4万5000人を収容するボタフォゴのホームスタジアム、ニルトン・サントス。しかしその半分以上は空だった。

 期待の新戦力・本田圭佑がデビューするはずだった、3月10日のパラナとのコパ・ド・ブラジル3回戦。ブラジルに来て約1か月、本田自身もこの時を待ち詫びていたろうし、何よりサポーターはようやくこのレフティーのプレーが見られると喜んでいた。しかし、華やかなお祭り騒ぎとなるはずだった試合は、直前に一転してしまった。

 その理由は、日本の皆さんならもうご存知だろう。7日に発熱したと報じられた本田は、8、9日の練習を休んだ。新型コロナウイルスの検査もしたが、これは陰性。10日にはかなり回復していたのだが、まだ本調子ではなかった。

 チームとも話し合った結果、本田はプレーするのを断念し、パウロ・アウトゥオリ監督もそれを了解。SNSを通じてサポーターに謝罪し、もう少し待ってくれるよう頼んだ。

 しかしこのストーリーには、少し裏がありそうだ。

「本田はリオに来てからずっとハードな練習をしてきたから、発熱は疲れからだろう」

 サポーターの間ではそう擁護する声も少なくはなかった。だが、今回の欠場にどこか違和感を覚えているファンも多かったようだ。本田が加入してからボタフォゴのシーズンチケットを購入したあるサポーターはこう言う。

「とにかくよくわからない。週末(7、8日)には、まだ『みんなでスタジアムに行って本田のデビューを見よう!』とクラブは宣伝していた。しかし土曜日にはすでに具合が悪くて、日曜には寝てたんだろ? なんで月曜までプレーしないことを発表しなかったんだ?」

 欠場の理由をボタフォゴのチームドクター、クリスティアーノ・チネッリはこう説明する。

「本田は正確には金曜の午後に37.4度あり、その時にはもうぐったりしていた」

 しかしその後に発した言葉に、考えさせられてしまった。

「練習には出ていたが、本田は重いインフルエンザでチームとは離れていた」

 重いインフルエンザ? それが1日や2日で治るのか?

 この発言を不思議に感じる者は、私以外にも数多くいた。
 
 リオデジャネイロ在住のあるベテラン記者(彼の希望で名前は伏せておく)も、最終的にボタフォゴは本調子ではない本田を、重要なパラナ戦で使いたくなかったのではという見解を私に語った。今回のカップはホーム&アウェイの2試合で結果が決まる。ホームでの第1レグは、決して落とせない試合だった(勝ち進めば収入が増えるため、財政難のクラブにとっては死活問題だ)。

 私の考えもほぼ同じだ。

 本田はプレーできないほどの状態ではなかった。ただアウトゥオリ監督も、この試合に負けられないことはわかっている。発熱がなくてもまだ本調子でない、そのうえこれまでブラジルで公式戦を戦ったことのない選手をデビューさせるには危険すぎた。

 しかも、ベンチに入れたら入れたで、サポーターは「本田を出せ」と騒ぐだろう。しかしアウトゥオリはこうした外部からのプレッシャーをとくに好まず、そもそも難しいパラナ戦で、本田を使う場面が来るかも分からない。

 クラブにとって、この33歳のMFはファンの心をつなぎとめている“金の卵”だ。無理に起用して出だしで躓き、ケチをつけられたくはない。実際にインフルエンザだったのかどうかは定かではないが、プレーできない状態ではなかったにもかかわらず、この日のデビューを辞めさせたのではないか。

 では、本田はいつデビューするのか? おそらく次の日曜日(15日)のリーグ戦となるだろう。リオデジャネイロ州のローカルリーグの1試合、それほど重要性はないし、相手はバング―という与しやすい相手である。