2年連続の暖冬text&photo:Tetsu Tokunaga(徳永徹)
暖冬の影響でスタッドレス・タイヤの売上が伸び悩んだこの冬。日本のタイヤメーカーが、オールシーズン銘柄の市場に本格参戦を始めて最初の冬とも重なった。
住友ゴムは「ダンロップ・オールシーズン・マックスAS1」、横浜ゴムは「ブルーアース4S AW21」を投入。前者は21サイズ(13〜18インチ)、後者は19サイズ(14〜19インチ)を用意する。
新型トヨタRAV4にSUV用オールシーズンタイヤを履かせて走行。ブリヂストンも、ファイアストン・ブランドの「ウェザーグリップ」を店頭に並べている。
TOYO TIRESは、SUV向けに絞った「セルシアス」を6サイズ(15〜17インチ)発売。仏ミシュランは「クロスクライメート・シリーズ」を14〜20インチまで送り込んでおり、発売予定のものを含めるとカタログ上は70サイズを超える。
日本のオールシーズン・タイヤ市場に、いち早く戦略的に製品を投入してきたのは、米グッドイヤーの日本法人だ。
ライバル社の参戦にさぞかし肝を冷やしているかと思ったのだが、そうでもない様子である。
グッドイヤーの調べでは、冬季の道路環境が日本に近いヨーロッパにおいて、オールシーズン・タイヤの市場構成比はおよそ10%(2019年)。
対する日本市場はどうか? オールシーズンを履くクルマの割合は、まだ「100台走っていたら1台いるかいないかくらい(同社幹部)」という。
わずか数%に過ぎない。日本は、これから成長期を迎えるマーケットなのである。
危機感よりも、好機
日本グッドイヤーの金原雄次郎 社長は、他社の参入について「市場が大きくなっていくという意味で、われわれにとってもチャンス。歓迎すべきこと」と、報道陣を集めた懇親会で話している。
「欧州は100台のうち約10台がオールシーズンを履いている」
グッドイヤーのオールシーズン・タイヤの主力はベクター4シーズンズ・ハイブリッド。「日本市場で今後7、8%まで増えることはありえる。ただ、それがどれくらいのスピードで起きるかはなんとも言えない。欧州は(10%まで増えるのに)30年くらい掛かっているが、そこまでは掛からないと思う」
危機感というよりも、流れをうまく掴みたいという話しぶりだった。
夏・冬の履き替えが不要、外したタイヤの保管スペースが不要。こうしたメリットを考えれば、非降雪エリアを中心に、ユーザーが増える伸びしろは少なくない。
目下の課題は、オールシーズン・タイヤという新たな選択肢が、一般的なドライバーに浸透していない現状を好転させること。他社が参入することで、第3のタイヤとして市場自体が広がれば、それだけチャンスが増えるわけだ。
世の中の視線がこのカテゴリーに向けば、グッドイヤーには強みがある。
第1に、すでに日本市場で展開しているオールシーズン・タイヤが58サイズあるということ。
同社には、乗用車向けの「ベクター4シーズンズ・ハイブリッド」と、SUV用の「アシュアランス・ウェザーレディ」が存在し、前者は45サイズ(13〜18インチ)、後者は13サイズ(16〜20インチ)を数える。まだまだサイズが少ない日本メーカーの倍以上の品揃えである。
また、軽自動車向けとなる13インチについては、155/65R13〜155/80R13まで5種類が用意され、後発メーカーに大きく差を付けている。
いま、口コミが重要なワケ
2番目の強みは、前述のベクター4シーズンズの日本向けラインナップを、2016年の時点で大幅に拡大したということ。この頃に購入したユーザーが、すでにタイヤ交換の時期を迎えているのだ。
同社の調査では「9割近い方が満足されていて、再購入の意向も非常に強い(有田俊介マーケティング本部長)」という。
スタッドレス・タイヤとオールシーズン・タイヤを比較する機会も。現代のマーケティングにおいて何よりも大切な“ユーザーの声”を、いま手にしているメリットは大きい。なにしろオールシーズン・タイヤというのは、1年以上の使用を経て評価が定まる性格の品だから、短期間では口コミも集まらない。
既存顧客の満足度が高いというのだから、ユーザーの囲いこみも期待できる。
また、1977年に世界初のオールシーズン・タイヤを発売した「オールシーズン・タイヤのパイオニア」というフレーズは、明確な個性を出しづらいタイヤ業界にあって、他社には真似ができないメッセージとなっている。
世界にはオールシーズンを名乗るタイヤは多く存在し、冬タイヤをベースに開発したものもあれば、夏タイヤ寄りの性格を強めたものもある。冬用としての性能をどこまで追求するかについても、地域によって考え方が異なる。
グッドイヤーのオールシーズン・タイヤは、「高いレベルでのバランスが取れていることが強みの1つ。夏にふったわけでもなく、冬にふったわけでもない。ある部分だけを見るのではなく、全体を見てもらえればバランスを分かって頂ける(金原社長)」というキャラクターがある。
取材班が訪れた雪上走行会は、午前と午後とでコンディションが大きく変わったが、クルマのコントロールに困るそぶりを見せるドライバーはいなかった。
しかし日々の運転はこれとはまた別の世界。
ドライビングの経験値・癖は人それぞれだし、クルマの性能も使われ方も異なる。安全に直接関わる部分の話しだから、1人ひとりの声が一層大きな意味を持つ。ユーザーの支持を得るのは、どのタイヤメーカーになるだろう。
外部リンクAUTOCAR JAPAN