先の日曜日。乾貴士が所属するエイバルにホームで惜敗したレガネスは、ルイス・センブラーノス監督を解任。新監督にハビエル・アギーレを迎えた。
 
 言わずと知れた元日本代表監督だ。就任して7ヶ月後、サラゴサ監督時代に、八百長に関与した疑いが浮上。2015年2月に解任の憂き目に遭った。
 
 その後、UAEのクラブチーム、エジプト代表監督を務めていた。八百長の話は疑いのまま。それはもはやすっかり過去の話になっている。
 
 疑わしきは罰せず。これは裁判における原則になるが、日本サッカー協会の場合は、疑わしいので解任した。そう言われても仕方がない。世間の目を意識した判断と言うべきだろう。特にスポンサー筋はこうした醜聞を嫌う。一般社会の常識に屈したと言うべきなのかもしれないが、いまとなっては神経質になりすぎた気がしてならない。半年間ぐらい休養させ、一時的に、代行監督に任せておけばと、こちらは当時、記したものだ。
 
 それほどそのサッカーがよかったからだ。就任が決まった瞬間から期待を寄せていた。スペインでそれまで、いい仕事をしていたからだが、日本代表就任会見でその話を聞いた瞬間、それはより確固たるモノになった。
 
 話が明快だったからだ。通訳を介しているとはいえ、サッカー監督に必要な要素を満たした人物であることが、発せられるその言葉によって明示されることになった。
 
「まず守備から……」とアギーレが言えば、ある記者はこう質問した。「守備を重点的にと仰いましたが、ディフェンダーの選考にはどういう点を留意するか」と。アギーレはこう返した。「攻守、両方こなせるバランスを持った選手を求めています。まずボールを奪うということが重要だと思います。そして奪ったボールをできるだけ的確に扱い攻めていく。FWにも、MFにもそれを求めたい。ディフェンス陣だけが守備をするとは、私は考えていません」

 しかし、これだけ言っても、まだ、次のような質問が傍らに座る原博実専務理事(当時)に浴びせられた。

「守備的なサッカーを重視する監督で、攻撃的サッカーは目指せるのか? 従来と路線が違うのではないか」

 これは5年前の話になるが、当時の質問のレベルはこんなものだった。攻撃的、守備的、それぞれの概念が判然としない質問が、記者会見の現場で普通に飛び交っていた。しかし、アギーレはそれに落胆することなく、わかりやすい言葉で丁寧に説明した。

 アギーレは、そこで使用する布陣まで言及した。「4-3-3だ」と、聞かれたわけでもないのに答えた。これは日本サッカー界のレベルは幾ばくか上昇させるような記者会見でもあった。

 それに引き替えと言いたくなるのが、森保監督の会見だ。通訳を介しているわけではない。こだわりのある日本語を駆使できるはずだが、その口を突いて出る言葉は凡庸だ。才気溢れる監督の言葉には聞こえない。率先して何かを語ることもない。

 アギーレのレガネス監督就任を聞くと、つい無い物ねだりをしたくなるのだ。監督、あるいは指導者には「オシムの言葉」ではないけれど、オリジナルでこの世界をリードするような台詞を吐いて欲しいものである。カリスマ性はそこに宿っている。

 先日、観戦取材に出かけた川崎フロンターレ対サンフレッチェ広島戦の試合後では、試合後の会見に臨んだ川崎・鬼木達監督の言葉に、それってどうなのと、引っかかりを覚える箇所があった。

 自軍の右サイドの話をしている最中、同監督はこう述べた。

「まっ、相手もそこ(対峙する左)がストロングですから」

 ストロングは形容詞だ。名詞ではない。ストロングポイントではないのか。この日に限った話ではない。鬼木監督は毎度、ストロングを口にする。鬼木監督に限った話ではない。多くの監督がこの言葉を口にする。さらに、テレビ解説者、評論家の中にも多くいる。指導者の現場で流行っている業界用語なのかもしれないが、公式な場でこうも多く使用されている現実を見ると首を傾げたくなる。それは言葉使いにこだわりがない人であることが、バレバレになる瞬間なのである。