11月22日に結婚を発表した、タレントの壇蜜さんと漫画家の清野とおるさん。その後、清野さんが自身のツイッターで、婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」の記載を誤り、名字が壇蜜さんの氏である「齋藤」に変わってしまったことを明かし、話題になりました。

 清野さんは、氏名変更による印鑑登録抹消通知も受け取っており、ネット上ではこうした公的書類の記入誤りについて、「こういう間違いは起こり得るよね」「提出後でも訂正できるの?」などの声が上がっています。

 提出・受理された婚姻届の訂正は可能なのでしょうか。グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。

「錯誤または遺漏」など一定条件で

Q.一般的に、役所における婚姻届の確認はどの程度行われるものなのでしょうか。

井上さん「役所に婚姻届を持っていった際、担当の職員が確認します。このとき、『婚姻後の夫婦の氏』の記載の誤りもチェックしてくれればいいのに…と思われるかもしれません。

しかし、婚姻届の確認は、夫になる人は18歳以上か▽妻になる人は16歳以上か▽2人とも独身か▽近親婚ではないか▽未成年の場合、父母の同意があるか▽証人2人の署名押印があるか、などの形式的な確認をすることとされており、『夫の氏を名乗るのか、妻の氏を名乗るのか』といった実質的な記載部分の確認までは認められていません。

そのため、婚姻届を出す当事者が不注意で記載を誤った場合、そのまま受理されてしまいます」

Q.提出・受理された婚姻届の記載の誤りを訂正することは可能でしょうか。

井上さん「『戸籍の記載が法律上許されない』『錯誤(勘違い)または遺漏(書き漏れなど)がある』『婚姻届などが無効』など一定の条件を満たす場合には、『戸籍の訂正』という手続きをすることになり、家庭裁判所に戸籍訂正許可の申し立てをすることができます。

申し立てをするためには、家事審判申立書に『戸籍訂正許可』と書き、必要事項を記入します。また、戸籍謄本などの添付書類を一緒に提出します。その後、家庭裁判所での審判を経て、戸籍訂正許可審判が確定したら、1カ月以内に審判所の謄本と確定証明書を添えて、役所に戸籍訂正申請をすることとなります。

今回のケースでは、『夫の氏とすべきところを勘違いして妻の氏を書いてしまった』ということで、錯誤を理由に戸籍訂正許可を申請することになるでしょう」

Q.一方で、訂正が認められないケースとしては、どのような理由・事情が考えられますか。

井上さん「先述通り、戸籍の訂正が認められるのは、戸籍の記載が法律上許されないものである場合や記載に錯誤や遺漏がある場合など、法律に規定がある場合に限られます。そのため、これらに該当しない場合には、戸籍の訂正は認められないこととなります」

Q.誤りの訂正が認められず、「婚姻後の夫婦の氏」が意図しない形で確定した場合、氏を変更することはできるのでしょうか。

井上さん「戸籍の訂正が認められなかった場合に氏を変更する方法として『氏の変更』があります。家庭裁判所に氏の変更許可の申し立てを行い、裁判所の許可が出た場合、氏の変更が認められることとなります。

氏の変更が認められるためには、『やむを得ない事情』が必要です。具体的には『氏の変更を行わなければ、その人の社会生活において著しい支障を来す場合』と考えられており、申し立ての際、一緒に提出する資料などを参考に裁判所が判断することとなります。

その他、あくまで考え得る一つの方法としてですが、一度離婚し、再婚するという方法もあります」

出生届のミスはどうなる?

Q.ネット上では、出生届についても「親が名前のふりがな・漢字を誤って届け出た」といったケースがしばしば聞かれます。この場合はどうなるのでしょうか。

井上さん「明らかに誤字と分かるような場合であれば、窓口で確認され、その場で訂正するといったことも可能でしょう。しかし、そうではない場合、一定の手続きが必要となる上、『ふりがな』『漢字』のどちらを変更するのかによって、手続きの内容が大きく異なります」

【ふりがなの変更】

結婚や相続手続きなどで、自分の戸籍を見た人であれば気付いている人も多いかと思いますが、現在の戸籍には『ふりがな』は書かれていません。戸籍法上は『“氏名”を記載してください』となっているだけで、『“ふりがな”も記載してください』とはなっていないのです。そのため、『漢字』の変更とは異なり、裁判所の許可がなくても、ふりがなを訂正することが可能です。

ただし、法律上記載が求められていないこともあってか、ふりがなの変更の手続きは地域によってまちまちのようです。詳しい手続きについては、住んでいる市区町村に問い合わせてください。

【漢字の変更】

『名の変更許可』を家庭裁判所に申し立てることとなります。これはどのような場合でも認められるものではなく、『社会生活において支障を来す場合』などの正当な事由が必要となり、単なる個人的な趣味や感情、信仰上の希望などだけでは変更できないとされています。役所が職権で、間違った漢字を正しい漢字に変える場合もあります。

Q.公的書類・届けの記入ミスについて、過去に何らかの事例はありますか。

井上さん「妻の氏とすべきところを、勘違いで夫の氏とした事例や、長女を『次女』、次女を『三女』と誤って記載した事例があります。いずれも、戸籍の訂正を認められた事例です」