚家具にとってヤマダでの販売は「卸売り」扱いとなる。小売価格から一定の歩合を差し引いた卸価格で取引されるため、「粗利益率が約5割の小売りと比べ、卸売りは3割台くらい。利益寄与は限定的だろう」と大塚家具の取引先関係者は指摘する。

大塚家具が浮上するには、主要販路の直営店での販売回復が必要不可欠だ。直近1年間の既存店売上高は、消費増税前の駆け込みがあった昨年9月以外、すべての月で前年割れというさんざんな状況だ。今後は家電の展示を含めた店舗改装や、立地別の客層に合わせた商品展開の見直し、広告の強化などで客数回復を目指す。

問題は商品展開力や営業力の低下だ。大塚家具は数百社に及ぶ取引先を持ち、品ぞろえが豊富。顧客需要に沿った商品を選別し、接客を通して売り切る力が同社のビジネスの肝だった。

ところが会社の先行きへの不安や経営陣への不信感もあり、現在の大塚家具の社員数は2015年末から4割以上減少。目利き力を備えたバイヤーや営業スキルを持ったベテラン販売員が次々と退職した。それにつれて強みだった品ぞろえも陳腐化し、顧客への商品提案力も衰えを見せる。

社員の減少による人件費減の一方、大塚家具の利益を圧迫するのが年間65億円の賃借料(2019年実績)だ。売上高対比で24%に達し、とくに新宿と銀座の店舗の負担が大きい。既存店の売り上げ回復が実現できないままでは、一段の店舗整理を求められることになる。

ヤマダはこの現状をどう捉えているのか。実はヤマダにも、大塚家具の黒字化へ向けた具体策があるわけではない。ヤマダが描く将来ビジョンの主体はあくまで「ヤマダ」だ。大塚家具はヤマダの再成長に必要な“パーツ”にすぎない。

限界に近づくビジネスモデル

「量」や「安さ」で勝負してきた家電量販店のビジネスモデルは、人口減少やECの拡大を受けて、限界を迎えつつある。ヤマダの業績は2011年3月期の売上高2兆1532億円、営業利益1227億円をピークに低落傾向で、2015年3月期には営業利益が200億円を割り込んだ。


海外の機関投資家も警鐘を鳴らし、ヤマダは15年に、お家芸だった出店攻勢に終止符を打つ。出店セール用に大量に抱えていた型落ち商品の在庫を減らし、粗利益率を下げないよう既存店で魅力ある新商品を売る戦略に切り替えた。

家電と家具を組み合わせながら客に生活シーンを提案していく手法は、ヤマダ首脳陣が見いだした新戦略の柱。家電と家具のセット提案を充実させた「家電住まいる館」を17年から始め、今や100店舗を超える。次世代ヤマダの稼ぎ頭に成長させたい思惑が山田会長にはあった。しかし難題が立ちはだかる。ヤマダで扱う家具は、「どうしてもニトリと比較されてしまった」(山田会長)のだ。

国内の家具市場は、首位のニトリホールディングス(2019年2月期売上高6081億円)が島忠(2019年8月期売上高1463億円。他事業含む)などを引き離して断トツ。この競争環境下でニトリと同じ大衆向けの安価な家具を売っていたら、客足は知名度で勝るニトリに向かう。

そこでヤマダが目をつけたのが、ニトリとの比較対象にはされにくい高級家具を扱う大塚家具だった。

家電市場が縮小しているとはいえ、30万円以上する高機能洗濯機や高価格帯の冷蔵庫、エアコンは安定的に売れている。高額の60〜70インチの有機ELテレビを買う層は、ニトリでは買えない高級ソファに座ってテレビを見たいのではないか。そんな富裕層向けに高級感のある家具と家電を提案できれば、ニトリと競合することもない──。これがヤマダのたどり着いた生き残り策だった。

2019年2月、ヤマダは大塚家具と業務提携を結ぶ。大塚家具は資本提携を求めたものの、ヤマダ首脳陣はこの時点では首を縦に振らなかった。理由は2つある。

1つは、ヤマダの商品と大塚家具の家具を組み合わせたシーン提案で顧客にどこまで訴求できるのか、見極めが必要だったことだ。複数の店舗で検証を重ねた山田会長と三嶋恒夫社長は2019年11月の決算説明会で、「この間(実験的に検証したおよそ9カ月間)に、多くのことを学んだ」と手応えを示していた。

ギリギリのタイミングを狙った買収

2つ目は買収額の問題だ。2019年2月時点で大塚家具の株価は1株400円前後。「あの価格では当社の財務を毀損する可能性があった」と、ヤマダの財務担当・岡本潤取締役は明かす。一方で、業績悪化が続き、仮に大塚家具が民事再生を届け出てしまえば、ブランドそのものに傷がついて、資本提携する本来の意味がなくなってしまう。


2019年末の提携会見に登壇した大塚久美子社長(左)とヤマダの山田昇会長(撮影:尾形文繁)

「ヤマダの財務を毀損せず、大塚家具のブランドも傷つけない、ギリギリのタイミングを狙った」(岡本取締役)。結果的に第三者割当増資を2019年12月末に1株145円で実施。ヤマダ幹部の一人は「よいものを安く買えた」と胸を張った。

この買収でヤマダはもう1つの「よいもの」を手に入れている。家具の自社生産ルートの確保だ。

大塚家具は秋田木工を傘下に持つ。同社はかつて大塚家具の仕入れ先だった、国産家具の老舗メーカー。経営難で倒産した後、2006年に大塚家具が子会社化した。大塚家具はSPAのような製造機能を社内に持たないため、子会社の秋田木工のほか、有力な多数の仕入れ先メーカーと協業体制をつくり、大塚家具限定の商品の開発を行っている。

ヤマダにとって大塚家具の子会社化は、ヤマダ限定の高級家具を生産できるチャンスが生まれることをも意味するというわけだ。

家具に限らず、限定商品やPB(プライベートブランド)の開発は、家電業界共通の課題になっている。

従来、消費者が家電量販店に求めるのは安さだった。現在、最も安く家電を量販しているのはEC市場。比較購買ができるEC市場では、価格のたたき合いが常態化。この土俵では家電量販店は「出品すれど利益出ず」という構図に追いやられている。その点、PB商品の開発強化は価格競争から逃れるすべになる。

家電量販店はさらに、ECでの買い物にはない魅力の創出に力を注ぐ。2月7日、業界2位のビックカメラが老舗百貨店の日本橋三越本店に「ビックカメラ日本橋三越」をオープンしたのも、富裕層需要の掘り起こしと「安い家電量販店」からの脱却が眼目にある。

3月上旬、店舗を訪れると、200万〜300万円の大型テレビに囲まれた高級ソファに初老の夫婦が座り、自宅のインターネット接続状況やテレビの配置についてビックカメラのスタッフと三越のコンシェルジュ(ベテラン販売員)に相談していた。

ECとの差別化を図れるか

ビックカメラの目玉はトータルサポートを提供する「ビックカメラ スーパーサポート PREMIUM」。会員になると、家電購入時に接客したスタッフが自宅に赴き、設置から初期設定、使い方習得まで支援する。メニューによってはその後のメンテナンス(コンディション確認や清掃など)までこなす。

ビックカメラ日本橋三越の橋本賢太店長は、「相談時間は長いときには5時間に及ぶ。丁寧な接客を大切にしている」と語る。

ヤマダが大塚家具を買収したのも、ニトリとの差別化のみならず、ECとの差別化を念頭に置いたリアル店舗での家電と家具のトータル提案を強化する狙いがある。

独自性を追求するためにヤマダ主導でのPB開発が進めば、気になるのが「大塚家具ブランド」の存在意義だ。現状は大塚家具の仕入れた商品をヤマダ店舗に並べて高級イメージを打ち出すが、PBの比率が増えていくと大塚家具ブランドを継続する意味は薄れていく。

前例はある。住宅事業を強化するため、11年にヤマダが子会社化した名門ハウスメーカーのエス・バイ・エルだ。傘下入り後、ヤマダから新たな経営陣を送り込むなどしたが業績不振を抜け出せず、18年にグループ会社と合併させて上場も廃止。今は「ヤマダホームズ」へと名前を変えて、展開している。

早期に黒字化できなければ大塚家具ブランドの看板を降ろすシナリオも現実味を帯びてくる。大塚家具にとって、今後1年が本当の意味での正念場になる。