10月5日に起きたUber Eatsをめぐる“事件”を通してシェアリングエコノミーの仕組みを解説する(写真:ablokhin/iStock)

スマートフォンがもたらした新たな事業ジャンルのひとつに“シェアリングエコノミー”がある。複数のネットワークサービスとセンサー、決済システムなどを結び付け、さまざまなかたちで“リソース”をシェア(共有)。リソースの稼働率を高めることでコストを下げ、またオンデマンドでちょうどいいリソースを確保する仲介を行うビジネスモデルだ。

民泊であればAirbnb、車による移動手段ならUberが最大手だが、ほかにも自転車、電動キックボードなどから、果ては自宅で振る舞う料理に至るまで、さまざまなシェアリングエコノミーが展開されている。

シェアリングエコノミーを応用したサービスは、いずれも安価で素早く、ちょうどいい品質で提供されることが“大多数”だ。サービス提供者は企業の場合もあれば、個人の場合もある。自転車やキックボードは企業があらかじめサービスを提供するハードウェアを用意する。

一方で価値観などで行き違いが起きやすいのが、個人が提供するサービスを個人が発注する場合。この場合、リソースをシェアする側と利用する側を結びつけるだけのサービスであるため、サービス品質に“ムラ”が生まれる。今回、問題となったケースはこちらだ。

実際に利用者にサービスを提供するのは、シェアリングエコノミーのプラットフォームを提供する事業者ではなく、あくまでもマッチングされた個人だからだ。

しかし、相互に評価を行うシステムであるため、互いの信頼関係に基づいて一定以上の品質が担保される(ことが多い)。

やや回りくどい書き方になったが、10月5日に起きたUber Eatsをめぐる出来事とその後の議論はシェアリングエコノミーの仕組み、もたらされる長所、短所の周知が必要であることをあらためて知らされた事例だ。

「Uber Eats、つけ麺事件」の背景

この日、Uber Eatsでつけ麺を発注した人物が、運搬時の瑕疵(つけ麺が調理されてから長時間経過していたうえ、つけ汁があふれてしまっていた)を確認。予定より30分以上遅配となっていたこととあわせ、受け取りを拒否。Uberにキャンセルを希望し、返金された。

一方、配達者は受け取りを拒否された料理を、届け先の集合住宅共有部に投棄していた。このことを発見した発注者が、共有部への投棄に関してUberにクレームを入れたものの「Uberの提供するシステムではなく配達人の問題であるため、自身で警察に届けてください」と、介入を拒否。投棄された料理の後始末は発注者が行った。


受け取り拒否をしたつけ麺は、マンションの共有部に捨てられていた(撮影:石野純也)

これら一連の経緯を、投棄された食事の写真とともに発注者がSNSに投稿したところ、食材の投棄がネットで炎上したうえ、ニュース番組で取り上げられるなど騒ぎが拡大したのだが、おそらく”なぜ炎上したのか”、多くの読者は想像できないのではないだろうか。

発端となった発注者が知人のジャーナリスト・石野純也氏であったため、一連の流れを自然と知ることになったが、騒ぎが拡大した背景には、3つの理由があるように見えた。

1つは、Uber Eatsが提供するサービスが、「食事の配達(出前)」そのものではなく、出前サービスを提供する配達員と発注者とを結び付ける「マッチング」であることが広く周知されていないことだ。今回、SNSをめぐる議論の中では少なからず「食事の出前」と同じ感覚での発言が見られた。

2つ目は、Uber Eatsで収益を上げている配達員が、直接、発注者として問題提起をした人物にクレームや事実確認を繰り返し行ったことも拍車をかけた。「普通の出前」と同様に捉えられると、「Uber Eats全体のサービス品質が悪い」と、自分たちの仕事にも関わってくるからだ。

配達員は、それぞれ個人としてマッチングサービスを利用して仕事を得ているため、Uber Eatsの信頼感が落ちることは自らの収入に直結する。発注者は携帯電話事業や端末に詳しいジャーナリストの石野純也さんで、問題を提起したツイッターアカウントに1万1000人のフォロワーがいたことも、危機感をあおる理由だったのかもしれない。

3つ目は、Uber側が配達人による料理の投棄に対して極めて消極的だったことがある。Uberが、”移動手段を持つ個人”と”移動手段(移送手段)ニーズを持つ個人”を結び付けるサービスでしかなく、サービスそのものは個人間で提供されるのだから、当然の対応ともいえる。投棄したのは配達人であり、Uberではないという主張には、一定の理もある。

「第三者の眼」からどう見えるかが重要

しかし、Uberというブランドを持つコンシューマー向けサービス事業者として、正しいリスク管理かといえば、そうはいえない。いったん「シェアリングエコノミーであること」を脇に置いて考えてみよう。

予定到着時刻を30分以上過ぎて到着し、つけ麺のつけ汁が大多数失われていただけではなく、配達人が料理を無断で投棄していたことを考えればキャンセルそのものには道理がある。Uberもこれを受け付けた。

投棄された食事に関して、Uberからすれば「配達人に責任があり、雇用主でもない単なるキャスティングしただけの自分たちに、配達人への強制力はない」ものの、発注者や無関係な第三者から見れば、「Uber Eatsというプラットフォーム」が作ったゴミ。

また食事が不完全な状態で届いた理由には、配達人個人のモラルだけではなく、遅配の原因と推測されるダブルピック(2つの注文をまとめて配送すること)の指示や、AIによる配達時間予測、ルート案内など、システム側の不完全さにも理由があると推測される。

いや、たとえUberのシステムに瑕疵がなかったとしても、ここは「(第三者の視点から見た)一般的な出前サービス」に近い対応をすべきだったはずだ。

こうした”個人と個人”を結び付けるサービスでは、利用者に安心を届けるため、一定水準以上の結果が得られるよう工夫することが肝要だ。でなければ、個人間サービスのマッチングなど安心して使えない。

だからこそUberの配達人になるには書類審査以外に、Uberオフィスに出向いての面接が必要になる。他のシェアリングエコノミーも同じだ。リソースの個人が提供し、個人の裁量でサービスが実施される危うさ、脆さをプラットフォーマーがラッピング(包装する)ことで成立している面がある。

本件に関しても、Uberは手数料の中に想定しうるトラブルに対処するコストを織り込んでいるはずだ。プラットフォーマーとして、一定水準以上のサービスを実現するための責任を負うべきではなかったのか。

Uber日本法人に問い合わせた

Uber日本法人は、この件をどのように捉えているのだろうか。

「悪質だと客観的に判断される行為についてはパートナー・お客さまへの警告(状況に応じたアカウント措置)など必要な措置を取っています」
と配達人に問題があった場合は、Uberから配達人への何らかのペナルティを与えるとしたうえで、「万が一到着した商品に問題があった場合、Uber Eatsアプリからヘルプページを通じてお問い合わせをいただくお願いをしています。確認が取れ次第お詫びとともに状況に応じて一部または全額ご返金をさせていただいております」と、利用者に被害が及ばないよう対処していると主張している。

また、今回のケースのようにマンションの共有部への投棄など、モラルだけでなく無関係な第三者にも迷惑となりうる問題に関して、Uber自身が解決することはないのか?と問い合わせてみたところ、明確なガイドラインを配達員に周知しているとしたうえで「アプリにおけるフィードバックや評価機能により、パートナーおよびお客さまの悪意ある行動などを阻止することができると考えています。 なお、悪質だと客観的に判断される行為については配達パートナーへの警告・アカウント停止など必要な措置を取っています」と、システム上の相互評価による実装で問題解決できると主張している。

もっとも、釈然としない部分は多く残る。

発注者は配達人のプライベート情報を知ることはできない。配達人に清掃や投棄した食事を持ち帰るよう促したくとも、発注者は連絡できないため、石野さんは自分自身で片付けをした。

その後、石野さんには「配達人を特定した」との連絡が入ったようだが、具体的な対策などについては言葉を濁したという。「利用者に後片付けや警察への通報などの負担を求めるのか?」の質問を筆者もUberに投げてみたが、「改めて対策を検討し、サービスの向上に努める所存です」と述べるにとどまっている。

当事者間だけでなく社会全体の認知も求められる

Uber Eatsはスマホアプリを通じ、加盟店が提供するテイクアウト可能な料理をUber Eatsに登録した配達員が届けるサービスだが、元はUber発祥の地であるアメリカで登録ドライバーが空き時間を使って食事を配達するというアイデアから始まったサービスだ。

アメリカで利用すると、黒塗りのリムジン運転手が届けてくれることも多い。街中のいたるところに多数の契約ドライバーがいるアメリカUberならではの効率のよい配達代行サービスともいえる。

一方で日本でのUberは法的な制約もあり、シェアリングエコノミーとしての性格よりも、タクシー/ハイヤーの配車サービスの性格が強い。いわゆる”白タク”であるUberXも、同じ車両を複数のグループが共有して移動手段を提供するUberPoolも実現していない。

一方でUber Eatsで配達員には資格や営業許可といった法的な制約がないため、アメリカで提供されているUberのサービス(UberXやUberPool)に近い、個人と個人を結び付ける仕組みになっている。

民泊なども含め、こうしたシェアリングエコノミーと既存サービスとのギャップが生むトラブルや行き違いは、さまざまな業界で今後も起こりうるだろう。プラットフォーマーには、問題発生時の迅速な対応を求めたいが、一方で社会全体としてシェアリングエコノミーにどう対処していくのか、法律面での整備も含めて見直す必要があるだろう。