ゼロックス杯で起きた異例の展開をメンタルトレーニングコーチの大儀見氏が分析

 PK戦で9人連続失敗――。

 Jリーグの2020シーズン幕開けを告げる富士ゼロックス・スーパーカップは、意外な角度から脚光を浴びることとなった。

 2019シーズンのJ1リーグ王者である横浜F・マリノスと天皇杯王者のヴィッセル神戸が対戦した今大会は、90分間のゲームでは互いに3点ずつを奪い合うエキサイティングな試合展開となった。しかし、そんな好ゲームが霞んでしまうほど、試合後に国内外から注目されたのが神戸が3-2で制したPK戦だ。

 神戸MFアンドレス・イニエスタら、両チーム2選手ずつがGKの逆を突いて成功させた後、先攻・横浜FMの3人目となったFWエジガル・ジュニオのシュートが神戸GK飯倉大樹のファインセーブに遭う。これを皮切りに、両チーム合わせて9人が連続でPKを失敗した。うち3人は両GKによる質の高いセーブにあったが、それらを踏まえても極めて異例の事態である。

 こうした連鎖反応は、なぜ起こるのか。「集中力がなかったわけでもないし、トップレベルの選手たちがいわゆる“ビビっていた”状況でもなかったと思います」と、メンタルトレーニングコーチの大儀見浩介氏は、選手のメンタル面からこのPK戦を分析する。

「浮かさないように」とイメージするとボールは浮く?

 まず大儀見氏は、「『シュートを外さないように』とイメージするほど、逆に外しやすくなります」と指摘する。テレビ中継では、解説者の北澤豪氏が「みんな浮いてるんで、絶対浮かないようにと思って入ってるとは思うんですけどね」とコメントしていた。

「北澤さんが言ったとおり、選手たちも『浮かさないように』と考えていたと思います。実は、こういった打ち消しの思考は良くないんです。例えば『絶対にピンクのゾウのことを思い浮かべないでください』と言われたらどうでしょうか。頭の中にはもう、いますよね(笑)。

 人間の脳内は“無意識”が強いので、“意識”では『外さない(=入れる)』と考えていても、“無意識”で『外す』の単語や映像のほうに引っ張られます。失敗が続いた流れでは、そのようなメンタルになりやすいですね」

 ゴルフのタイガー・ウッズは、ラウンド終盤の重要な局面でも、相手のパットを「入れ!」と念じながら見るという。大儀見氏によると、たとえ相手のパットでも「入れ!」と考えることで肯定的なイメージが無意識に作られ、自分に有利に働くそうだ。

 また、今回のPK戦で特徴的だったのは、ゴールの上に外す選手の多さである。クロスバーに当てた選手も含め、実に5人もの選手がボールをゴールより高く浮かせた。

「『外せ』と思いながらハーフラインの列で待っていて、相手が外したら『よっしゃ』と。それと同時に『また上に外したな』と無意識に捉えて、上に浮かして外すイメージがさらに強化されていったのではないかと」

蹴った直後のキッカーの視線にも注目

 また大儀見氏は、キッカーに心理的な負荷がかかるPKの場面では、視線の方向に注目するとその選手のメンタルが見えてくると語る。

「サッカーでもゴルフでも、プレッシャーを感じると球筋が気になって、打つ瞬間に顔が上がってしまいます。そうなると上体が開いて、ボールが浮いてしまいますよね。ボールをセットしたポイントに視線を少し残すイメージで打つ、『クワイエット・アイ』という方法を使うと、いつも通りに蹴れます。今回シュートを浮かした選手にも、瞬間的に顔が上がってしまっている選手がいたと思います。集中していても、結果が気になって、過集中や過注意の状態になっていたのかもしれません」

 無論、イニエスタのようにGKの動きを見て蹴るタイプの選手には当てはまらないが、蹴り込む場所を決めている場合には有効だ。

「10人目」になるかもしれないというプレッシャーがかかったのは、後攻・神戸の7人目となったMF山口蛍だ。しかし日本代表に名を連ねるボランチは、これらのネガティブなメンタル要因を回避して右サイドにシュートを流し込み、異例の展開となったPK戦に終止符を打った。(遠藤光太 / Kota Endo)