東京都内の都市風景(写真:たっきー/PIXTA)

今はお金を貯めるよりも、お金を稼ぐほうがはるかに楽な時代だ。20年前と比べたら、副業などでいろいろできるのだ。そして、何より大切なのは「お金をたくさん持って、何をしたいのか?」ということだ。

言い換えるなら、「一度きりの人生を自分らしく幸せに生きるためにお金がいくら必要か考えたことがありますか?」ということになる。

まずは、あなたにとって「幸せな人生」に必要な予算を考えてみるべきだ。まず考えるべきなのはゴールなのだ。今後の人生でいくら稼ぐ必要があるのか。満足のいく暮らしにいくらの資産が必要なのか。そのゴールの感覚がなければ、いざ資産を作ろうという段になって、お金を増やすことにも、守ることにも失敗する。

元日本マイクロソフト社長で「HONZ」代表、成毛眞氏の著書『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』をもとに、本記事では誰しもの人生の予算において、大きなウェイトを占めるであろう、家や住む場所についてロジカルに考えてみる。

東京に住み続ける理由

私が東京に住み続けている理由は、稼げるからに加えて、好きな歌舞伎を見るためだけにほかならない。基本、家にいるのが大好きで、あまり出歩きたくない。

だが、唯一ふらっと出かけてもいいと思うのは吉祥寺だ。近くに長く住んでいるというのもあるが、吉祥寺の地方都市感がちょうどいい。ジャズのライブハウスに行っても、小声で話していてもいいし、半分寝ながらでもいられるのが心地いい。表参道のブルーノートへ行くとなると、きちんとした洋服を着て、真剣に聞かなければならなくなる。

吉祥寺はハーモニカ横丁もすばらしい。ぎゅっと詰まっていて、博多の屋台みたいである。だが、吉祥寺に住むのがいいと思っているのは、田舎者だ。駅徒歩15〜20分もざらで、吉祥寺には住宅地がない。吉祥寺をホームとするならば、住むべきは井の頭線の久我山、三鷹台、井の頭公園だ。

自分が家を買うとき、環八の外に住むのは決まっていた。環八を越えると値段ががくんと下がる。都心に住む人たちは、地方から出てきた成功者だ。自分が住む場所としては、違和感があった。それに比べ、武蔵野はずっと東京に住んでいる人が多く、本当の東京のような感じがする。

住む場所はある程度、住人の所得水準が高いところのほうがいいだろう。

住む場所にお金をかけるのは見えではない。安全を買うのだ。治安のよさ、悪さは殺人事件の発生率だけでは測れない。しかし、殺人事件の被害者の9割は犯人と面識があったという。隣人は危険のない人がいいだろう。警視庁の統計によると殺人に限らず犯罪の動機は、約4割がお金に起因する。

都内で住むところを考えたとき、私は世田谷や都心の空気が好きじゃない。

武蔵野の雰囲気が残り、さらに治安のいい場所となると、杉並区の南側だ。井の頭線沿線一択となる。鼻にかけたようなスノビッシュな空気がないのもいい。

子どものことを考えたとき、都心の超一等地に生まれ育ったら、野心が育たないのではないかと思う。野心というと少し大げさに聞こえるかもしれないが、高みを目指そうとしない子になるだろう。何代も続く、土地持ちの家系ならそれでもいいかもしれないが、これからの時代、つねに変化し続けられるような子でなければ生き残れない。子どものためにもちょうどいいのが、井の頭線沿線というわけだ。

もう1つ、井の頭線沿線のいいところは、駅同士の間隔が短いため、駅を中心とする街が小さい。すると、飲食店が少ないので、余計な出費が抑えられるのだ。自宅近くにおいしいお店が何軒もあれば、つい行ってしまうだろう。なければ、自宅で料理するしかない。

家族構成によって求める家の広さは違ってくると思うが、広い家はあまり必要ないと考えたほうがいい。あなたがもし40代のサラリーマンだとして、これから3人の子どもを持つことは考えにくいだろう。それに、進学や就職のタイミングで巣立つことを考えると、子どもは20年も親元にいないのだ。広さを妥協すれば、同じ金額でも駅近の家を借りることができる。

家は即金でしか買ってはいけない

住む場所を考えるというと、必ず「購入派か賃貸派か」という議論になる。私の結論は簡単だ。

即金で家を買えない人は絶対に賃貸にするべきだ。

先ほども少し触れたように、子どもが生まれたり、巣立ったりすることを考えると、その時々でベストな間取りというのは変化する。高齢夫婦2人で3〜4LDKなんて住もうものなら、掃除すら満足にできなくなる。

さらに、家の広さを求めたあまり、郊外の駅からバス必須の立地にある場合、日常の買い物や病院はどうするのか。ここ数年、高齢者の自動車事故が問題になっているように、ある程度の年齢になったら、車の運転もできなくなるのだ。賃貸であれば、夫婦2人になったとき、駅近のマンションに引っ越せばいい。間取りは1LDKでも十分だろう。

なぜ、ここまで賃貸をすすめるかというと、住宅ローンが悪いわけではない。

私は何が何でも借金をしたくないので、住宅ローンですら組みたくないのだが、そうではない人もいるだろう。それでも即金で家を購入でき、さらに生涯働かなくても大丈夫というくらいの資産を持たなければ、家は所有すべきではない。

今の日本の経済状況を考えると、不動産価格が下がるのは目に見えているからである。どこを買っても損をする可能性がほぼ100%だ。

仮に今、40代で湾岸のタワーマンションを買い、あと30〜40年そこに住むとしよう。40年後、その家はボロボロだ。さらに、ほかの住人も自分と同世代で、入れ替わりがないと、70〜80代の高齢者しか住んでいない状態になるだろう。

1970年代に作られた各地のニュータウンが今現在抱えている問題を、そのまま再現することになるのだ。所有者が鬼籍に入り、売りに出ても買い手がいない。不動産の価値以前に、少子高齢化の影響が大きく、人の数に対して家が余るのだ。住人が高齢者ばかりになると、補修費が払えない人も多数出てくる。

すると、外壁はぼろぼろ、廊下やエレベーターなどで修理が必要でも、予算がないから放置ということになるだろう。さらに悪いことに、お隣が孤独死し、数週間だれも気づかないまま、ということもありうる。

ただし、もしあなたが40代をとっくに過ぎていて、60代ならば買ってもいいかもしれない。住むのはせいぜい20〜30年だからだ。ただし、その家は住み捨てだ。子どもに遺産として渡すことは考えないほうがいい。20〜30年後、ほとんど価値がつかないだろう。60代ではローンが組めないから、この場合も即金で買えるほどの資産が必要になる。

国道16号の外ならば家を買ってもいい

関東でいえば、国道16号の内と外だと話が変わってくる。

16号の外ならば家を買ってもいい。なぜなら、元の価格がすでに安く、不動産価値が下がったとしても、資産に大きな影響はないからだ。

仮にだが、都心で1億円のタワーマンションを買い、売却時4000万円になってしまったら、6000万円の損失だ。郊外で3000万円の戸建てを買い、売却時にほぼ0円だとしても、損失は3000万円である。6000万円マイナスのほうがダメージを受けるのは明らかだ。3000万円ならば、賃貸に住み続けた場合の家賃を考えると、ちょうどトントンになるくらいだろう。

今、16号の外が住む場所として見直されてきている。東洋経済新報社の2018年の「住みよさランキング」によると、1位は千葉県印西市、4位は茨城県守谷市、7位は茨城県つくば市、10位は千葉県成田市だった。

ちなみに、印西市は2012年から7年連続トップだった。印西市はバブルが弾け、開発が一度止まったことで人の流入が緩やかになった。これにより、高齢者ばかりではなく幅広い世代が住み、バランスがとれている。

また、子育て支援やコミュニティーサービス、18歳までの医療費助成制度など、子どもを育てやすい環境を整えているのだ。

16号の外に住み、地元で仕事をし、家族や友人との時間を大切に過ごすのも幸せな人生だ。


16号の内側でどうしても家を買いたいというなら、「駅から徒歩7分以内」の物件でなければダメだ。この数字は絶対に譲ってはならない。

2017年から2018年にかけて、Googleの検索ワードの最大ボリュームが駅徒歩8分から7分に変わったのだ。おそらく今から10年前は、駅徒歩10分が最も多く検索されていただろう。ここ数年で、1分の短縮が格段に増えた。

これは、不動産屋はみんな知っていることだ。彼らは、駅徒歩10分の物件を安く売り出し、代わりに7分以内の物件を次々と建てている。私の自宅最寄り駅も、駅徒歩7分以内の新築マンションがいくつ建ったかわからない。さきほど、不動産を買ったらほぼ100%損をすると書いたが、駅徒歩7分以内なら値上がりする可能性もある。

いっそのことマレーシアやミャンマーに物件を買う

不動産の値上がりを期待するなら、いっそのこと海外の物件を買ってしまうのも手だ。ちょっとした語学力と才覚があれば、急成長している都市で仕事を見つけ、そこで家を買うのだ。今なら、マレーシアやミャンマーが面白いだろう。これらの都市ならインフレ率が高いので、家を買っても確実に売り抜けられる。急成長しているといっても、日本円が優位なうちに不動産や現地の通貨を買っておくのだ。

日本のインフレ率がこの10年、マイナスから1%をさまよっているのに対し、マレーシアは2〜3%である。

10年後、日本円へ変換したときに何倍にもなっているだろう。移住が難しいのなら、不動産を買って人に貸しておけばいい。そうすれば、売却時の利益に加え、家賃収入も得られるのだ。