●月額2,980円(税別)で使い放題 衝撃的料金プランの皮算用
3月3日、楽天モバイルは移動体通信事業者(MNO)向けの料金プランとして、月額2,980円(税別)でデータ通信などが使い放題となる「Rakuten UN-LIMIT」(ラクテン アンリミット)を発表しました。また楽天モバイルは同プランのスタートキャンペーンとして、先着300万名を対象とした「1年無料」キャンペーンを実施しています。

昨年10月よりMNOサービスを開始した楽天モバイルでしたが、自社通信網の構築の遅れなどから利用者を大幅に制限して無料で回線提供を行うという、事実上の試験サービス運用でした。

満を持して発表された料金プランは、
・データ通信使い放題
・国内通話かけ放題(Rakuten Linkアプリ利用時)
・海外66の国と地域で2GBまでグローバルデータ通信無料(通話は従量課金)
このように、多くのサービスが使い放題となる衝撃のプランでした。

MNO向けの料金プランはこの1プランのみで、シンプルさも強く押し出した形です。


1年目が無料となるキャンペーンもかなりのインパクト



●安さにはそれなりの理由がある?
楽天モバイルがこのような「強烈に攻めた料金プラン」を打ち出してきた背景には、エリア展開の苦しさや後発企業としての顧客獲得リスクがあります。

現在楽天モバイルの通信基地局数は約3,500局となっており、3月末までに4,400局を構築する予定です。
この数字は、ほかのMNO各社の数万〜十数万という基地局数と比較すると圧倒的に少なく、事実としてそのエリア展開は東名阪地域の一部都市程度です。

そのため、自社通信網のエリア外ではKDDI(au)の通信網を利用する「ローミング契約」が行われています。
楽天モバイルのユーザーがデータ通信や通話の利用上でローミングを意識することはありません。

しかし、Rakuten UN-LIMITプランの「パートナーエリア(ローミングエリア)での通信データ容量は2GBまで」という制限が発生し「使い放題」ではなくなってしまいます。

つまり、本プランのメリットを最大限に享受できるのは楽天モバイルの自社網エリア内から圏外にほとんど出ないような人々だけなのです。


プレゼンでは全国をカバーしているような画像も使われたが、実際のエリア展開はごく一部の地域に限られる


新規通信事業者にとって、最大の関門は常に「エリア展開」となる


とはいえ、楽天モバイルも基地局設置を「全社をあげての総力戦」(三木谷社長談)として位置付けており、再優先課題として取り組んでいます。

今後エリア展開が順調に進めば、価格メリットは、徐々に向上していくことになります。


楽天モバイルは通信衛星を使ったエリア展開も検討しているが、日本では法制上の問題もあり関係各省と議論を進めている段階だ



●他社動向やトレンドに振り回される予感も
問題はほかにもあります。他社の動向や通信業界のトレンドです。

ほかのMNO各社は、今のところRakuten UN-LIMITプランへ対抗する料金プランやキャンペーンなどを打ち出していません。
とはいえ楽天モバイルのエリア展開にある程度の目処が立つ頃には、何らかの低価格プランを打ち出してくる可能性は十分にあります。

さらに現在の通信業界は、第5世代通信システム「5G」が最大のトレンドです。
3月末からNTTドコモやau、ソフトバンクが一斉にサービスを開始しますが、
楽天モバイルは現在のところ4Gのみのサービスとなっており、5Gは今後サービス予定であるものの、その開始時期は未定となっています。

MNO各社が5Gを推し進め、
・エリア展開の早さ
・対応端末のラインナップと性能
・5G向け料金プラン
これらで競い合う中、話題性や実用性の面で取り残されてしまう可能性も否定できません。

少なくとも、ユーザーから見て「他社が5Gを売る中、未だに4Gのエリア展開で苦しんでいるキャリア」というのは、好印象とは言い難いでしょう。


端末ラインナップは豊富だが、この時期に5G端末がないのはどうしても話題性に欠ける


●カギとなるのはエリア展開。革命児の今後に期待
楽天モバイルは、本来であれば膠着したMNO業界へ、新世代の技術を携えて殴り込む革命児的な位置付けでした。

しかし実際は5Gへの移行期に重なり、事業参入タイミングとして楽天の追い風とはならなかったようにも感じられます。
他社が4Gのエリア展開や料金プランで熾烈な競争を行っている時期ならばともかく、他社が5Gへの移行を進める段階では、いくら4Gの格安プランを提供しても業界的なトレンドとはなりきれず、ユーザー訴求も弱くなってしまった感があります。

今後、楽天モバイルに勝算があるとすれば、
・早期に4Gエリアの展開を完了させる
・ローミング環境下でも魅力的な料金プランを提示する
・5G展開も早期にスタートさせる
こうした施策が考えられます。

ですが上記を実現するには、
・4G基地局の設置に必要な用地確保交渉や工事には物理的な工数(期間)が必要
・利用者が増えるほど、ローミングコストが支出として増える
・5Gアンテナの新たな設置(基地局は共有できてもアンテナは4Gと別)が必要
・5G対応端末の確保が必要
つまり、施策を増やすほど、課題も次々と発生します。

元々、楽天モバイルにとってのMNO事業参入には、自社経済圏を円滑に回すためのエンジン(動力源)を強化する、という目的がありました。
そのため、通信サービスの開始当初は事業単体で赤字であっても、経済圏全体として黒字化が図れれば良い、というスタンスが取れます。
したがって、参入リスクも低く抑えられていたのが特徴の1つでした。


MVNOからMNOへ移行することで、より強力に自社経済圏を回すことが最大の目的だ

こうした背景から、今回発表されたような衝撃の低価格も打ち出すことができたわけです。
しかし現時点での楽天モバイルの状況は、当初の思惑とは異なり、前述のように前途は多難と言わざるを得ません。

果たして楽天モバイルはMNOとして成功できるのか?
こう問いたいところですが、現時点でこの結論を出すのは時期尚早と言えるでしょう。

話題を集めたRakuten UN-LIMITの1年無料キャンペーンについても、「エリア構築が進むまでの試験運用第2弾」だと評する声が一部に聞かれます。

そのような中で、今後の楽天モバイルの成否の判断材料となるのは、
やはり「エリア展開」だと考えます。

現在の私たちは、NTTドコモやauなどの回線を利用していますが、利用エリアのメリットやデメリットを意識することはほとんどありません。
楽天モバイルも、こういった各社と同等の通信エリア・通信品質になれば、多くの消費者から同等の選択肢として検討されるからです。
その時初めて、料金プランの安さや使い放題などのメリットが魅力として活きてくるのではないでしょうか。

さらに、楽天モバイルには、
・通信技術の完全仮想化
・低コストな通信エリア構築
こうした他社にはない革新性に溢れた技術があります。

利用エリアで既存の各社との差が縮まれば、市場そのものに多大な影響を与えることも可能になります。それだけに楽天モバイルの今後のチャレンジ、その行方と可能性に期待をしたいと思います。


執筆 秋吉 健