内実はブラック企業でも、「見せ方」で就活生に上手にアピールする企業が少なくない (写真:U-taka/PIXTA)

これから、冬のインターンシップや合同説明会、採用セミナーの開催が本格化する時期だと思います。そうした場所では、多くの企業が力を入れたプレゼンを展開すると思いますが、その内容や印象を鵜呑みにすると、早期離職につながるような「ミスマッチ就職」の大きな要因となります。


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企業は学生に少しでも興味を持ってもらおうと、とにかく学生受けがよさそうなことをプレゼンの中に盛り込みます。その裏にある学生受けの悪い事実は伏せたまま選考を進める企業も少なくありません。

しかし、学生がその都合の悪い事実を知ろうと思っても、知るすべがなかなか無いのが現実です。実際は入社してみないとわからないことばかり。とはいえ、ただ諦めて何もしないよりは、少しでも企業にだまされないように注意したほうが、ミスマッチのリスクを減らすことができます。

魅力の仕事ばかり伝えて「不都合な真実」を隠す

まず、企業はどんな手法で学生をだましているのでしょうか。

よくあるのは、学生にとって魅力のある仕事ばかりを説明することです。入社してからは、現場の泥くさい仕事ばかりが中心なのに、説明する仕事内容は華やかに見える本社・本部での企画仕事やマーケティング、商品開発、販売促進、宣伝広報などというケースが少なくありません。学生が憧れやすい仕事だけ説明をし、将来的にそこで活躍できる可能性があることを意図的に見せます。

でも実際は、将来その仕事につける可能性は非常に少ないという事実はひた隠しにします。どれくらいの可能性があるかを聞いたとしても、「それは本人の努力や適正次第なので、なんとも言えません」と、やんわりはぐらかしたりします。

入社前と入社後のギャップによる離職を気にして、仕事のリアルを伝える企業が増えていますが、同時に「入社させてしまえばなんとかなる」と考える企業がまだまだ多く存在するのも事実です。表面的にカッコよさそうな仕事、華やかそうに見える仕事の情報だけで判断せず、リアルな仕事内容を見ることができれば、ミスマッチのリスクを減らすことができるでしょう。

入社後すぐにやることになりそうな仕事が具体的に何なのか、自ら聞いたり調べたりすれば、ある程度は見えてきます。また、入社から1〜3年程度の具体的初期育成プランを聞くことで、どんな経験を初期に積んでいくのかを知ることができます。

入社初期の頃は、実際に入社してからすぐに行う仕事と、入社前にイメージしていた仕事とのギャップが大きくなりがちです。しかもその頃は、仕事へのストレス耐性も低いことが多く、ギャップに耐え切れず、早期離職や精神的に病んでしまう可能性もあります。

入社して合わなければ「すぐ辞めればいい」という意見もあります。それはそれでわかるのですが、景気が不安定になれば、いくら世の中が労働力不足とはいえ、自分が希望するようないい働き場所が都合よく見つかる可能性は低くなります。また、早期離職は市場価値が低くなりやすくなることは否めません。社会人初期のキャリア形成を安定して築くためにも、入社初期にどんな仕事をするか知ることは、重要なポイントだと思います。

また、その企業にどんな部署があって、どんな仕事をしているのかを知ることも重要でしょう。自分が興味ある部署に全社員のうち何割程度が配属されているのかを聞くことができれば、将来的に自分がやりたいと思える仕事につける可能性のリアルが見えてきます。

実際の仕事内容や、自分が思い描いていることへの実現性がどれくらいのものなのかは、無駄なミスマッチを防ぐためにも、仕事のいい面だけでなく、厳しい面も含めて、できる限りつかもうとすることをお勧めします。

「どんどん仕事を任せる」で引きつける

学生を誘うもうひとつの王道的手法が、「若いうちからどんどん仕事を任せられるので、成長できる!」ということをアピールするやり方です。

人生100年時代と言われる中で、終身雇用制度が崩壊しつつある今、将来的に自立できる力を求め、成長できる環境を求める学生はとても多いと思いますが、その学生の思いを利用して、「うちに入社すれば成長できる!」と口説くのです。

この手法をよく使うのは、人手が不足しているベンチャー企業や中小企業が多い傾向があります。そのような企業は人手が少ないので、任されることが多くあることも事実です。実際に責任ある仕事を若くから任せられる企業もあります。

一方、目の前に出てくる数々の雑務や、多くの人が嫌がる面倒な仕事を押し付けることを「何でも任される」と、都合よく変換している企業は少なくありません。

「入社しばらくは、計画的な修行期間として下働き中心」というのであれば、まだましかもしれませんが、修業期間の期限や育成計画も無く、将来、顧客に対して何の価値提供ができるような人材になることができるのか、まったく見えないような仕事を永遠に行うのであれば、成長の限界がすぐに来て、そして使い捨てにされてしまう可能性があります。

そのようなことにならないように、新卒で入った先輩社員たちが、入社3年後、5年後、10年後と、具体的にどんな仕事をしているか聞いてみましょう。要職についている社員が、中途社員ばかりであれば、その企業に新卒社員を育成できる力があるのか疑問がつきますので、注意が必要です。

また、先輩社員たちが、実際の仕事で、誰にどのような価値を提供しているのか。なぜ、その仕事が顧客や社内で必要とされているのかを、聞いてみることも有効な手段の1つだと思います。

先輩社員たちが実際に行っている仕事が、自身にとってあまり魅力的に感じなければ、その企業の中でできる成長と、自身が目指したい成長の方向性が、異なっているのかもしれません。

自分が、将来こうありたいという姿が、その企業の中で描いていけそうかどうかは、企業が発信する言葉だけでなく、実際にそこで働く新卒で入社した先輩社員の姿、仕事内容、提供している価値を、できる限り見て、把握してから判断しても遅くはないと思います。

魅力的な人を表に出して学生をだます企業も

ただ、「人」でだます企業も少なくありません。

学生への採用活動で表に出るのは、学生に受けるような容姿、雰囲気、語れる言葉を持つ、選ばれた人材であることがほとんどです。

実際に、選考中に会った人に憧れて入社してみたら「選考中に出会った憧れの対象となるような人は企業の中のごく一部しかいなかった」とか、ひどい場合には「選考で会った人は、まったく別の採用支援会社の人だった」ということもあります。

「もっと多くの社員に会わせてほしい」と要望しても、「社員も忙しいので、なかなか難しい」などと言われ、実際にどんな人たちが多く働いているのかを知ることができないまま、選考を終えること多くもあります。

これは、なかなか学生にとって悩ましい問題です。企業側が積極的に多くの人と会わせるという姿勢を持っていない限り、普通の選考の中で、実際に企業で働く人たちと多く接点を持つことは、なかなか難しいと思います。しかし、そこで一緒に働く人との相性は、その企業で長く働く要件として、とても重要な項目です。

企業は早期離職のミスマッチを防ぐためにも、人事担当者や限られた人材だけでなく、積極的に多くの社内人材を学生に会わせたほうがいいでしょう。しかも学生受けしやすい人材だけでなく、本当にその企業の風土、大事にしている価値観をリアルに伝えられる人材に、会わせることが大事だと思います。

企業のリアルとはかけ離れた人材を表に出し、その人材に学生をひきつけさせても、それは企業そのものに対する動機形成にはつながっていません。それは入社後のギャップが大きくなる可能性が高いのです。

企業の姿勢を変えていくためにも、学生の皆さんは選考途中に「もっと多くの社員に会わせてほしい」「実際に現場で働く人の話を間近で聞かせてほしい」「職場見学をさせてほしい」といった要望を出していいと思います。

企業も時間と人員が限られているため、選考初期の段階で対応することは難しいと思いますが、ある程度選考が進み、絞られた応募者に対して対応することについて検討くらいはできるはずですし、本当に欲しいと思う人材には対応するはずです。

「働くうえで本当に大事にしたいこと」を大切に

まだ企業がインターンシップを行っている、選考の中で職場体験などのコンテンツを用意してくれているなど、実際に職場を見る機会があれば、さらにその企業のリアルに近づくことができるでしょう。

限られた時間の中での就職活動はとても大変だとは思いますが、それでも、入社したいと思える企業については、できることなら複数の先輩社員と会う機会やリアルな職場感を感じることができる機会を積極的に持つことをお勧めします。

ここまで、企業側のだます手法について書いてはきましたが、企業側の採用のテクニック、演出をいくら見破ろうとしても限界があるのは事実です。

見破る努力、工夫を積み重ねて、ある程度見極めたとしても、入社後のギャップがあることは、いくらでもあります。すべてが自分の思いどおりの企業というのは、この世の中に、ほぼ無いからです。

そこで学生の皆さんに大切にしてほしいのは「自分が働くうえで本当に大事にしたいことが何なのか」ということです。大事にしていることについて、大きなギャップが生まれなければ、そのほかのギャップはだいたい乗り越えることができるでしょう。

「自分が本当に大事にしていること」が、その企業の中にはあるのか、ないのか。見極める内容を絞ることで、より見極めはしやすくなるはずです。

自分が大事にしたい軸を考えないままの就職活動は、企業側がつくった演出に踊らされやすく、企業側の都合のいいように、気持ちを持っていかれてしまう可能性が高いです。

就職活動で色々な企業や人と会う中で、自身の働くことへの価値観を整理しつつ、自分が大事にしたいと思う軸を確認していってください。そして、大事にしたいことが実現、実行できる企業に入社し、思う存分に活躍してもらうことを強く願っています。