自動車教習所では習うものの、あまり実践されていない運転行為がいくつか見られます。しかしなかには、現在の感覚に照らすと、教習内容のほうに疑問符がつくケースも。なぜそう教えられるのでしょうか。

「踏切で窓を開ける」なぜ?

 自動車教習所で習っても、免許をとったあとは実践していないという運転行為、少なくないかもしれません。なかには、そもそも昔と比べて教習内容が変わっているケースもあります。そのような運転行為を「なぜそう教えられるのか」という理由も含めて5つ紹介します。

踏切での停止時に窓を開ける

 教習では、踏切で一時停止した際、窓を開けたうえで左右を確認するよう教わります。たとえば首都圏で見かける踏切の多くは、列車が近づけば遮断機が下がり、カンカンと大きな警報音が鳴るので、窓を開けないと聴こえないというケースはまずないと考えられますが、教習や試験の際に窓を開けなければ減点です。


教習では、踏切の手前で窓をあけて列車が来ないことを確認すると教えられる。写真はイメージ(画像:photolibrary)。

 この踏切での窓開けは、道路交通法においては規定されていませんが、道路交通法の内容に基づき公安委員会が作成した「交通の方法に関する教則」に記載があります。それによると「踏切を通過しようとするときは(中略)窓を開けるなどして自分の目と耳で左右の安全を確かめなければなりません」とあり、加えて「エンストを防止するため、変速しないで、発進したときの低速ギアのまま一気に通過しましょう」とも書かれています。

 東京都世田谷区の自動車教習所、フジドライビングスクールの田中さんによると、このようなルールができたのは、MT車が基本だった昭和30年代だといいます。

 また、遮断機も警報機もない踏切は、2017年時点でも全国で2700か所以上あり、昭和30年代当時はもっと多かったと考えられるとのこと。田中さんは、「全国での適用を考えたうえでも、ルールとして残っているのではないか」と話します。

ポンピングブレーキは必要?

 教習の意味合いや、教える内容が、昔と若干異なっているケースもあります。

ポンピングブレーキ

 走行中に停止する際、ブレーキペダルを数回にわけて踏む方法は「ポンピングブレーキ」「断続ブレーキ」などと呼ばれます。前出の「交通の方法に関する教則」では、「最初はペダルを軽く踏み込み、それから必要な強さまで徐々に踏み込んでいく」とされ、ブレーキを数回に分けて使う旨が記載されています。

 また教則には、「この方法は、道路が滑りやすい状態のときには、とりわけ効果的」とも書かれています。これは、ABS(アンチロックブレーキシステム)がなかった時代、ブレーキを踏み込んでタイヤがロックし、滑ってしまうことを想定したものです。しかし現在はほとんどのクルマに搭載されているABSが、ポンピングブレーキと同様の動作をしてくれます。ABSが付いたクルマの場合、こうした場面ではむしろ「一気に強く踏み込み、そのまま踏み込み続けることが必要です」と教則でも書かれています。

 ポンピングブレーキを現在も教習所で教えているのには、別の側面があります。東京都葛飾区の平和橋自動車教習所によると、「ブレーキランプを複数回点灯させ、後続車に停止をアピールするうえで重要」とのこと。こうすることで、早め早めのブレーキを後続車にうながす目的があるそうです。

左折時の幅寄せ


車道の左側端に自転車ナビマークや自転車レーンが設置されていても、クルマが左折する際は、それに乗り入れて左へ幅寄せする(2017年6月、乗りものニュース編集部撮影)。

 交差点などで左折する際には、その手前から合図を出し、クルマを左に幅寄せすることは道路交通法でも規定されています。後方からバイクや自転車が進入してくることによる巻き込み事故を防止するためですが、「縁石などにぶつかるリスクもあるため、免許取得後は幅寄せしなくなる人が見られますね」(平和橋自動車教習所)とのこと。

 左折と同様、「右折時に道路の右側へ幅寄せすることも、同様に忘れられがち」と平和橋自動車教習所は指摘します。狭い道路でこれをしていないがために、直進する後続車が通れないケースもよく見られるそうです。

ハンドル握る位置、昔は「10時10分」いまは?

 ハンドルを握る位置も、教える内容が昔と変わっています。

ハンドルを「10時10分」の位置で握る

 ハンドルを水平よりもやや上、時計の針にたとえれば「10時10分」の位置で握ると教わった人もいるかもしれませんが、平和橋自動車教習所では現在、乗用車であれば10時10分よりもやや下の「9時15分から10時10分のあいだ」と教えているそうです。

 フジドライビングスクールの田中さんによると、「10時10分」は油圧でハンドル操作を補助するパワーステアリングがなかったころ、ハンドルをたくさん回すうえで力の入りやすい位置だったと説明します。

 しかし、パワーステアリングが当たり前に装備されている現在のクルマでは、むしろハンドル操作の正確性が重要になるといい、基本的には「9時15分」がよいと話します。ただし厳密な決まりはなく、人によっても、運転する環境によっても適正な位置は異なるそうです。

信号のない横断歩道での一時停止


信号機のない横断歩道のイメージ(画像:photolibrary)。

 信号機のない横断歩道を歩行者が横断しようとしている場合、クルマは一時停止しなければなりません。平和橋自動車教習所は、このことも多くのドライバーが忘れがちだといます。

 違反した場合は、「横断歩行者等妨害」として罰則の対象ですが、一時停止しないドライバーが8割近くに上るというJAF(日本自動車連盟)の調査結果もあります。実際、自動車対歩行者の死亡事故は、その約7割が道路横断中に発生していることもあり、全国でこの「横断歩行者等妨害」の取り締まりが増加しているそうです。

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 このほかドライバーが違反しがちな行為として、平和橋自動車教習所は「黄信号を通過すること」も挙げます。

 道路交通法で黄信号は、「停止位置をこえて進行してはならない」、ただし「安全に停止することができない場合を除く」とあります。平和橋自動車教習所によると、「この例外のほうを都合よく解釈するドライバーが見られます」とのこと。安全に停止できるにも関わらず黄信号で進行した場合は信号無視となり、「検定では一発アウト」だそうです。