[画像] バスケ日本代表・比江島慎を救った田臥勇太の言葉。急逝した母に捧げたシュート、墓前で交わした“約束”

44年ぶりにオリピック出場を決めた、バスケットボール男子日本代表。その中で是非とも、覚えてほしい男がいる。

オリンピックに繋がるワールドカップ予選で、日本代表の得点王になった宇都宮ブレックス・比江島慎(29歳)だ。

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彼の最大の武器は、その名も「比江島ステップ」。顔の動きや目線に細かいフェイントを交え、独特のリズムのステップで相手を翻弄していく。

日本人離れしたそのステップのルーツは、小学校時代にさかのぼる――。

◆「比江島ステップ」の原点、支えてくれた母の存在

3つ上の兄を追って、7歳でバスケを始めた比江島。当時から「1対1」を好んでいたが、弱点だったのが“スピード”。

「小学校からスピードがないことに気づいていた。刻むしかないと、ステップを」と思った比江島は、細かなフェイントを入れて相手をかわすようになり、その工夫が彼の最大の武器である「比江島ステップ」を生み出した。

そんな比江島をいつも温かく見守り支えてくれたのが、母・淳子さん。2人の息子を女手ひとつで育て上げた淳子さんは、身を粉にして働き続けながら、比江島の試合には必ず応援に駆け付けたという。

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しかし、シーズン終盤の去年4月21日。淳子さんは帰らぬ人となる。

「突然ですね。突発的な心臓発作というか。『ご飯作っておくね』みたいな感じでLINEがきていて。でも帰ったら息もしてなかった状態で…」

それでも比江島は、コートに立ち続けた。リーグ優勝をかけた決勝トーナメント、準々決勝。

当時、比江島が所属していたシーホース三河は、最終ピリオドで1点差に迫られていた。

すると残り20秒。比江島がステップからのジャンプシュート。これが決まり、比江島は天を指した。

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「母の日というのもあったし。見てますか〜?っていうか、やったよ!って」

母の日に捧げたシュート。この年、比江島は自身初のMVPに輝き、その授賞式では涙を流しながら母への感謝を語った。

「これからもお母さんのために、バスケットボール界の発展のためにも、もっともっと精進してみんなが納得してもらえるような選手になって、またアワード賞に帰ってきたいと思います」

ここから、名実ともに日本のエースへと成長した比江島。ワールドカップアジア地区最終予選では八村塁や渡邊雄太など海外組が不在の中、得点を量産。チーム最多得点の活躍でワールドカップの出場を決め、44年ぶりにオリンピックの切符も獲得した。

母の死を乗り越え、日本代表のエースとなった比江島。その未来は明るい――誰もがそう思う中、新たな試練が彼の前に立ちはだかった。

◆突然のスランプ「自信を失っていた」

今年8月。ワールドカップを直前に控え、強化試合を重ねていた日本代表。格上相手に勝利するなど、大盛り上がりを見せる中、比江島はただひとり、浮かない表情を見せていた。

半年前の予選では、比江島得意の「1対1」からの積極的なプレーでチーム最多得点を叩き出していたが、八村や渡邊などポイントゲッターとともにプレーするようになったことで、パスも選択肢に入り、迷いが生じ始める。

比江島らしい積極的なプレーはおろか、パスミスの連続。当時の様子を比江島は、こう振り返った。

「正直、自信を失っていた部分があったというか。その中でニック(ファジーカス)とか塁とか雄太が入ってきて、迷いがありながらもプレーをしてしまった結果、ズルズルズルズル、自分を見失っていた」

迷いのまま迎えたワールドカップ、比江島は5試合でたった22得点。 ターンオーバー(ボールを失った回数)は、チームワーストの記録を残してしまう。

そんなどん底の比江島を救ったのが、大先輩である田臥勇太だった。

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不振の後輩を心配する田臥は、「お前の持ち味は、そこじゃないと思う。何してくるか分かんないっていう。なんだ?!そのステップ。なんだ?!そのドリブルは?って」と喝。

失っていた、比江島らしい「1対1」からの積極的な攻め。田臥のアドバイスをきっかけに、自信を取り戻すため、比江島はひたすら練習に励んだ。

そして今シーズンのBリーグが開幕すると、さっそく、持ち味の「比江島ステップ」が飛びだす。さらに日本代表では見られなかった、攻めながらのパス。試合を重ねるごとに、コートの中で躍動していった。

「今は、(バスケが)楽しいです」

はにかみながらそう答えた比江島の表情は、どこまでも明るい。

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◆母との約束「ここから必ず成長する」

4月21日。母・淳子さんが亡くなって、ちょうど1年。比江島は報告のため母の墓前を訪れた。

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「お母さんにずっとオリンピックに出たいとか、オリンピックに連れて行くとか、そういう約束はしていたので。それは最初に報告しました」という比江島は、墓前の母と新たな約束を交わした。

「ここから必ず成長するし、またお母さんに胸を張って誇りに思う息子というか、プレイヤーというか。絶対にまた1段階違った自分が出せるように。それは約束したいと思っています」

この男は、何度でも上を向く。ずっと見守っていてくれる人との “約束” があるから。